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リアクション
夜、空京。
「アイシャちゃん、早く元気になってくれたらいいのになぁ。今こんな事思うのは悪い事かもしれないけど、アイシャちゃんが初めて出会った時のように普通の女の子に戻って来てくれた事は嬉しいなぁ」
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は夜にも関わらず平行世界からの来客で賑わう中、吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)の見舞いに向かっていた。手には見舞いの花束があった。時間が空く度にアイシャの見舞いに足繁く通っているのだ。アイシャのためなら夜だろうが関係無い。
「……少しでも」
詩穂は手に持った花束に目を落とした時、
「ん?」
空京大学からの連絡だった。
その内容は
「病のアイシャちゃんが通りで倒れているのを保護して詩穂を呼んでいたって……でも」
病院が大学を経由して詩穂に知らせが届いたのだ。
「アイシャちゃんが通りで倒れるってそんなはずは……という事は平行世界の……」
連絡を終えた詩穂は小首を傾げるもすぐに察した。自分を呼ぶのは平行世界のアイシャであると。
「……ごめんね、アイシャちゃん、後で会いに来るからね」
詩穂は小さく花束に向かってこちらのアイシャに謝った後、背を向けた。自分を呼ぶ平行世界のアイシャに会うために駆けた。
付近の病院の廊下。
「アイシャちゃんがいる病室は……」
詩穂は病院に着くなり廊下を走り、平行世界アイシャが眠る病室を目指した。走る事を注意されながらも詩穂は急ぐ。
そして、目的の病室に辿り着く。
「……ここに平行世界のアイシャちゃんがいる」
じっと病室の扉を見つめた後、ノブに手を掛けるなり一気に開けて
「来たよ、アイシャちゃん」
明るい口調で部屋に入った。手にはこちらのアイシャに渡すために用意した花束を持ったままで。
「……詩穂」
明るい声に気付いた平行世界アイシャはゆっくりと顔を向け、弱々しく詩穂に微笑みかけた。
「……詩穂……ごめんなさい……詩穂は私の世界の人じゃないのに……呼んでしまい」
平行世界アイシャは申し訳なさそうに謝った。病に臥せていたためこちらに呼び寄せられた途端、通りに倒れ保護され病院のベッドという訳なのだ。目覚めたのはつい先程で自分の世界で見舞いに来ていた詩穂がおらず訊ねた所、こうしてこちらの詩穂がやって来る事となったのだ。詩穂に連絡がいった後に平行世界アイシャは騒ぎの事を知った。
「そんな事気にしないで。平行世界だろうとこちらの世界だろうとアイシャちゃんはアイシャちゃん。詩穂にとって大切な人だよ?」
詩穂は平行世界アイシャを元気にしたくて明るい笑顔を向けた。どちらのアイシャも詩穂にとっては大切だから。
「…………ありがとございます」
平行世界アイシャは詩穂の優しさに嬉しくなり礼を言った。
「……何か元気になる方法は無い?」
「…………詩穂が色々……調べてくれて……見付けてくれて……でも……」
訊ねる詩穂に平行世界アイシャは弱々しく言い出しにくそうにする。
何となく方法を察した詩穂は
「……血だね。いいよ。詩穂で役に立てるなら」
いつかの時のように首筋を平行世界アイシャに捧げた。
「……ごめんなさい」
一言謝るなり平行世界アイシャは詩穂の首筋から吸血した。
そして吸血を終えると
「……楽になりました。ありがとうございます」
平行世界アイシャは軽く微笑みながら感謝の言葉を口にした。
「良かった。そうそう、アイシャちゃん、ごめんなさいは言っちゃダメ」
安堵した後、詩穂は平行世界アイシャの発言を思い出すなり怒り顔になった。
「……あちらの詩穂もそう言ってくれました。こっちが生きててくれてありがとうって言わないといけないんだからと」
平行世界アイシャはクスリと笑みをこぼした。自分の世界でもこちらの世界でも詩穂は同じだと。
「その通りだよ!」
詩穂は力強く言った。
「こちらの世界の私も大変だと聞きました。こちらの世界の私も早く元気になって欲しいです。私も根治出来るように目指しているので」
平行世界アイシャはふとこちらの世界の自分について言った。ここに運ばれて自分の身元を確認する病院スタッフの話から大体の事情は聞いて知ったのだ。
「そうなんだ。向こうの詩穂は何を見付けたの?」
「……あの本です。詩穂は私が眠っている時よく病の治療法を調べていたんです。あれは詩穂が忘れていった物でこちらに来る時に丁度詩穂に手渡していた時だったんです」
詩穂の質問に平行世界アイシャは自分と一緒に来た本が置かれているサイドテーブルを示した。
「……この本が、付箋がある所だね」
詩穂は本を手に取り、付箋が貼ってあるページを開いて
「…………(吸血鬼は孤独になればなるほど飢えが強くなり、他人の血を食らう。誰かに心から愛される、そしてその人を心から愛する事により、飢えは満たされ花から精を吸うだけで生きられるようになる、かぁ)」
中身を確認してから本を閉じ、吸血で元気になった事に納得し、同時に向こうの自分もアイシャのために必死に頑張っているのだと知った。
「ありがとう。明日の朝、戻る事が出来るからきっと返す事が出来るよ」
詩穂は本を元に戻し、平行世界アイシャを励ました。
「はい」
平行世界アイシャは笑顔でうなずいた。
「……(両方のアイシャちゃんが早く元気になるといいな)」
平行世界アイシャの笑顔にこちらのアイシャの笑顔を重ねながら詩穂は切に祈った。両世界のアイシャが元気になる事を。
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