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平行世界の人々と過ごす一日

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平行世界の人々と過ごす一日
平行世界の人々と過ごす一日 平行世界の人々と過ごす一日

リアクション

 朝、ツァンダ、雑貨『いさり火』。

「誰だ。まだ開店はしていないというのに」
 店のドアを叩く音にハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は急いで駆けつけ開けた。
「おい、まさか」
 来客の姿を確認した途端、ハイコドは驚きの顔に。
 そこへ
「騒がしいけど、何かあった? ハコー」
「お客さん?」
 ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)ニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)が騒がしさが気になり駆けつけた。
「ハコ兄様、どうしました?」
 獣化して白いアンゴラ兎になっている白銀 風花(しろがね・ふうか)がぴょこんとやって来た。
 そして、
「……」
 じっと風花は目の前の白いアンゴラ兎を見るなり後ろ足で立った。すると向かいの兎も同じく後ろ足で立つ。次に右前足上げると相手は左前足を上げる。じっと見つめたかと思ったら突然ころころ転がり最後は決めポーズ。風花の向かいの兎も鏡合わせのように同じ動きした。
 その結果、
「ハコ兄様、ここに鏡がありますわ」
「ソランさん、ここに鏡があるわ」
 風花と相手の兎はそれぞれハイコドとソランに振り返った。
「おいおい」
 聞いた皆は思わずツッコミを入れるのだった。
 そう、目の前にいるのは平行世界のハイコド達である。
 改めて両世界の住人達は挨拶を交わす事となった。
「俺はソラン・ジーバルスでこっちの可愛いのが俺の嫁のモモ」
「……よろしく」
 平行世界のジーバルス夫妻ことソランとモモが挨拶。
「あぁ。というか、まんま性転換した俺の姿だな。ちっこいし」
 ハイコドは改めてモモを見た。150cmの愛らしい女の子で顔には傷はなく左腕も義手ではない。
「ほわあっ、やだぁ、ハコ……じゃなくてモモかわいい〜」
 ソランはモモの愛らしさに堪らず抱き締めた。
「あうぅ、大きい(むぅ、メロンいやスイカ……)」
 モモはソランの大きな胸を間近に嫉妬の炎がめらり。
「もう、かわいい〜」
 モモを解放してもソランはモモを舐め見て胸をときめかせまくっていた。
「……あの」
 モモはひたすら困惑するばかり。
「……もうソラったら。でも確かにモモちゃん、かわいいわね」
 ニーナはソランの様子に呆れつつもモモの可愛さは認めていた。
 モモに癒された後、
「で、私がソランよ。こっちが旦那のハイコド」
 ソランは改めて自分とハイコドを紹介した。
「ほう、こっちの俺は女か」
 180cmのイケメンソランはじっと頭から爪先までソランを見たかと思ったら手を伸ばし、
「いい女だな、お前」
 ソランの胸を揉み、ニヤリ。
 嫌がる行動をするかと思いきやソランは
「そういうあんたもイケメンね」
 イケメンソランの股間を握り、ニヤリ。
 そして、
「流石、俺」
「流石、私」
 ソランとソランは顔を見合わせる。下ネタな清々しい挨拶である。両ソランとも性別は違えど思考回路は同じで下ネタばかりのようだ。
 当然、周囲の反応は
「何やっているの、ソラ!」
「清々しいほど中身同じだな」
 ニーナとハイコドは呆れた。
「おわっと、誰かと思えば姉貴! こっちじゃいるんだな」
 挨拶を終えたイケメンソランはニーナの姿を確認するなり驚きを見せた。
「……えぇ、ニーナよ。やっぱりそちらにはいないのね」
 ニーナは平行世界の自分がいない事は予想済みのようであった。なぜならここにいるニーナは、数多の平行世界の死んだニーナが集まった姿だからだ。
「あぁ、パラレルでもこうして会えて嬉しいぜ」
 イケメンソランは心底嬉しそうであった。
「……そう言ってくれると嬉しいわ」
 ニーナは複雑な笑みを浮かべた。

 この間。
「ニミュ・ランドバードだよ」
「白銀風花ですわ。家族は元気ですか?(……この子が家族がいる世界の私)」
 ニミュと風花は獣人化して挨拶を交わした。風花は以前の上映会でニミュの事を知っているので家族の事を訊ねた。
「元気だけど私の事知っているの?」
 初対面であるニミュは風花が自分の事を知っているのに驚き訊ねた。
「はい。実は……」
 風花は自分が知っている理由を明かした。
「それで知っているんだね。こちらのお父さんとお母さんは元気?」
 ニミュは納得するなり無邪気にこちらの両親について訊ねた。
「それは……」
 風花は顔色を曇らせて話した。自分には現在両親がいない事やわたげうさぎの里で兎として生活した事などを。
「辛い事聞いてごめんね」
 無神経な事を聞いてしまったとニミュは反省して謝った。
「いいえ、気にしないで下さい。私は大丈夫ですから。それより色々教えて欲しいですわ」
 風花は笑顔で言うなりお喋りをしたく誘った。
「いいよ。その代わりわたげうさぎの里を教えて」
「あら、知らないのですか?」
「うん、だからお願い」
「えぇ、もちろんですわ」
 風花の身の上話で出た聞き知らない単語にニミュは興味を持った。集落で暮らす彼女は知らなくて当然なのかもしれない。風花は小首を傾げた後、にっこりと教えると約束した。ちなみにニミュは平行世界のジーバルス夫婦とは知り合い程度。
 挨拶を終えた後、店先で立ち話はまずいとこちらのハイコド達は奥へと平行世界の来客達を奥へ案内した。当然店はお休み。

 移動して落ち着いたところで
「まず、いいかしら、ソラン、モモちゃん。私の中の一人が貴方達に伝えたい言葉があると言っているの。聞いてくれるかしら」
 ニーナは真剣な顔で平行世界のジーバルス夫妻を見た。
「もちろん」
「言いたい事?」
 ニーナの空気のせいかソランもモモも余計な事は口走らず大人しくする。
「……生き返らせようとしてくれたのはありがたいがホラー映画の化け物みたいな姿で復活はやめて欲しかったぞ、と」
 ニーナは少し間を置いてからゆっくりともう一人の自分の思いを言葉にした。ちなみ復活した後即焼却処分されたという。
「そして嬉しかったけどこれからは二人仲良く生きなさいと」
 ニーナは最後に笑顔で話を締めくくった。
「姉貴がそんな事を」
「……」
 イケメンソランは姉の言葉を胸に入れるなりどこか切なそうな顔をしてた。モモはそんなソランの顔を見上げ心配そうな顔をしていた。
「二人がこの先の人生で自分の事で悔やんだり泣いたりして欲しくないのよ」
 ニーナはイケメンソランの姉の言葉ではなく自身の見解を口にした。世界は違えどソランは大切な家族。幸せになって欲しいという願いは同じだから。
「そうだな。姉貴の言葉を伝えてくれてありがとう。言われなくとも俺達はずっと仲良しさ。な、モモ」
 イケメンソランはニッとニーナに笑いかけるなり、嫁に明るい顔を向けた。
「ソラン」
 夫の表情にほっとしながら微笑み返した。
「どういたしまして。ただし、ここにいる間、バカな事をしたらお姉ちゃんとして全力で止めるから覚悟するのよ。ソラもよ」
 ニーナは二人のソランにお茶目に言った。
「馬鹿な事って……まだ何もしていないぞ」
「お姉ちゃん、何で私の名前まで出すのよ」
 弟と妹は非難囂々だが
「大変だわ。バカな妹と弟がいると」
 ニーナは肩をすくめるばかり。
「おいおい」
「もう」
 弟と妹は口を尖らせるばかりだったが、どこか嬉しそうでもあった。とくに姉を失ったイケメンソランは。
 ソランはイケメンソランを地下の実験室へ案内した。
 モモにはクッキーが振る舞われた。

 その間。
「とても賑やかで……」
 ニミュは両親や親戚の事、里での自然と共に生きる生活についてあれこれ話して聞かせた。
「そうですか。違う世界ですが、幸せそうで嬉しいです」
 風花は楽しそうに耳を傾けていた。
「ありがとう。それで次はわたげうさぎの里を教えて」
「はい。同じ所にあるといいのですが……地図だとこの位置ですわ」
 ニミュの質問に風花はこの世界の地図を持って来て里の場所を示した。
「どんな生活をしていたの?」
「生活は……」
 好奇心で自分が示した場所に視線を注ぐニミュに風花は里の事を話して聞かせた。
「向こうに帰ったら行ってみたいなぁ。お母さんとお父さんにも話すよ。こちらの私に会った事全部」
 話を聞いたニミュはじっと風花に笑顔を向けながら両親の事を頭に浮かべていた。その姿を風花はただ嬉しそうに見ていた。

「美味しいか?(クッキー食べてる姿なんかリスにそっくりだな……ちょっと驚かせてみるか)」
 ハイコドはニーナの伝言を聞き終えクッキーを頬張るモモの頭をわしゃわしゃしながら悪戯を考えていた。
「美味しい」
 ハイコドの企みを知らぬモモはにっこりハイコドの方に振り返った。
 その時、
「!!!」
 モモの目は点になるやいなや
「う、腕がががががあ……何か蛇みたいなのがーー、ソラン!」
 顔を青くして震え始めた。ハイコドが左腕取りにょろろと触手を見せたのだ。
「どうした、モモ。地下の実験室はなかなか面白いぞ」
 地下室から戻って来たイケメンソランは妻の悲鳴を聞くなり駆けつけて来た。
 到着する少し前にハイコドは左腕を元に戻した。
「あれ? 何でもない」
 触手が消えた理由を知らぬモモは周囲を見回した後、来た旦那に異常なしの報告をした。
「そうか。何かあったら言えよ。おい、喉が渇いたんだけど」
 イケメンソランはモモの頭を撫でるなり飲み物を所望。
「はいはい、用意するわね」
 ニーナは急いで飲み物を用意していると
「あ、お姉ちゃん、私も」
 ソランも来て注文。
 ニーナに飲み物を貰うなり
「これ飲んだら最近完成したとっておきを見せてあげるわよ」
「とっておきとは興味をそそりやがって」
 ソランとイケメンソランはニヤリと目配せをするなり喉を潤してから地下の実験室に戻った。
「……」
 夫を見送った後、モモはまたクッキーを食べ始めた。
 そして、
「うわぁ、影の中からオオカミさんがー!?」
 またまた驚きの声を上げた。ハイコドが影の中から裳之黒の顔を出させたのだ。
「…………(凄い恐がりようだな。ここまでにしておくか)」
 さすがにこれ以上は気の毒だと思ったハイコドは驚かすのをやめて裳之黒を引っ込めた。
「モモ、大丈夫か。わたげうさぎの所に案内するが」
「……うん」
 ハイコドはお詫びにとモモをわたげうさぎがいる所へと案内した。

 わたげうさぎがいる所。

「もふもふしていて可愛い……あのブラッシングありがとう」
「いいって(しかし、おかしな感じだな。自分が自分の尻尾のブラッシングをするとは)」
 ハイコドはわたげうさぎを抱っこしているモモの尻尾を丁寧にブラッシングしていた。
 丁度、終わった所で
「いたいた、ねぇ、私と一緒に遊ぼう。可愛い服が色々あるんだ♪」
「ちょ、ちょっと」
 イケメンソランの相手を終えたソランが現れ、戸惑うモモに構わず手を引っ張ってどこかに引っ張って行った。
「俺のモモに変な事するなよー」
「りょーかい!」
 厳しい言葉を投げかけるイケメンソランにソランは軽く答えていた。

 その後、
「あぁ、もう可愛い」
 ソランは可愛い服を着たモモの姿にメロメロ。手には着て貰う予定の服を持っている。
「……そうかな。この服はとても可愛いけど」
 すっかりソランの着せ替え人形状態のモモは頬を染めて困り顔。なぜなら今着ている服は数十着目で着る度にソランから雨のように褒め言葉を貰うものだから。
「服だけじゃなくて着る人が可愛いから」
 ソランはまたデレデレとモモを褒める。先程からずっとこればかり。
 たっぷりと堪能したら手に持っていた服を差し出し
「次これね!」
 目を輝かせながら言うのだった。
「……はい」
 モモはその服を受け取るのだった。

 一方、モモの着せ替え中。
「なぁソラン、モモって戦えるのか?」
 ハイコドはおもむろに訊ねた。
「何、言ってんだ。俺の大事なモモを戦わせたり出来るか。あの綺麗な肌に傷が付く事を想像するだけでも我慢ならないってのに」
 イケメンソランは息巻きながら即答。
「……すごい過保護だな」
 イケメンソランのモモの過保護ぶりに少々呆れた。考えるとここに来てから何かとモモを気にしている節は確かにあった。
「当然だろ、俺の嫁だぞ。それにな、モモの分は俺が戦えば済む事だからな」
 イケメンソランは腕を組み、当然とばかりに言い放った。
「ま、確かにそうだろうけど」
 その言葉しかハイコドにはイケメンソランに言う事が出来なかった。
「せっかくだから組手でもするか?」
「いいな」
 イケメンソランの誘いにハイコドはニヤリと口元を歪めて受けた。
 そして二人は組手を始めた。
 何やかんやで皆それぞれ楽しんでいた。

 翌朝、両世界のハイコド達は惜しみながらも別れの言葉を交わした。
 そんな中、
「ソラン、昨日教えたとっておきの薬」
「おう、ありがとうな」
 ソランはイケメンソランと昨日約束していたとっておきの薬こと性転換薬をあるだけこっそりと渡し、イケメンソランはニヤリと口元に笑みながらこっそりと受け取ったという。