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一月遅れの新年会

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一月遅れの新年会

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序章
 
「はあ……はあ……おい、早くドアを固く閉ざせ!」
「あ、ああ。分かってる。これをドアの前に……と」
 新年明けの葦原明倫館の一室。何かの準備室なのだろう、いろいろな実験器具や標本が棚や机にずらりと並べられている。
 そんな部屋のドアに鍵を掛け、重そうな道具がいっぱい乗った机をドアの前に設置。外側から押して開けるタイプのドアは固く閉ざされた。
「よし、これでいいだろ……おい、大丈夫か?」
 部屋の奥、窓際の壁に背を預けてもたれかかる男に、ドアを閉ざした男は問いかける。
「ぐ……右腕をやっちまってる。武器も上手く握れねえ。そういうお前こそ、左足どうなんだよ。さっき奴らに蹴られて、だいぶイヤな音したぜ」
「心配すんな。携帯の表面にヒビが入っただけだ。俺自身には大してダメージがねえよ」
「畜生……なんで……」
 右腕を抑え、男はドアの向こうをにらむ。その向こうにいるであろう、奴らを恨めしく思いながら。
「なんでこんな、新年を祝うめでてぇ宴が、あんな地獄絵図に変わるんだよ」
「ほかの皆は、無事だろうか。俺らみてえなオッサンはいいけど、まだ十代半ばの女子生徒とかもいただろ?」
「あ、ああ。奴らに真っ先に狙いを付けられてたな。何人かは外に逃がしたが……どうだかな」
「こんなことなら、アドレスくらい交換しとけば良かったぜ。無事だといいんだが……」
 と、そうこう話をしているうちに、ドアの向こうから荒々しい足音が聞こえてくる。
「う、来たぜ。奴らだ。声をひそめろ」
 ドアの向こうからは、ガラスのようなモノが砕ける音と、鬼のような唸り声が聞こえてくる。かと思うと、荒々しくどこかの教室のドアを開ける音がしたり、また別の何かが壊れる音がしたりと、途端に騒がしくなった。
 そしてその音は、徐々に彼らに近づいてくる。
「ち、畜生……奴ら、部屋を一つ一つ見て回ってるみてえだ。ここも見つかるのも時間の問題だぞ」
「し、仕方ねえ……こうなったら!」
 男はポケットから携帯電話を取り出した。ディスプレイや表面にヒビが入っているが、使えるようだ。
「お、おい、まさか……外に、他の契約者たちに助けを求めるつもりか?」
「そうする以外にねえだろ。俺たちじゃもう手に負えねえ」
「それは認めるが……分かってんのか? 奴らは確かに凶暴化してるし、数も多いけど……」
 一息の間。
「単なる酔っ払いの阿呆どもだぞ! 宴会に来てる契約者もいるし、一晩もすれば酔いつぶれるだろ! こんなバカげた騒ぎで救援を呼ぶなんて……!」
「そうこうしているとそのうち見つかって、裸にされたり無理矢理踊らされたり、酒を浴びるように飲まされるぞ! 俺たちだけじゃなく、うら若い女の子たちも全員巻き込んでな!」
 う、と腕を怪我した男は反論を引っ込めた。
「く、くそー! 後先考えずにあんな強い酒をがぶ飲みしやがって! 誰だ、イッキ飲み勝負を始めたバカは!」
「そういや、俺流カクテルとかいってテキトーに色んな酒を混ぜ合わせて飲ませてたバカもいたな。びっくりするくらい不味いモン飲ませて悪酔いさせやがって……も、もしもし! 俺だ!」
 どん、とついに男たちの隠れる部屋のドアが叩かれた。
 あんだ、あかねーぞ、と舌足らずな声が聞こえる。
「や、やべえ……来た!」
「た、頼む! すぐに仲間を集めて、学校に来てくれ! 俺たちはいい! 若い生徒たちが酔っ払いに襲われて、学校内に隠れてる! しかも校長先生まで暴れてるんだ! 誰かが悲惨な目に遭う前に皆を止めてくれ!」
 ばきり、と部屋のドアにヒビが入り始めた。
「……頼んだぜ」
 男は携帯の通話を切ると、ファイティングポーズをとる。
「せめててめえらだけでも、ツブしておいてやるぜ!」
「っしゃあ! 付き合うぜ!」
 そうして、男二人が凶暴な酔っ払いと激しい争いを繰り広げ始めた。

 こうして、騒ぎを聞きつけた契約者の面々が葦原明倫館に駆け付けた。
 酔っ払いという、下手をすればモンスターなんかよりもたちの悪い悪魔たちがはびこる巣窟へと。
 のちに、ほぼ全裸で救助された男性二人は以下のように語る。

「オイ、ウォッカなんて強烈な酒を持って来たやつはどこのどいつか分かるか? 分かったらそいつをブン殴っといてくれ。強烈にな!」
「あと、俺たちをやった酔っ払いどもに青汁かなんかを大量に混ぜた代物を飲ませてやってくれないか。贅沢言うなら不味さで悶絶してるところを動画でネット配信でもしてやってほしいんだけどな」