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リアクション
「打開策ならあるよ」
悪魔に立ちはだかる桜庭 愛(さくらば・まな)は彼を見据えて強く言い放つ。
対する悪魔は楽しそうに「ほう?」と問い返す。
「この戦いを『楽しいアクション映画』だと観客たちに思わせればいい。 ただ壊すだけじゃ真の解決にはならない。 どう倒すかが問題なんだよ?」
悪魔の言う狂乱の宴。
狡猾な悪魔のことだ、自分達の戦いによる暴力すらもネタにし、観客達に暴虐の狂気を刻み込もうとしているのだろう。
「いやはや、流石は『プロ』。 魅せることに精通していらっしゃる」
「観客を魅了させながら戦いに勝つ。 レスラーなら当然だよね」
つまるところ、愛にとってはいつも通りの試合をしてしまえばいいのだ。
それで暴虐のショーは正義と悪によるプロレスの試合へと変貌する。
「さぁー、私の今宵最後の対戦相手は、悪魔のサーカス」
悪魔を指さし、観客に呼びかける。
幸い、彼らは愛を見つめ、言葉を聞いてるようだ。
「獰猛な猛獣使いに、狡猾な道化師、悪魔の手先たち。 でもみんなの応援があれば私達は必ず『勝つ』だから見て、悪に屈しない正義の姿を」
アピールが終わり次第、愛は勢いよく道化師の1人へと突撃し、勢いのままにラリアットを食らわせて引き倒す。
そのまま後方に控えていた次の道化師を背後から抱えると、力任せに持ち上げる。
「これで決めてあげるね!」
大地をしっかりと踏みしめ、勢いよく後方へと反り投げる。
美しい弧を描きながらズドン、という音と共にジャーマンスープレックスが決まると観客から一斉に歓声が沸き上がる。
「狂乱の宴から打って変わってプロレスショー。 面白いじゃない!」
観客席から飛び出し、中央広場へと躍りでたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)。
羽織っていたコートを投げ捨て、戦闘の構えを取る。
「おやおや、新たな乱入者! 今宵はプロレスラーが3人も居るとは驚きです!」
ビキニ姿のセレンの四肢を舐める様に見た悪魔は彼女もレスラーと判断したようだ。
いや、もしくはわかっていて煽っているのか。
「ふん、どうとでも言いなさい。 今からぶっ壊してやるから」
セレンが威圧すると、悪魔は「怖い怖い」とだけ言って空中へ飛び上がって行った。
そして、彼女の目の前に残されたのは大量の道化師と猛獣達。
「やってやろうじゃないの!」
敵陣へと飛び込んだセレンは正面の道化師がナイフを振るうより早く殴り倒す。
セレンに群がる様に道化師が寄ってくるが、近寄るよりも先に電撃を纏った弾丸が彼らを撃ち抜いていく。
「ふう、全く世話がかかるんだから」
暴れまわるセレンの後方。
ほとんど観客席の位置からセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はセレンの掩護をしていた。
道化師連中がこちらに向かい次第自分も広場に躍り出るつもりだったが、彼らは一向にこちらへくる気配がない。
「……さっきプロレスラーが3人、って言ってたわよね」
悪魔は確かに3人と言った。
そんな恰好をしているのは自分と恋人、そして愛を含めて他にはいないだろう。
最も、自分達はプロレスラーになったつもりはないのだが。
「舐められてるのかしらね」
それはそれで頭に来るが、今の自分はセレンのバックアップだと割り切り狙撃へと専念する。
「にやぁーっ!」
突如響き渡る、竜のような彷徨。
勿論、竜ではないがミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の発した咆哮はセレンへ飛びかかろうとしたライオンや虎といった猛獣を怯ませていた。
「すっごいシャウト!」
道化師にパワーボムをかましていた愛はミルディアの咆哮を見て目を丸くしている。
それほどに凄い声量で、観客の歓声が吹き飛ぶほどだ。
最も、彼女が四つん這いの体勢で獣の真似をしていなければ再び歓声が上がったのだろうが。
「……なに、あれ」
観客席から見ていたセレアナはそう言わざるを得なかった。
あろうことか、彼女はそのままライオンに飛びかかり首元に噛みついたのだ。
暴れまわるライオンと、決して離れないミルディア。
「離さないもん!」
転げまわったり、ライオンの反撃で衣装の所々が裂けたりしているが、次第にライオンはおとなしくなった。
完全に負けを認めたのか、力尽きたのはかわからないが最終的には霧となって消えてしまう。
「とりあえずはこれでいいかな? ってみんな何? その目……?」
観客も、他の契約者達も皆変な物を見るような眼をしている。
「素晴らしいですね、その我武者羅さ!」
悪魔以外は。
「……どうも、次はあなたの首元に噛みつこうかな?」
口元を拭い、悪魔に向き直る。
「それは怖い、ですがまだ『魔獣』は居ますよ?」
悪魔の姿がふっと闇に消えると、どすんと音を立てて魔獣『ミノタウロス』が姿を現した。
大きな咆哮の後、手に持った大斧を振りかぶるが、突然足を崩して倒れこむ。
「ふーん、魔獣かぁ……面白そうじゃん」
闇から現れたのはイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)。
手に持つナイフでミノタウロスのかかとを斬ったのだろう。
動きの鈍くなった魔獣の頭部に投擲されたナイフが突き刺さる。
「ね? ケダモノの処理なんて簡単でしょ」
「いやはや、これはこれは。 ではもう少しお相手願いたい!」
いつの間にか、イシュタンは3匹のミノタウロスに取り囲まれている。
「むむ、これは厄介だね」
「ん〜、道化相手よりは馬の方が狩りやすいよ?」
「あれは、牛」
ミルディアとイシュタンは軽口をかわしながら、ミノタウロスに相対すると正面の1体を弾丸が貫き、横から飛び出したセレンが顔面から殴り倒す。
「セレン!」
魔獣を殴り倒したところで、セレアナがセレンの名を叫ぶ。
ぞくりと背後から迫る殺気を感じ、セレンが咄嗟に身を翻すと彼女が立っていた場所にはナイフを地面に突き立てた少女が2人、ケタケタと笑っていた。
「空中ブランコからか……」
上を見上げると、空中ブランコで舞いながらナイフを突き立てる相手を見据えている少女達が見える。
「悪魔だけあって、本当に根性の歪んだことをするわね」
セレンが顔をしかめると、見計らったように悪魔は彼女の前へと降りてくる。
「ええ、ええ、悪魔ですから! 子供を相手に武器を振るえぬ皆様を見るのはそれはもう」
「……で、それがどうしたっていうのよ?」
めきっ、という音と共に吹き飛ぶ少女。
それと同時にもう片方の少女は脳天を撃ち抜かれ、霧散する。
「これはこれは……」
ふふ、と笑いながら悪魔は上空へと戻って行った。
「……相手から見れば私たちの方が根性歪んでるんじゃない?」
先ほど放った銃を構えながら、皮肉を言いつつもセレアナはセレンの無事を確かめていた。