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葦原島の自由な一日



「うーん、これなんかどうです?」
「ちょっと、大胆じゃないですか?」
 居間で通販カタログを見ながら、ヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)が水着を物色していた。
「大丈夫。セレスさんなら、きっと似合いますよー」
「でも、ちょっと……」
 カタログを子細に見ながら、セレスティア・レインがちょっと考え込む。
「二人とも、何をしておるのじゃ」
 そこへやってきたルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が、カタログをのぞき込む。
「少し余裕ができたので、新しい水着がほしいかなあっと思ったのですけれど……」
「うん、夏ですし、海ですし、水着ですし……」
 セレスティア・レインとヨン・ナイフィードが答える。
 実際、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)家は、今まで酷い借金生活だったのだ。原因は、アキラ・セイルーンの無駄遣いと、荒いイコン使いによる莫大な修理費だった。
 まさに、爪に火を点すような生活を続けていたのだが、ルシェイメア・フローズンがなんとかそれを打破しようと大ババ様に交渉した結果、ある程度が経費として認められたのだった。おかげで、借金のほとんどが消滅し、やっと人並みの生活ができるようになったのだ。
 余裕がでれば、人が欲するのは衣食住の向上である。
 ずっと去年の古い水着で我慢していたヨン・ナイフィードとセレスティア・レインは、新しい水着を買ってもいいかなあと、通販カタログをながめて楽しんでいたのだった。
「でも、最新水着は高いんですよねえ」
 セレスティア・レインとヨン・ナイフィードが溜め息をついた。いろいろと高機能になっている水着は、驚くほどに高額だ。
「確かに……」
 つられて、ルシェイメア・フローズンも溜め息をつく。
 別段借金がなくなっただけで、余剰の大金が手に入ったわけではない。贅沢はよく見極めないと、あっという間にまた借金生活に逆戻りだ。だからこそ、アキラ・セイルーンには何も教えていない。
「まあ、水着は無理じゃが、せっかくだから、美味しい物でも食べてはどうかのう」
 お取り寄せお食事セットのページを開いて、ルシェイメア・フローズンが言った。こちらなら、まあリーズナブルであった。
「ああ、それはいいですねえ。美味しい物、食べたいです」
 ヨン・ナイフィードが目を輝かせる。
「そうですね。あっ、これなんか、美味しそうですし、お手頃なお値段ですよ」
 セレスティア・レインも、いくつかの料理を選んでみんなに意見を求める。
 そんなときであった。宅配便が届く。
「もう何か頼んだのか?」
「さあ」
 気が早いじゃろうと言うルシェイメア・フローズンに、ヨン・ナイフィードが小首をかしげた。
「なんだか、通販みたいなんですが……」
 受け取った結構大きな通販会社の箱をよいしょっと持ってきて、セレスティア・レインが言った。
 なんだか、凄く嫌な予感が三人の胸によぎる。誰も頼んだ覚えがないのであれば、犯人はただ一人しかいない。案の定、送り状にはアキラ・セイルーン様宛としっかり印刷されていた。
「やっぱり……」
 気は進まないが、ルシェイメア・フローズンが箱を開けてみた。
「きゃっ」
 ヨン・ナイフィードとセレスティア・レインが顔を赤らめて横をむく。中から出てきたのは、案の定、アキラ・セイルーンがお宝と称する、あれやこれやのビデオディスクや薄い本であった。
「こ、これは……。アキラめ、許せん!」
 中に入っていた納品書を見て、ルシェイメア・フローズンが激怒する。この金額でなら、新作の水着が十分に買えるではないか。
「ただいまー」
 そこへタイミングよくというか、運悪くというか、アキラ・セイルーンが帰ってきた。
「ちょっとそこへ座れ」
 ルシェイメア・フローズンに正座させられ、アキラ・セイルーンが、動かぬ証拠を突きつけられる。
「自分の金で買ったんだからいいじゃないか」
 アキラ・セイルーンが開きなおった。
 それだけの金があれば、まずは生活費に入れるとか、以前の借金の返済にあてるとかいう選択肢はなかったのだろうか。
「だいたい、このお宝と同じ金額の水着ってなんだよ。高すぎるだろ」
「何を言うか、お前のような者たちから着ている者を守るための透視防止機能とか、剥ぎ取り防止機能などの高度な機能を装備した最高級品なのだから、あたりまえじゃろ」
「なんだ、その俺らの夢を奪うような機能は!」
 もう、売り言葉に買い言葉で、アキラ・セイルーンとルシェイメア・フローズンがバトルに突入した。
「くらえ、我は射す光の……」
 容赦なく終焉剣アブソリュートを振り上げたアキラ・セイルーンだったが、それを振り下ろす前にピヨの群れが怒濤のごとく足許を通りすぎていった。ヨン・ナイフィードの野生に蹂躙されたアキラ・セイルーンがふらついたところを、セレスティア・レインのポムクルさんたちが足を押さえて動きを止めた。
「てい」
 その一瞬に素早く動いたルシェイメア・フローズンが、アキラ・セイルーンの買ったお宝に破邪滅殺の札を貼りつけた。
「そ、それは……」
 ルシェイメア・フローズンの歴戦の必殺術で弱点を突かれたアキラ・セイルーンが動けなくなる。
 まさに多勢に無勢、最初からアキラ・セイルーンに勝ち目などない。
「さあ、もし逆らえば、いつでもお宝は消滅じゃ。さあ、どうする」
「お許しを〜」
 ルシェイメア・フローズンに言われて、アキラ・セイルーンが土下座する。
「まあ、貴様の金で買った物には違いないからのう。今回は目こぼししてやろう。だが、もし何かあれば……」
「ははー」
 いつでも呪符を発動できると、ルシェイメア・フローズンがアキラ・セイルーンに言い渡した。
「では、わしらは美味しい物でも食べるとしようかのう」
「わーい」
 さっそく通販で取り寄せた豪華夕食セットを自分たちだけで食べるルシェイメア・フローズンたちであった。
「いいんだ、いいんだ、俺にはピヨが……。あれ? ピヨ? ピヨ〜」
 一人ジャイアントピヨを捜して慰めてもらおうとしたアキラ・セイルーンだったが、なぜかジャイアント・ピヨはどこにもいなかったのだった。

    ★    ★    ★

「私たちは今、謎のもふもふ島にやってきているのなの」
 マイクを片手に、及川 翠(おいかわ・みどり)が言った。背後には、ここまで来るのに使ったシルフィードIIが着陸している。
 実は、三船 甲斐(みふね・かい)に頼まれて、小ババ様専用イコンの特殊武装を制作するための素材を取りに来たのだ。
「ここに、もふもふの王様がいるんだよね?」
 サリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)が、もふリストであるミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)に訊ねた。
「もちろんよ。ここにもふもふの王がいる。私には感じるの」
 自信を持って、ミリア・アンドレッティが言った。
「ミリアちゃんはもふリストですものぉ〜。間違いありませんですぅ〜」
 スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)が保証する。
「というわけで、もふもふ探検隊出発だよ!」
 そう言うと、及川翠が力強く進みだした。目指すはもふもふの王である。
 ゆけゆけ及川翠もふもふ探検隊。
「ゆけゆけ、もふもふ探検隊♪ ゆけゆけ、もふもふ探検隊♪」
 軽快な歌を歌いつつ、及川翠もふもふ探検隊が行く。
 わたげうさぎ「杏」に率いられたわたげ大隊がジャングルの茂みを囓って開いた道を、及川翠たちは秘境の奥へと進んでいった。
 途中、及川翠がピラニアに噛まれたり、ミリア・アンドレッティが毒蠍に刺されそうになったり、スノゥ・ホワイトノートが底なし沼にはまりそうになったり、サリア・アンドレッティがワニに襲われたりしたが、なぜか無事であった。
 そして、艱難辛苦の上に、ついに及川翠たちはもふもふの王の住み処へと到達した。
「あ、あれはなんなんだもん!?」
 突如現れた巨大生物を指さして、サリア・アンドレッティが叫んだ。
「ピヨ〜!!」
 そこにいたのは、ジャイアント・ピヨだ。
「あれこそは、もふもふの王ですぅ〜」
「ええ、間違いありません。あれこそが、もふもふの王、キング・オブ・もふもふです!!」
 スノゥ・ホワイトノートとミリア・アンドレッティが、自信をもって答えた。
「捕獲するなの〜」
 及川翠が叫んだ。
「ピヨ?」
 この人たちはなんなのと、ジャイアント・ピヨがほとんどあるかないかの首をかしげた。
 そこへ、いつの間に移動してきたのか、腕組みをしたシルフィードIIが大地を割ってせり上がってきた。
「行くなの〜」
 わたわたと、及川翠たちがシルフィードIIに乗り込んでいく。
「えいっ!」
「ピヨ〜!!」
 どこから取り出したのか、巨大な虫取り網で、シルフィードIIがジャイアント・ピヨを捕獲した。
「とったど〜!!」