蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

夏の風物詩 花火大会開催

リアクション公開中!

夏の風物詩 花火大会開催
夏の風物詩 花火大会開催 夏の風物詩 花火大会開催

リアクション

縁日っていいよね


 夏の夜。
 水辺には数多くの屋台が灯りをともし、そこかしこで飛び交う呼び込みの声。
 昼の暑さとは違う熱気が、縁日に来る人々を高揚させている。
 その中で、人目を引く二人の浴衣美人。
 一人はピンクを基調とした満開の花柄。対してもう一人は濃紺に川をあしらった落ち着いた浴衣。綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)だ。
 何人もの男性が振り返るが、声を掛けることは憚られる。それは、彼女たちが手に持つものが遊戯の景品や飲食物ではなくマイクだったから。
「あー、こういう日に仕事なんてついてないわねー。せっかくデート出来ると思ったのに……なんで私たちは休みじゃないのよ」
 少し拗ねて小石を蹴る姿が可愛らしい。そんなさゆみをアデリーヌは励ます。
「仕方ないですわ。これも『シニフィアン・メイデン』の仕事ですもの。でもその浴衣、他の誰よりも似合ってますわよ」
「そ、そう? ありがと」
「うふふ。それでは、早くお仕事終わらせますわよ」
「はぁーい」
 さゆみは「だけど仕事じゃ全然気分が出ないわよ……」と不満げだが、カメラマンからキューが入ると一変。
「みなさんこんばんわ。今日、私たちは花火大会の会場に来ています。会場は熱気に包まれ、花火を今か今かと待ちわびています」
 満面の笑顔で解説を開始した。経験の成せる技である。
「こんな沢山の人達を集めるなんて、花火ってすごいですわね」
「これは私たちのライブを超えているかもしれないわ。負けてられないわね。今からライブの準備をしなくちゃ」
「あら、さゆみさん。今日は花火大会の放送ですわよ? 張り合ってどうしますの」
「そうでした」
 ちょっとした冗談も交え、話は進行していく。
「打ち上げ開始までもう少しありますわ」
「その時間を使って屋台を回ってみましょう!」
 二人は観客でごった返す縁日へ突撃していった。

―――――

 露店の中に、ツァンダからの出張店舗があった。
 名前は雑貨屋『いさり火』。ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)を店主とする冒険者向けグッズや日常雑貨を扱ったお店だが、今回は特別版。
「いらっしゃーい! 出張、雑貨『いさり火』だよー! チミっ子も見てみなー! 本物のドラゴンの爪や牙で作ったキーホルダーだよー! カップルさんもどう? ペアのネックレスや指輪もあるよ!」
 エクリィール・スフリント(えくりぃーる・すふりんと)の呼び込み通り、アクセサリー系を中心に販売している。
「ふいー、やはりこの口調は疲れるのぅ」
 来客の合間に一息入れるエクリィール。そこへ店主ハイコドが姿を出す。
「エクル、調子はどうだ?」
「うむ、申し分ないのじゃ」
 通路の角という目立つ位置に構えることができ、第一段階はいい感じ。冷やかしも多いが、そこそこ足を止めて品定めをしてくれている。また子供でも手が出せる値段に抑えたことで、夏の思い出にと買って行く少年少女もちらほら見受けられた。
「順調だな。もし売れ残るようなら、周辺のお店に配るぞ」
「のう、ハイコドよ。商品を配っても大丈夫なのかえ?」
「材料は武具や農具には使わなくなった端材だ、少しくらい配ったって大丈夫。むしろ一族の商品を広めるいい機会だ」
「そういう考えじゃったか。うむ、店長の言葉には逆らわんよ」
 それなら販売の続きを、としたところでもう一人いないことに気付く。
「ソラはどこだ?」
「あそこじゃ」
 エクリィールの示した先、そこではソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が若い男にナンパされていた。
「ねぇお姉さん一人? よかったら俺と一緒に遊ばない? いいよね?」
「やーん、ナンパされちゃった♪」
 誘いに科を作るソラン。だが心情は別。
(けっ、ゴミ虫が。でかいのは態度だけで【ピーー】は小せぇんだろうなぁ)
 辛辣な内容に規制までかかっている。
「で、どう? 退屈させないよ?」
「えー、どうしようかなぁー」
 このままにしておけば犠牲者が出るかもしれないので割って入るハイコド。
「はいそこまで」
「何だ、あんたは? 邪魔するなよ」
「あー、兄ちゃん止めとけ。これ俺の嫁だし、二児の母だし。それでもちょっかい出すなら――」上腕二頭筋が運動を始める。「相手するぞー?」
「ひっ……すんませんした!」
「ちょい待ち」
 慌てて去ろうとする男の肩をガッと掴む。
「まぁ、商品見てってよ。どうせなら、ナンパするのにアクセ送るとかどうよ?」
「そうですね! 一つ買って行きます!」
 今度こそ去るナンパ男。
「ざんねーん。ま、いっか。ハコ以外にはキョーミねーですし」
「ソラ、そろそろ接客に戻れ。エクルばかりに任せるなよ」
「はーい」
 店頭に戻ったソランがは呼び込みを始める。
「鍛冶一族ジーバルスの商品お願いしまーす」
「これください」
 すると気になる匂いのカップルが来店してくる。この匂いは……。
「はいお客さん、お品物。それと――」女性に商品を渡し、顔を近づけて耳元で囁く。「熱い夜を盛り上げるアダルティなグッズのご相談とかも受けますよ、カノジョさん?」
 店の住所と地図が載った名刺も一緒に合わせる。
「おーいソラ、何渡してるんだ?」
「何でもなーい、何でもない。それじゃ、またのご来店お待ちしてまーす!」
 耳まで赤くしたカップルを見送ると、ソランは呼び込みを再開。
「さっ、エクリィール。じゃんじゃん売るよー! だからその光るデコで集客してね」
「ふむふむ。そんなにわらわのデコが目立……誰がデコ娘じゃ!!!」
 周りに負けない活気が更なる注目を集めた。