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リアクション
喧騒に包まれた一角に静かな空間があった。
ここは《資産家》《根回し》《用意は整っています》などのスキルを駆使し出店された御神楽 舞花(みかぐら・まいか)の【屋台】。開いているのはレトロ感漂う型抜き遊戯だ。
型抜きとは、ピンク色の板菓子に簡単な絵が描いてあり、爪楊枝などを使って型を割らずに抜き取る遊び。
入り口の看板には『出来栄えを判定して景品贈呈!』と書かれている。
お品書きは以下。
・一等【水のルーンカード】
・二等【古代魔術の指南書】
・三等【デジタルビデオカメラ】
・四等【兵の指輪】
・五等【ハートの機晶石ペンダント】
・六等【健康サプリ】
とても豪華な賞品である。
そのため客付も良く、「……あー割れた!」「お姉ちゃん、次頂戴」といった会話以外は殆どない。お客も景品のため集中しているのだ。
「やあ、舞花。やってるね」
「あ、ジブリール」
そこへジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)が客としてやってくる。
「今日は一人ですか?」
「いや、二人も来ているよ。だからオレは一人なんだ」
どこか謎掛けのような回答。頭に疑問が過る舞花だが、直ぐに話は次へ。
「それより、オレもやっていっていいかい?」
「え? どうぞどうぞ、遠慮なく。型はどれにします?」
「そうだね……これにするよ」
手に取ったのは難易度易のウサギ柄。
「やり方はわかりますか?」
「残念ながら」
両手を上げて教えを乞う。
「ここに絵が描いてあるでしょ? その周りの余分な部分を剥がすの」
「へぇ。ちょっとやってみるよ」
他の客と並び、作業に移るジブリール。
初めは余白も大きく簡単に剥せる。しかし、少しずつ細かくなっていき、力の加減を間違えると、「あっ……」 簡単に割れてしまう。
「残念でしたね。はい、これ残念賞です」
一口大のガムが手渡される。
「意外と難しいね。舞花、もう一回いいかい?」
「いいですけど……二人と逸れたわけじゃないですよね?」
無いとは思うが、一応迷子でないか確かめる。
「流石に違うよ。オレが居ちゃ進まないことだってあると思うから」
そこまで言われ舞花も悟る。これは一種の気遣いなのだと。
ジブリールは自分の感情よりも二人の関係を優先させた。大事な家族のために。
「そっか……それじゃゆっくりしていってね」
「ありがとう」
だから一緒に見守ろう。あの人たちがどうなっていくのかを。友人と一緒に。
「よし、これでどうだ?」
ジブリールに渡された型抜きの完成品。舞花はその判定に入る。
「ふむふむ……」
大まかな部分は問題なし。
細かい部分では、首筋と前足の窪みとウサギの耳の付け根。この柄で一番難しい部分だが、ここも爪楊枝で余白部分から丁寧に差し込んで剥してある。
その総評は、
「完成度と難易度と初めてということを考慮して……はい、五等の商品です」
「あはは、厳しいね」
意外と辛口の評価だった。しかし、そこには舞花の粋な計らいが隠されている。
渡された【ハートの機晶石ペンダント】。この効果は……
「舞花、悪いんだけどコレ――」
「いいですよ。あの二人にどうぞ」
ジブリールの心情を読んだ舞花は快く承諾してくれた。
ドンッ! パラパラパラッ……
そして、一番花火が打ち上がる。
「始まりましたね」
「みたいだな」
「綺麗ですね……」
「ああ」
「二人、上手くいくといいですね」
「ああ、そうだな」
舞花は思う。
この夜空に咲く大輪のように、二人にも大きな恋の花が咲けばいいと。
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