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リアクション
○弟子入り
パラミタにある花火工場。
そこでは今、親方が黙々と制作に励んでいた。
近々行われる花火大会。その場で大輪を咲かせるため着々と花火玉が完成していく。
「ふう……とりあえずこんなもんか」
だが、一人で作れる量には限界があった。未だ半数を超えていない。弟子たちを追い出した痛手が如実に出てしまっている。このままでは当日までに予定数を仕上げられない。
それでも一人で作り続けるのは親方としての意地と性格だ。
――ドンドンッ。
『たのもー』
そんな猫の手も借りたい状況に、門戸を叩く音が聞こえた。
「誰だ、こんな時に」
急な来訪に「もしや弟子たちか?」そう思った親方だが、身内ならば普通に入ってくるだろうと思い直す。
親方が扉を開けた先、そこには見知らぬ集団が立っていた。
「何だお前たちは?」
代表してセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が事情を説明する。
「あたしたちは花火職人の募集を見てここに来たのよ」
「募集? ワシはそんなことした覚えはないぞ」
否定するが、セレンの提示した紙には親方の工場の名前がしっかりと記載されていた。
さては誰かの差し金か、親方は当たりを付ける。
「素直に戻ってこれば良いものを……」
とにかく、こうやって集まってくれた者たちを蔑ろにはできない。
親方はざっと面々を見渡した。その感想は「女が多いな」だった。
体力勝負のこの職業。彼女たちにやっていけるのかどうか。
「心配しなくても大丈夫だよ。ルカたち契約者だもん」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の言う通り、この集団は契約者の集まり。ルカルカは近くにあった花火筒をひょいと持ち上げて見せる。負けじと≪スパルタ系理系女子≫セレンも自分の領分だと主張。
「要は爆弾を作るわけでしょ? それならお手の物よ。どうせ爆発させるなら、綺麗で楽しめた方がいいに決まってるわ」
知識も経験も体力も常人を超えた志願者たち。これ以上の人材は類を見ない。
「……成程な」
とすれば、残る問題はやる気だけ。
「花火が出来なかったら見物どころじゃないもんね! 初めてだけど頑張るよ!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が笑顔で言うと、集まった中では数少ない男、コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)が親方に質問する。
「あの丸い物は?」
「何だ、お前さんは知らないのか。あれが花火だ」
全員が知っていると思ったが、どうやら知らない者もいるらしい。
「あれを夜空に打ち上げると、大きな花が咲く」
「ちょっと待ってね。今見せるから」
ルカルカが持ち前のノートパソコンから実際の花火動画を見せる。
「ほう……便利な世の中になったもんだ」
映像には菊先・牡丹・UFO・錦冠・葉落などが詰め込まれている。中でもコードの目に留まったのは彩色千輪。小さな花が一斉に咲く絢爛な花火だ。
「俺、これを作りたい」
「馬鹿言っちゃいかん。この千輪は素人がおいそれと作れるものではないぞ」
「それならどうすれば作れるのか教えてくれないか」
新しい一歩を踏み出す。その時のモチベーションは最高の物。それに加え、親方はコードの瞳に何かを感じていた。
「ふんっ、いいだろう。先ずは通常の花火を作ってからだ。お前らもワシに付いて来い」
どうやら皆、弟子入りが許可されたみたいだ。
背を向け、工場に入っていく親方。それを追って皆も進む。
コードはふとした疑問を親方の背中にぶつけてみた。
「親方はどうして花火職人をやってるんだ?」
立ち止まった親方は、顔だけこちらに向けるとこう言った。
「下を見たって、自分の身長分の小さな世界しか見えねぇんだ。打ち上げ花火ってのはな、皆、空を見上げる。泣いてる奴も、落ち込んだ奴も、悩んでいる奴も、分け隔てなくな。広い世界、その中で咲く花を見りゃ、ちっぽけな事なんて忘れて新しい気持になれる」
顔を元に戻すと、
「ま、そういう奴らを見る喜びもあるが、単純に好きだから止められねぇってだけよ」
親方は笑って歩き出す。
その言葉はコードの胸に深く刻まれた。
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