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夏最後の一日

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夏最後の一日

リアクション

 昼、イルミンスール。

「ふいー、朝から続いた商談もうまく行ったな」
 この地での結構大きめな仕事の用事を終えたハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は安堵したように歩いていた。
「ソラとニーナに何か冷たい物でも買ってから戻るか……シンクとコハクには……おっ、フルーツをすりつぶしたジュースか、これを買っておくかな」
 ハイコドは熱い夏の下公園で待つ家族のために冷たい飲み物を購入し
「さて、さっさと戻るか。これ以上待たすと悪いしな」
 いそいそと公園に急いだ。

 公園。

「……誰かいるな。あれは……」
 ハイコドは家族の側に同じ顔をした少年達がいる事に気付いた。
 そして
「見覚えがあるな……確かイルミンのいたずら双子だ」
 ハイコドは記憶を探り、イルミンスール魔法学校で開催されたイベントにいた事を思い出した。直接話した事は無いが、見掛けた事はあるのだ。
 ハイコドは家族の元に向かった。

 朝、ハイコドが商談中の公園。

「こう、木々の街っていうのは心が落ち着くわね」
「そうね」
 ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)ニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)は同じベンチに座り寛いでいた。
「ハコ、上手く行ってるかしら」
「きっと大丈夫よ。私達はここでハコくんが戻って来るのをのんびり待ちましょう」
 ソランとニーナは今頃商談しているだろうハイコドに思いを馳せていた。
「そうね、すっかりこの子達、遊び疲れて寝ちゃったわね……そう言う私も……ふわぁ」
 隣のベビーカーで遊び疲れて眠る我が子の頭を撫でつつソランも大きな欠伸を洩らし、
「私、あそこのベンチで寝てるからあとよろしく」
 ソランは立ち上がり、少し離れた所にあるベンチに移動し、狼に獣化しスヤスヤと眠った。
「えぇ、この子達は私が見ているわね」
 ニーナは移動する妹を見送ってから
「ゆっくり読書でもしよう」
 本を取り出してのんびりと読書を始めた。
 穏やかな時間が過ぎると思いきやそうではなかった。

 少しして
「……ソラに近付いているあの二人、注意しないと」
 読書をしていたニーナは妹に近付く二人組の少年を目の端にとらえるなり、ベビーカーを押して声をかけに行った。

 一方。
 悪戯に必要な買い物途中に偶然立ち寄った双子は
「おい、狼が寝てるぜ」
「だな」
 ベンチで眠る狼姿のソランを見るや悪戯心がムクムク。

「……(んー、この二人というか匂いからして兄弟か双子かな。なんかしてきたら脅かしてしまおう)」
 双子の気配を感じたソランは目覚めるも起き上がらずそのまま横になって待機。
 そこに
「あら、あなた達双子なの? そっくりね」
 ベビーカーを押すニーナが登場。
「そうだ、俺はヒスミ・ロズフェル。一応俺が兄だ」
「そりゃ、一卵性双生児だからな。オレがキスミ・ロズフェル」
 二人は双子という事を誇らしげに堂々と名乗った。
「あらそうなの。この子達、私の姪と甥なんだけど、双子でシンクとコハクって言って1歳半なの」
 ニーナは柔和な笑みを湛え、ベビーカーで眠る双子を紹介した。
「可愛いな」
「双子なんだぁ」
 二人は双子という言葉に反応し、まじまじとベビーカーを覗き込んだ。
「……今は寝ちゃってるから静かにね?」
 ニーナは口元に人差し指を立てながら優しく言った。
 さすがに小さな子を起こすのは可哀想と
「……分かったよ」
「うるさくしねぇよ」
 双子は静かにする事を約束した。
「そう、ありがとう(この子達の側の段ボールは……気付いていないなら言わない方がいいわね)」
 注意を終えたニーナは元のベンチに戻り読書を再開。当然、吹雪入りの段ボールに気付いたがあえて口にせず。

「……(言いつけ通り大人しくしていれば何もしないでありますが……)」
 段ボールの中で吹雪はいつでも活動出来るよう双子を警戒していた。

 ニーナが離れた後。
「……」
 ニーナの姿を確認してから寝たふりをするソランを見るなり
「大きな音が出ないような物にすれば問題ねぇよな。丁度、もふもふだし、これとか」
 ヒスミがスプレー缶を取り出した。
「だな。毛色を虹色に変える奴だな。それってお前のやり過ぎで一週間消えないんだよな……まぁ、危険じゃねぇしいいか」
 キスミも同じ缶を出した。悪さをするなと言われたにも関わらずすっかりやる気である。
「いざ!」
 双子が同時にスプレーを噴射しようとした瞬間
「!!」
 寝たふりをしていたソランが突如起き上がり獣人化して背後を取り首元に手刀を寸止めする。
 急展開でピンチになった双子は
「お、起きてたのかよ」
「ち、ちょっ、待てよ」
 冷や汗を垂らし怯えた。

「……(監視だけで大丈夫でありますな)」
 吹雪はそっと双子にばれぬよう移動しつつ監視に徹した。

「注意したのにいけない子ね」
 ニーナがベビーカーを押して再登場。
 それを見るやいなや
「……まさか」
「……仲間かよ」
 危機を察知すると同時に雰囲気からソランの仲間と知り青い顔に。
「そうよ。彼女はこの子達のお母さんなの……さて、お仕置きしなきゃね」
 ニーナがにこやかに言うなりソランとバトンタッチし『回転眼』でくるくる回してお仕置きをした。
「うわぁぁぁぁ」
 双子の虚しい叫び声が公園内に響いた。

 ニーナの仕置きが終了し
「……」
 双子がぐったりしている所で
「次は私からのお仕置きよ。あと少しで毛並みが台無しにされる所だったんだから」
 ソランのお仕置きの番である。
「何かやばいぞ」
「逃げろ」
 察知した双子がふらふらと足をもつれさせながら逃亡するも
「……(逃げられないでありますよ!)」
 尾行の吹雪は慌てない。なぜならこの展開はこれまでの経験から予測済みだから。

 逃げ出した双子は注意力欠如で吹雪の『トラッパー』に掛かり
「!!!」
 動きを封じられ、ソランの仕置きから逃亡が出来なくなった。

 背後から
「さぁ、可愛くしてあげるからね」
 手持ちの化粧品とヘアピンを持ったソランの声。ニーナの注意を無視した事も含まれていたり。
「私も手伝うわ、ソラ」
 どんな仕置きが察したニーナもノリノリで参加し始めた。
 二人向いた双子は
「ちょっ、待ってて」
「まだ何もやってないだろ」
 嫌な予感に怯えていた。

 仕置き開始後。
「ふふふ、なかなかイイ感じなりそうねぇ」
「そうね」
 ソランはニーナと手分けして双子の髪を梳かしたり薄化粧を施したりヘアピンで七三分けなどをして仕置きをした。
 髪を梳かす時、ソランは背後から胸を押しつけて反応を楽しもうとしたが、
「悪かったってブラッシングとかするから」
「許してくれって」
 ここに至るまで経緯のためか双子は恐怖の方が色濃く照れを見せる様子が無かった。平時であればきっと照れていただろう。
 しばらくして
「仕置き完了!」
 そう言ってソランは双子に鏡を見せた。
「……」
 双子はじっと黙って鏡に映る自分を見つめていた。
「素体がいいからちゃんと化粧してコルセットつけたり肩幅や胸板がわかりにくい服着れば女装できるしいたずらなら幅が広がると思うわよ」
 ニーナが笑みを湛えながら素敵な助言を双子に贈った。

「やっぱ、イケるな。確かに悪戯に利用しない手は無いかも」
 一度仕置きで化粧された事があるヒスミはニーナの言葉で改めて悪戯利用に使えると認識し
「しかも髪を長くしたら平行世界の女のオレ達になりすます事が出来るぞ」
 キスミに至ってはこことは違う世界に住むもう一人の自分に扮装出来ると思いつく。
「ホント、懲りないわね(そう言えば、上映会でこの二人の平行世界の姿、映っていたわね)」
 現金な双子にソランはすっかり呆れていた。
「面白そうじゃん」
「そうそう、面白そうな事はしないともったいねぇだろ」
 双子は悪戯な笑みを浮かべ愉しそうである。
「それもそうね。さぁ、約束してくれた通り」
 ソランは話を適当に流し、
「ブラッシングをお願いするわね」
 ブラシを双子に差し出した。
「……」
 双子はじっとブラシを見つめるばかり。余計な事を言ったという顔で。
 そんな彼らに
「今度は人の言う事を聞いてくれるわよね」
 ニーナが柔和な笑みで追い打ちをかけた。言外には聞かなかったら大変な事になるかもを匂わせながら。
 それを察したのか
「……はい。ごめんなさい」
「悪かったよ」
 双子は謝り、大人しくブラシを受け取って獣化したソランの尻尾のブラッシングを始め、ソランは気持ち良さそうにし双子は何気に楽しんだ。
 ブラッシングが終わりソランが獣人化してすぐに仕事を終えたハイコドが現れた。

 家族に再会。
「ただいま……商談は成立した……ほら、土産」
 ハイコドは戻るなりソランとニーナの頭を撫で仕事の案配を報告しながらジュースを二人に渡した。
「さすが、ハコ」
「上手く行って良かったわ」
 報告に胸を撫で下ろし、ソランとニーナはジュースで喉を潤した。

 そして、
「……シンクとコハクは寝ちゃってるか……ヒスミ、キスミ、このジュース飲むか?」
 ハイコドはジュースを子供達に渡そうとして眠っているのに気付き、諦めもう一組の双子に差し出した。
「いいのか?」
「もらちゃって」
 双子はちらりと小さな双子を見て受け取るのを躊躇った。
 それを見て
「うちのとこの双子は起きたらまた買うから大丈夫だ」
 ハイコドは双子気にしないよう一言付け足した。
 すると双子は
「それじゃ、貰うぞ」
「あー、冷たくてうまい」
 即受け取り飲んだ。
「で、何でそんな顔になってるんだ? 何か悪さでもしたか?」
 ハイコドが双子の顔が化粧されている事にツッコミを入れると
「……」
 ちらりとソランとニーナをジト目で見る。
 その様子から
「あぁ、そういう事か。でも似合ってるじゃねぇか?」
 ハイコドは事情を察し、ついでに双子を軽くからかう。
「だろ、あっちの姉ちゃんが言っていたようにこれを利用して悪戯もいいかなって」
「髪を長くしたらオレ達が女の平行世界にそっくりになるからそれを利用しようかなって」
 双子はカラカラと笑いながら言った。
「……そう言えば、平行世界の映像じゃそうだったな。というか懲りないんだな」
 双子の図太さにハイコドは呆れるも
「ところでこれまでどんな悪戯をしたか話してくれないか」
 双子に話し掛けた。
「おう、いいぜ」
「まずは……」
 双子は自分の話を聞いてくれると喜びジュースを飲みながら話し始めた。
 魔法薬や発明品で人を良い意味悪い意味などで驚かせた事、ヒスミのやり過ぎで暴走して惨事が起き迷惑な状況になる事も。
 その中で
「……で、この魔法薬はな」
「凄いんだぞ」
 双子は調子に乗ってソランに使おうとした魔法薬の説明をするのだった。

 聞くなり
「……それでソラの尻尾を染めようとしたんだな」
 ハイコドが呆れつつツッコミを入れると
「……それは」
「……まぁ」
 双子は口ごもった。
「話は変わるが、アウトドア系なら、俺の店、雑貨で「いさり火」って言うんだが、そこである程度揃えられる痛みとか痕の残らない安全な罠の作り方を教えてやろう」
 ハイコドは双子が喜びそうな話題に変えた。
「おう、教えてくれ」
「早く、早く」
 双子は当然食い付いくが
「そう、急かすな。悪戯するのは結構だが、人を傷つけることが無いよう時限式にするか安全装置を考えていたずらするようにな」
 ハイコドはすぐには話さず、まずは注意書きを伝えてから。
「分かってるって」
「子供じゃねぇんだから」
 話を聞きたい双子はテキトーに流すだけで注意なんぞまともに聞いていない。
「はいはい」
 ひとまずハイコドは双子に急かされるまま安全な罠の作り方を教えた。

 ハイコドの話終了後。
「なるほど。なぁ、キスミ」
「おう、ヒスミ、これは後でお世話になるかもだな」
 双子は関心を示し作る気満々の顔でハイコドを見た。
「あぁ、お客様は大歓迎だ」
 ハイコドはニヤリとしながら歓迎するが急に真剣な表情に変え
「悪戯もナイフや弓と同じだ。使い方を間違えれば自分や人を傷つける」
 ゆっくりと子供に言い聞かすように言った。
「……分かったよ」
「あぁ、そうするって」
 ハイコドの真剣さに飲まれ双子はこくりと頷いた。
 話が終わった所で
「最後に……」
 ソランに悪戯をしようとした罰で
「!?」
 双子に一瞬意識が飛ぶレベルのデコピンの寸止めを食らわせた。

 結果
「……」
 双子は一瞬意識が飛んだ事もありビビり硬直。
 すぐに
「それじゃな」
「オレ達用があるから」
 双子はとっとと逃げて行った。化粧は途中で落とした。
 後日、双子は怯えながらも悪戯心に押されてハイコドの店に来店し、罠の道具を購入して行った。

「俺の店に遊びに来いよ」
「遊びたかったらまた相手してあげるわよ」
「気を付けてね」
 ハイコドとソランとニーナは楽しそうに双子を見送っていた。