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【特別シナリオ】あの人と過ごす日

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【特別シナリオ】あの人と過ごす日
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妹さんを下さい。

 葦原明倫館の、とある一室にて。
「つーことで、ハイナ。ルシアとの交際を認めてくれ」
 手を合わせる紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の前に、不思議そうな顔つきで座すハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)がいる。
「それは、わっちに言うことでありんすか?」
「一応、ハイナはルシアの姉だしなぁ……まぁ、状況としては今迄とあんまり変わらんのだけど、けじめというかなんと言うか」
 唯斗は今までずっと、ルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)に対して保護者のような立場で接してきた。保護者、と言うべきか、過保護者、と言うべきかはまた別の話として。
 そのルシアを守りたいという想いは、ルシアを好きすぎるが故のもの。そして、ルシアを一生かけて面倒を見ていきたい、と思うようになったのだ。
「一生かけて、ってことは……」
「結婚を前提にしたお付き合い、ってことになるな」
 唯斗の真剣な眼差しから、ハイナはふいと視線を逸らした。
 ちらりとハイナが見やったのは、唯斗の背後に控えている二人。今まで平然とした顔つきで唯斗の申し出を聞いていた彼の妻たちは、ハイナの視線に顔を上げる。
「既に結婚しているお二人は、反対しなかったでありんすか?」
「いや、まぁ、賛成か反対かで言えば賛成かのー」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)がこともなげに言った。
「今更だしのぅ」
「あ、私も異論はないわよ。唯斗の其れはもう治らない病気みたいなモノだしね」
 横からリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)も賛同する。
「なるほど……」
 エクスとリーズの反応を見て、ハイナは納得したように数度首を縦に振った。
「で、どうなんだ? ……もし、俺を試すってんなら受けて立つぜ?」
「いや、その必要はないでありんす」
 ハイナは唯斗の視線に向き合うと、ニッと笑った。
「どちらにせよルシア本人の気持ち次第のこと、わっちからはどうこう言うことはないでありんす」
「そうか」
 唯斗がホッとしたような、気を引き締めたような顔つきになった瞬間。

「みんな、ここにいたのね」
 張本人であるルシアが、部屋に入ってきた。唯斗の表情がすっと真剣味を帯びる。
「それで、話っていうのは……?」
 無言でハイナに手招きされて唯斗と向かい合って座ったルシアは、不思議そうに首を捻った。唯斗が息を吸い込む。

「ルシア、俺と付き合ってくれ」

「付き合うって……」
「ああ。ルシア、俺の恋人になってくれないか」
 突然のことに、というよりは、いつも通りのぽやんとした表情で、ルシアは唯斗を見つめた。
「まぁ、恋人になって、何かが大きく変わるわけじゃ無いんだけどな。でも将来的には結婚して一緒に暮らしたいと思っている」
「結婚……」
「俺のけじめとして、ルシアとの関係を明確にしておきたいんだ。ルシアのことが好きだって気持ちは、変わらない」
 ルシアは口の中で、「恋人」と「結婚」という単語を小さく反芻した。
「……どうだろうか?」
「うん。私も、大好きだよ。でも……」
「……でも?」
「恋人……かな?」
 ルシアは数秒かけて、左右交互に首を傾げた。ルシアも唯斗のことが好きである。そこは間違いがない。
 だが、それが「恋人」としての好きであるのかどうか、ルシアにはよく分からなかった。
(うーん……私に兄がいたとしたら、唯斗みたいな感じかな……?)
 ルシアの頭の中で「唯斗が兄である」という想像が膨らんで行く。が、唯斗にしてみれば、そんなことはいざ知らず。
 先ほどの「恋人……かな?」という呟きの後、唯斗の脳内は「!」と「?」の二つの記号が渦巻いていた。
 唯斗だけではない。ハイナとエクス、リーズもお互いに顔を見合わせる。
「ルシア。恋人じゃ……だめか?」
 唯斗は恐る恐る、虚空を見つめているルシアに訊ねた。

「……むしろ、もう、お兄ちゃんと呼んでもいい!?」

「……え?」
 キラキラと輝くルシアの瞳が、唯斗を見つめていた。
「お兄ちゃん、って呼ばれるの、嫌かな?」
「いや、全然嫌じゃないっていうか、何ていうか凄くいいけど! でも……」
「……でも?」
 先ほどの唯斗と逆転したような言葉で、悲しそうに訊ねるルシア。
「ああ、もう!!」
 お父さんでもお兄ちゃんでも恋人でも伴侶でも、ルシアのことが好きなことに変わりはない。要は、ルシアのことが守れれば良いのだから。
 心底嬉しそうなルシアを見て、唯斗は「でも」の先を飲み込んだ。ルシアは斜め上を見上げて、幸せそうに呟く。
「唯斗お兄ちゃん、かあ……」
 あ、やっぱり俺、守らなきゃ。ぐっと拳を握りしめ、唯斗は心の中で固く誓った。