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空を観ようよ

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空を観ようよ
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感謝と報告

 事件は日々、大なり小なり起きているけれど、世界は概ね平和だった。
「パッフェル、行きたい場所があるんだ。付き合ってくれないかな?」
 世界が平和になり、生活も落ちついた頃。
 円・シャウラ(まどか・しゃうら)は、伴侶のパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)にお願いをして、とある場所へ一緒に出掛けた。

 数年前。
 ヴァイシャリーではシャンバラ古王国時代に存在した、『離宮』に関係する事件が起きていた。
 円はその頃、やんちゃだったというか、なんというか。
 ひねくれていて、自己中心的で、親のいないこの地で好き勝手に生きていた。
 その時、円は気になる女性と出会った。
 ソフィア・フリークス
 シャンバラ古王国の女王の騎士であり、離宮を護ったとして伝説になっていた人物の1人だ。
「ソフィアとは付き合い自体は短いんだ。ヴァイシャリーで反乱を起こして――死んでも仕方のないような事をした人だけど、とても真っ直ぐな人だった」
 道中、円はソフィアについてパッフェルに話していく。
「自分が、正しいと思ってた事を曲げない頑固な人だった。
 そういう所、嫌いになれなかったなぁ……。
 死んで欲しくはなかったなぁ……」
 円が視線を落として言うと、パッフェルは何も言わずに、円の手を握ってきた。
 ありがとうと言うように、円はパッフェルに笑みを向けた。
 でも、眼はやはり、悲しげになってしまう。
「でも、死んじゃってね。
 自分の力が足りなかったのか、方法が不味かったのか、それは解らなかった。
 ただ、解ったことが一つあった」
 円の真剣な目と話に、パッフェルはこくりと頷く。
「真面目に向き合わなきゃって。
 あの頃からかな、関わってくれた人には、幸せになって欲しいって思えてきたのは。
 そして、大人にならなきゃいけないって思えた。
 それがあったから――パッフェルと真剣に向き合えたのかなって」
 パッフェルの手を握り返しながら、円は続けていく。
「戦いが終わって、今までの事を振り返ってね。
 今のボクが……。
 どうしようもなかったボクが、親とも仲直りして、学校を卒業してパッフェルと一緒になれたのは、パッフェルとソフィアが居るからだったと思う。
 あ、いや。勿論他の人の影響もあるけど!」
 パッフェルは円の言葉にまた静かに頷く。
「でも、それぐらい、大きな影響だった。何時までも他人のせいにして、不貞腐れてないで、人生を真面目に考えよう、向き合ってみようと思うぐらいの。
 二人にはそのぐらい大きな影響があったと思う。だから、パッフェルにもソフィアを知ってて貰いたかったのかも」
「……大切な、人。円にとって、も。私にとっても……」
「そう言ってくれて、うれしい」
 円は笑みを浮かべた。さっきより少し明るい笑みを。
「パッフェルには、ありのままを受け入れてもらえたこと。それが凄く嬉しかったし救われたよ。
 それでも、自分の悪い所は変えようとするのは、嫌われたくないからだろうなぁ」
 そういて、円は少し恥ずかしそうに笑った。
「それも、円……だから。昔の円も……変わろうとしている円も、全部円だから。それが今の円の、ありのままの姿、だから」
「ありがとう、パッフェル。今ではパッフェルはボクの生きる目標なんだ」
「目標……?」
 不思議そうな顔をするパッフェルに円はこくんと頷く。
「君はボクの生きる目標だよ。
 ……ボクの目標は他人から見たら、とてもちっぽけな物かもしれないけど」
「……ちっぽけ?」
「うん、パッフェルと幸せに成りたいって目標がね。
 君が居なければ、今でも何処に進めばいいのか迷っていたんだと思う。
 パッフェルにはそれだけ感謝してる」
「それは、私も……。私も、円がいて、嬉しい。円がいなければ、知らなかったことや、知らなった感情がたくさん、あったわ。
 円と一緒に、進めて、嬉しい。とても、感謝してるわ」
「ありがとう、パッフェル」
「ありがとう、円」
 2人は顔を合わせて、微笑み合った。

 ソフィアの墓は、少し寂しい場所にあった。
 円は花を手向けると、墓に向かって話しかける。
「ソフィアのお陰で幸せになれた。ありがとね。
 今のこの世界は――君が望んだ世界とかけ離れてるかもしれないけれど、そう悪くはないよ」
 それから円はパッフェルに手を向けた。
「今日はパッフェルを連れて来たんだ。
 結婚したんだ。
 うん、そういう事、また来るね」
 パッフェルはソフィアの墓に向かって、軽く頭を下げた。
「また、円と、来るわ」
 ソフィアは愛する人を間違えた。
 円がパッフェルと、パッフェルが円と出会い、愛を育み共に成長しているように。
 ソフィアも真に互いを思いやれる人と、出会えていたら。
 彼女は今、シャンバラ古王国の騎士として、この場にいたかもしれない。
 でもそしたら、円は今ほど友達を大切に出来る女性になっていなかったかもしれない。
「ボクは、ちゃんと大人になれたのかなぁ?」
 帰路につきながら、円が呟いた。
「あっ」
 ふわっと風が吹いた。
 墓地を囲っていた木々から、紅葉した色とりどりの葉が舞い飛び、円とパッフェルに降り注いだ。
「ソフィア……?」
 ソフィアの祝福のような気がして。なんだか成長を認めてもらったような気がして。
「ありがとう!」
 円はパッフェルと共に振り返って、もう一度ソフィアに感謝した。