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空を観ようよ

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ペンフレンド

 帰宅したクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、テーブルの上に郵便物を置いた。
 今日の郵便物はダイレクトメールとカタログだけで、特別なものは何もなかった。
 特別な行事はなにもない、とある秋の日――。
 クリスティーは室内着に着替えると、便箋とペンをとった。

 親愛なる……と書きかけて、ペンを止める。
(これはもうやめた方がいいかな)

 拝啓
 仲秋の候 お変わりなくお過ごしでしょうか。


 出だしは普通に、そう書き始めた。
 手紙の相手は、ペンフレンドの桜井静香――百合園女学院の校長だ。

 ラズィーヤさんがお戻りになられて、本当に良かった。
 静香さんが皆と共に、頑張った成果だね。
 ボクも駆け付ける事が出来ればよかったのだけれど、行けなくてごめんね。パートナーと一緒に東京で


 そこまで書いて、一旦ペンを止めた。
 白輝精と書くか少し悩んだ後に、こう続ける。

 ヘルローズ・ラミュロスの手伝いをしてたんだ。
 機会があったら、その時の様子を聞かせてくれないかな?


「風の便りで少しは聞いてるけれどね、静香さんが果敢に頑張っていたってこと」
 ふっと微笑みながら、残りの行にはたわいない雑談を書いて。
 封筒に入れて、封をして。
 翌日の外出時に、手紙を送ったのだった。

 静香からの返事は、およそ半月後にクリスティーのもとに届いた。
 手紙には、ラズィーヤを迎えに行った時の事が書かれており、その時に恋人と結婚の約束をしたということも、嬉しそうに書かれていた。
 ただ、また両方の家に挨拶いく予定も立てていない口約束に過ぎず、結婚は少し先になるようだ。
 その他にも、百合園で行われた行事の事や、プライベートで言った映画のことなどが、びっちりと書かれていた。
 静香本人の姿も映像もないけれど、静香が幸せに過ごす様子が目浮かぶようだった。

「直ぐに返事を書きたいところだけれど、あまり頻繁にやりとりするのは控えた方がいいかな……。
 フィアンセがいる人と、2人きりで会うようなことは絶対にしないけれど」
 静香にも相手にも、誤解が発生するようなことはするつもりはなかった。
 出来ればお相手もいるような……そう、パーティなどで自然に話せたらいいのだけれど、そういうい場では静香は決まって要人の接客に回っており、なかなかゆっくり話をすることは出来ない。

 婚約おめでとう。
 幸せな家庭を築いてください。


 次の手紙で、クリスティーはまず、静香の婚約をお祝いした。
 静香の結婚式には主席したい人が沢山いるだろう。
 学校の生徒全員を呼ぶわけにもいかないし……いや、ヴァイシャリー家が後見人として式を取り仕切るのなら、披露宴に全校生徒を呼んでもおかしくはない。
 そんな風に大きく行うのなら、自分も二次会くらいは参加したいなとクリスティーは思う。
 もしかしたら、静香からの手紙に、結婚披露宴の招待状が同封される日が来るかもしれない。

 自分は当面は薔薇の学舎に所属する者の矜持を持ってシャンバラとパラミタに美を……ジェイダス理事長の眼鏡に適う美しさの片鱗でも与えられればと思います。
 もっともボク自身がそれに相応しいのかはいつも自問する日々です。


 苦笑をしながら、そう綴る。
 クリスティーの身体が女性であることを、静香は知っている。
 もしかしたら……ジェイダスあたりは気付いているかもしれない。
 それでも入学出来て、ここに居る。
 それは、クリスティーも美を作る一人として、認められているからと考えていいのだろうか。

 手紙を書き終えると、封をして、前回とは違う封筒へと入れる。
「あまり早く出すと負担になるかもしれないから」
 クリスティーは封をした封筒をデスクの上に置いておく。
 すぐに出しても、頻繁に出しても、静香は迷惑などとは一言も言わずに、喜んでくれるだろう。
 そういう人だ。
 それに甘えてはいけない。
 親しみを感じる友である静香が幸せであるために。
 互いの幸せを喜び合える仲であり続ける為に。
「3日後に出そう。その次は、年賀状かな」
 自分の方が気を付けて、適度な距離を保っていこうと、考えるのだった。

 メールを用いれば、簡単に連絡が取り合えるだろけれど。
 互いの直筆で書かれた手紙からは、今では文字の調子で、互いの感情をも読み取る事が出来る。
 最近の静香からの手紙は、幸せの感情が強く表れていた。
 そんな手紙を読むクリスティーの心も、幸せに包まれていく。

 いつもありがとう、クリスティーさん。
 お手紙読むと、幸せな気持ちになるよ。


 次の静香からの手紙には、そう書かれていた。
「こちらこそ」
 微笑みを浮かべながら、クリスティーは便箋とペンをとる――。