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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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 少し前。探索隊側。
「突入まではまかせてねー! ちゃんとお仕事するからね!」
 メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)は、パートナーのロザリンドからお願いされて、ルシンダの護衛についていた。
「近づきすぎないようにしないとね。突入前に怪我したら、行けなくなっちゃうしね」
 メリッサはホークアイと超感覚で、要塞の動きに注意を払っている。
「バリアに穴が開けば、突入は可能と思われます。でも、要塞内は飛空艇に乗ったまま移動することは難しそうですよね」
 同じく、シャロン・ヘルムズ(しゃろん・へるむず)もルシンダの護衛についていた。
「はい。足手まといにならないよう、頑張ります」
 そう答えるルシンダだが、言葉とは違い彼女は落ち着いているように見えた。
(神様、だからかなー。戦う力、ないみたいなのに、怖くないのかな?)
 メリッサはちょっと首を傾げる。
「一緒に行く方々を頼ってくださいね。ルシンダさんの力に皆も頼らせていただくのですから」
「ええ。シャンバラの皆さんのこと、頼りにしています。探索隊に参加されている方々も素敵な方ばかりですから」
 シャロンの言葉に、ルシンダは頷いて微笑みを見せた。
「こちらのメンバーは物資を持って歩く余裕はないと思うが、最低限入口付近においておいてくれ。あっても困らないものを調達してきた」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)は、作戦には参加せず、付近を回って火薬や魔法効果のある回復薬の調達に努めていた。
「ありがとう。教導団の援軍からも物資は分けてもらえるはずだ。そちらの受け取りと配給もキミに任せていいか?」
 飛空艇で要塞を追いながらの優子の言葉に、輪廻は強く頷く。
「ああ、必要なものがあったら、連絡をくれ。届けられるよう、出来る限り努力する」
 ただ、突入場所が2つに分かれてしまったことに、輪廻は不安感を覚える。
 特に優子が直接率いて突入するという第1班の方は、時間がないとはいえ危険すぎる作戦だ。
 図面はあるのだが、それがどれだけ正確なものかもわからない。
 その先陣を切るほどの力は、自分にはないと輪廻は考えるが……。
 先陣を切った者が、無事帰還できるかどうかについて考えると、どんな優れた能力を持っていても、難しいのではないかとさえ思えてしまう。
「私の命令には、要塞突入まで従って貰う。その先、どう動くかは、各々の判断に任せる。深入りしない勇気もまた必要だ。家族があるのなら猶更」
 優子が通信機で探索隊のメンバーに呼びかけている。
 空京では、浮遊要塞を撃墜する準備が進められている。
 要塞が空京に近づけば近づくほど、ミサイルの撃ち落としは困難になり、攻撃や残骸が空京に降り注ぐことになる。
 上空から爆弾の投下をさせるわけにはいかず、空京の上空にたどり着いてしまった場合、破壊が成功しても、空京へのダメージが計り知れない。
 突入することにより、多少攻撃の手を緩めざるを得なくなるため、要塞の速度がまた上がってしまう可能性もある。
「国軍に所属する者は、留学生の私が言わなくても解っているとは思うが、制御室でまず行うことは……防衛システムの解除だ」
 タイムリミットまで1時間はないだろう。
 その間に、要塞内部の制圧。もしくは、脱出が出来なければ――。
 軍による一斉攻撃により、中に残っている者ごと、アルカンシェルは破壊されることになる。
「皆、帰って来いよ。出口で待ってる」
 輪廻は周囲にいる仲間達に声をかける。
 皆、ああ、と頷く。しかし。
「やれることはやる。後悔はしたくない! 命を賭けて止める」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)はそう吼えた。
 牙竜は十二星華の一人、セイニィ・アルギエバを愛している。
 彼女達が未来へ進むための障害となるものならば、何であれ排除しなければならない。
 強い決意を持ち、牙竜はこの場にいる。
「こんなのが空京に近づいたら、どれだけの人が犠牲になるか想像もつかないよ」
 そう言ったのは、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)
「ロイヤルガードとして招集もかかっていたけど、それ以前にパラミタを第二の故郷とするボクら契約者がこんな事態を見過ごせるはずがないよ!」
 カレンも優子の言葉を聞いてもなお、突入への強い意思を見せる。
 このタイミングで要塞が出現したことや、エリュシオンの女性――ルシンダの存在に、何かひっかかるものを感じていたカレンだが、どちらにしても今すべきことは一つ。
 要塞を止めることだけだ。
「絶対に止めなきゃ!」
 その為に侵入し、進むうちに疑問も解けていくだろう。
 そう思いながら、意気込んでいく。
「命を無駄にするなよ。だが……頼んだ」
「うん、行ってくる!」
 カレンや皆が輪廻に答える。
 輪廻は物資を支援係の亜璃珠に預けると、皆を見守りつつ、送り出した。
 誰一人犠牲にしないために、出来る限りのことをする覚悟を持ち、物資調達と配給を急いでいく。
「対策は任せて。制御に失敗した時のことも考え、ちゃんと脱出経路も考えておくから。最後まで残ろうとかバカなこと考えないでよ?」
 亜璃珠は通信を終えた優子に、そう言った。
 優子はごく軽く笑みを浮かべただけで、頷きはしなかった。
 強い意志を感じる、真剣な目を見て。
 亜璃珠は、ああ止められないな……止められる状況でもないけど、と密かに思う。
「砲身が動いたわ。準備はいいかしら」
 ブレスレット型の戦乙女の心を使い、防御フィールドを展開させる。大人3、4人を守れる特殊な盾だ。
 レッサーワイバーンを操り、優子とゼスタが乗る飛空艇の前に出て、背に庇いながら要塞へと接近していく。
「誰か乗ってるのかな? わーっと戦闘機が飛び出してこないところを見ると、どこかの軍隊に乗っ取られたってわけじゃないみたいだけど」
 ヘルは疑問を口にしながら、不測の事態に対して注意を払っておく。
 騎乗しているヒポグリフの前には呼雪が乗っており、呼雪はアレナの傍にいるタリアと連絡を取りながら、突入に備えていた。
「ユノちゃん、そろそろ行くようだけど、準備はいい?」
「はい、ご指示をお願いします」
 一人、機晶姫用フライトユニットで飛ぶユニコルノに声をかけると、感情の籠ってない声が返ってくる。
 なんだか最近変だなと思いながらも、ヘルも突入に備える。
「アレナさんも……ティセラさんや、ザクロさんも……ここで暮らしていらっしゃったのでしょうか。思い出の場所、あまり荒らさずに済めばよいのですが」
 ワイルドペガサスで近づく、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)の言葉に、ユニコルノがぴくりと軽く反応を示した。
「ところでこれ……いやこの仔は大丈夫か」
 ジュリオ・ルリマーレン(じゅりお・るりまーれん)が、ちらりとアレクス・イクス(あれくす・いくす)を見て、エメに問う。
「がんばるにゃう!」
 アレクスはプレゼントボックスに入った、猫のぬいぐるみだ。
 こんな物……というか者をつれていて、よくこの厳しい作戦への同行が許可されたものだと、ジュリオは密かに思ってしまう。
「情報連携役に必要なんですよ。本人も自分の力については良くわかっていますから、大丈夫です。機晶姫ですから、飛べますしね。一番の足手まといはもしかしたら、私かもしれません」
 いざとなったら、アレクスがエメ……のことを乗せて脱出……は無理でも、自力で飛ぶことはできる。エメのことはヴァルキリーのジュリオが担いでいくこともできるだろう。
「ボクは援護のスペシャリストにゃーう!」
「……」
「ジュリオ、ボク離宮にもいたにゃうよ。きゅーと☆な猫は作戦に必須にゃう」
「!?」
 張り切っているアレクスの姿に、ジュリオは更に心配になっていくが、作戦に集中しなければ互いに危ないため、余計なことは考えないよう精神統一をしていく。
「このまま内部も進めるといいんだけどね」
 エメのもう一人のパートナーの、リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)がそう言う。
 リュミエールはエターナルコメットに乗って、エメとジュリオの後ろからついてきていた。
 エターナルコメットは大きくはない箒なので、担いで移動することは可能だが、狭い通路や部屋を移動するときは、飛んで移動するのは難しいと思われる。
「しかし、マ・メール・ロアもそうでしたが……アルカンシェルはフランス語で虹。見かけと違い、可愛らしいお名前ですね」
 エメはアレクスに指示を出し、宮殿にマ・メール・ロアの資料確認の依頼を出していた。
 既に簡単な返答が届いており、マ・メール・ロアとアルカンシェルにはつながりはなく、設計者が一緒ということもなかった。
 ただ、マ・メール・ロアの設計者(故カンテミール)がアルカンシェルの存在を知っていて、アルカンシェルをモデルにマ・メール・ロアを作ったようではあった。
 空京の会議では、エリュシオンに情報提供を求める声もあがり、エリュシオンの政府と連絡も取ったのだが、エリュシオン側が把握しているのはその程度で、アルカンシェルについては、何も知らないということだった。
「アルカンシェル……見覚えはある。だが、関わりは全くなかった」
 ジュリオがアルカンシェルを見ながら呟いた。
「前から連絡が入りました」
 刀真と連絡をとりながら優子に報告をする。
「皆を月に連れていけるほどの性能があるかどうか聞いてもらったんですが、もしかしたらあるかもしれない、とのことです」
『月夜の質問に関しては、住居に使っていただけだとのことだ。それ以上の詳しいことは知らないそうだ』
 刀真の携帯電話から前の声が響いてくる。
 月夜は要塞の役割について聞いていたのだが、アレナは防衛設備十分な頑丈な家としか把握していなかったようだ。
「わかった。制御を目指したい、が……」
 中の状況も分からないため、優子はそれ以上何も言えなかった。
「花音特戦隊として……隊がなくなった今でも、私がやることは変わらない。ブライドオブシリーズの一つを、確保するよ」
 そう言ったのは、花音特戦隊であった琳 鳳明(りん・ほうめい)だ。
「それをすることで、空京への攻撃を止めることが出来るかもしれないし。それぞれが、自分の目標をしっかりと定めた方がいいよね」
 鳳明の言葉に優子が頷く。
「宮殿では会議が続けられています。白百合団は空京警察に協力し、避難活動に当たっているようです。アレナ・ミセファヌスさんは、屋上でミサイル迎撃に備えているようです」
 鳳明のパートナーのセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)が、テレパシーで得た情報……各方面にいる、冒険屋の仲間から得た各現場の情報を優子に掻い摘んで話していく。
「イコンの攻撃部隊の方は、第2班の突入に合わせて攻撃を行うための準備を整えているところです」
 セラフィーナは、有志で集まった部隊についての情報も得ていた。
「引き続き、テレパシーで状況の把握を頼みたい。こちらの状況もキミはまずは、教導団に送ってほしい」
 セラフィーナと鳳明は教導団員。国軍にスムーズに情報を伝える為に、彼女達の能力はありがたい。