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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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「他人様の街にいきなりミサイル攻撃たぁ、躾のなってない浮遊要塞だな。あのマ・メール・ロアでさえやらなかったぞ」
 知らせを受けてすぐ、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、要塞の方へと進路変更をした。
「空京には、冒険屋ギルド本部もある……そんな悪戯にはお仕置きで返さないとなッ!
 彼はパートナーのロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)と共に、イコンで空京に向かっている最中だった。
「いや、イコン一機で出来ることなんて少ないよ? それよりこのまま空京に向かって備えた方が……」
「よし、ミサイルを投げ返すぞ!」
 エヴァルトはロートラウトの言葉を聞かず、そんなことを言いだした。
「……えぇえ!?」
「捉えることが出来れば!」
 驚くロートラウトだが、エヴァルトは意気込みながら要塞と空京の間で待つ。
「無理無茶無謀!」
「無理でもやる、無茶でもやる、無謀でもやる!」
 エヴァルトの気持ちは変わりそうもない。
 止めることはできないと諦めて「同乗するボクの身にもなってほしいよ……」と、ぼやきながらも、ロートラウトも備えることに。
「エンジン出力の調整は任せて! 通信装置の調節もやるから、操縦だけに専念してくれればいいよ」
「よぉし、来たぞ!!」
 浮遊要塞の砲台に動きが見える。
 次の瞬間に、砲台からミサイルが発射された。
 エヴァルトは飛行形態から人型に翔龍を変形させて、落下しながらミサイルを迎える。
 しかし、タイミングが難しく、凄まじい速さのミサイルを抑えることは不可能だった。
 下手すると、直撃を受けて機体が大破しそうだ。
「脱出装置は結構しっかりしてるから、危険になったら強制脱出だよ」
 ロートラウトはそう言いつつ、エヴァルトのサポートを続ける。
「射程的に、まだ空京には届かないようだな」
 何度も挑みつつ、エヴァルトはタイミングを計る。
 投げ返しは無理そうだが、一発であっても自分達の力で止めてみせると果敢に挑み続けるのだった。

「あれは生身じゃどうにもならないよね」
 飛んでいった中距離ミサイルを見ながら、葦原 めい(あしわら・めい)は言った。
「契約者であっても、十二星華であっても、肉体は生身の人間ですから。直撃を受けたら、何一つ残らないでしょう」
 マリー・ランチェスター(まりー・らんちぇすたー)がそう答えた。
 宮殿の屋上では、十二星華のサジタリウス――アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が、星剣を構えて警備についているという。
「わたくしの役目は、学友のアレナさんの負担を減らすことと考えています。私達にミサイルを止めることが出来なくても、射手のアレナさんの前に追い込んでご覧に入れます」
 マリーは、アレナより近くでミサイルの対処に当たることで、得られた情報をアレナに随時送る予定だった。
「そういえば、アレナちゃんの星剣の力って、ロリちゃんまだ見たことないんだよね。本当にミサイル撃ち落とせるのかな?」
「外さなければ、大丈夫でしょう。彼女の周りには沢山の協力者がいます。正しい情報さえ届けられれば、彼女は必ず、空京を守ってくださるでしょう」
 ローリー・スポルティーフ(ろーりー・すぽるてぃーふ)の疑問に、マリーはそう答えた。
「それでも、空京まで届かないのが一番だよね。よし、色々やってみよー!」
 ローリーが愛機ヘラクレスなんとかに乗り込む。
「お願いしますね」
 マリーは乗らずに、通信機、籠手型HCを用いて、空京にいる友人、仲間達との通信だけを担当する。
「よし、ちゃんと体勢整えて、撃ち落とすよ! レーザーバルカンなら、対空迎撃には最適の武器だよね」
「届く場所まで近づきませんと」
 めいと八薙 かりん(やなぎ・かりん)は、ウサちゃんに乗って、迎撃準備。
 ウサちゃんは飛べないので、高所を飛行中の要塞やミサイルに近づくことは難しい。
 高所に出て、空を飛ぶミサイルを狙って撃ち落とすことを目指す。
「まだ空京は射程外のようです。ただ、射程外と解っていて打ち込んでいるからには、他に何か目的があるのかもしれません。空京を攻撃できる武器も備わっている可能性はあります。ですから、油断はしないでいてください」
 電波の悪い中、マリーがアレナに連絡をすると「はい」という返事が返ってくる。
 ちょっと不安気なその声に「頑張りましょう」と、力強く思いを込めてマリーは言っておく。
「先ほどのミサイルは、国軍が撃ち落としたとのことです。――次、来ます!」
「弾幕行くよ!」
 かりんが受信した情報を皆に伝え、めいは即座にレーザーバルカンを発射。
 空を飛んでいた複数のミサイルを撃ち落とす。
「止まれ、止まれ、止まって!」
 ローリーはミサイルに停止を呼びかけながら、ヘラクレスなんとかを加速させ、接近。
 古代の要塞であるアルカンシェルが、空京を異物として排除しようとしている。……その可能性も、ローリーは考えた。
 それならば、パラミタ人である自分が、パラミタ種族の巨大カブトムシに乗って、停止を呼びかけたのなら、反応がありはしないかと思ったのだけれど。
 要塞はヘラクレスなんとかの方にも、攻撃を浴びせてくる。
「ミサイルに関しての情報を頂戴。躱しながら、大変だとは思うけれど」
 マリーは地上から携帯電話でローリーに指示。
「乱発してるのは、近距離戦闘用のミサイルだね。空京を狙えるようなのは……」
 あるかどうかは分からない。
 ただ、新たな発射台から大きなミサイルが覗いていることにローリーは気付いて、攻撃を避けながら接近。
 めいもその報告を受けて、考える。
「接近して、発射時に発射口に攻撃すれば、要塞も無事じゃすまないんだろうけど」
 成功した場合、攻撃した側も、中にいる突入班のメンバーも無事ではすまないだろう。
「発射直後に情報を送ります。迎撃の準備、お願いします」
 続いてマリーは要塞を注意深く見ながら、アレナに連絡を入れる。
「威力くらいは弱められるはずだよ!」
 めいはレーザーバルカンで近距離ミサイルを落し、続いて発射された中距離ミサイルに攻撃を放った。
 うさちゃんの攻撃は届いたようだけれど、撃ち落とすまでは出来なかった。
『無理……しないで……い。こち……大丈夫です。私……ちゃん……頑張ります……ら』
 電波状況が悪い中、途切れ途切れのアレナの言葉が、マリーの携帯電話に届く。

 教導団中尉のクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)が率いる部隊は、空京島を背に控えた、最終防衛ラインの防衛に志願し、任されていた。
 クレーメックは現場の指揮を、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)少尉に任せ、自身はゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)が操縦する大型飛空艇ノルトに乗っていた。
『今いるポイント、そしてもう一つのポイントにも、民家はないわ』
 パートナーの三田 麗子(みた・れいこ)からの報告がテレパシーでクレーメックに届いた。
『飛び回って確認したけれど、人の姿もなかったわ』
 麗子が向かった2か所のポイントは、湖と険しい山岳地帯だった。
『付近の住民の避難誘導には別の隊が当たっているはず。だから、この2か所のポイントなら大丈夫』
 人を巻き込むことはないと、麗子はクレーメックに説明をする。
「ではその場から速やかに離れてくれ」
 クレーメックはそう麗子に指示を出すと、ゴットリープに近づく。
「誘導ポイントが決まった。ミサイルに寄せてくれ」
「わ、解りました」
 ゴットリープは新米士官だ。
 緊張で声が僅かに震えてしまう。
「落ち着いて、ゴットリープ」
 パートナーのレナ・ブランド(れな・ぶらんど)が、穏やかな声で彼を励ます。
 ゴットリープがこれから行うこと。
 それは、飛んでくるミサイルを目視で確認可能な位置まで、飛空艇を近づけること、だ。
 一歩間違えば死に直結する危険な任務だった。
「ミサイルの目標はあたしたちの飛空艇じゃないわ。直撃コースに入らない限り、大丈夫だから」
「そ、そうだね」
 その声も、震えてしまった。
 ゴットリープは荒い呼吸を繰り返しながら、自分を必死に落ち着かせていく。
 少しでも機敏に機動出来るよう、この飛空艇には飛行に不必要な武装はしていない。
 イナンナの加護で危険への反応力を高め、ホークアイの能力で視力を上げて、ゴットリープは任務に当たっている。
 リーダーのクレーメックは既に、自分の傍にはいない。
(落ち着け、落ち着くんだ。飛行訓練の通りにやれば、きっと上手くいく……はずなんだから)
 その後すぐ、通信機に要塞が空京方面にミサイルを発射した旨、連絡が届く。
 地上から迎撃を目指した者もいたが、射程も足らず失敗している。
(ゴットリープがこんなに頑張って、恐怖と戦い続けているのに、あたしには傍で見ている事しか出来ないなんて……自分が情けないわ)
 レナは飛空艇を操縦しているゴットリープを見守りながら、祈り始める。自分にはそれしかできないから。
「アイシャさま、歴代のシャンバラ女王さま、関帝さま、我が家のご先祖様……どうか、お願い、ゴットリープを死なせないで」
「!!」
 レーダーに反応が出た。正面方向。急速に近づいてくる物体がある。
 ゴットリープは歯をかみしめる。
 激しい緊張と恐怖に襲われながらも、操縦桿を握る手は狂わせない。

 クレーメックは、先端テクノロジーの能力で、ミサイルの弾道を計算し、ゴットリープに伝えると、彼の腕を信じ、甲板で手すりに体を固定させた状態でミサイルを待っていた。
 ミサイルは砲弾とは違う。
 ミサイルは推進と、誘導装置を備えた兵器だ。
 投げた後は、状況に任せて飛ぶしかない矢や銃弾とは違い、遠隔や、自立操作によって目標に誘導される。
 真っ直ぐと空を見据え――ミサイルが見えた途端、クレーメックはテクノパシーの能力で、ミサイルの操作を試みる。
 しかし、ミサイルはノルトの傍を、凄まじい音と風を起こし、通過していってしまう。
「古代シャンバラの技術の操作は難しい、か」
 ならば、要塞内の操作も現代、地球人が習得できる知識では難しいはずだ。
 それとも、ミサイルを遠隔操作している人物がいるのだろうか。
 クレーメックは状況の厳しさに眉間に皺を寄せた。

「オレたちが最後の壁だ。イコンが破壊されても構わん、必ず守り抜く!」
 ケーニッヒの元に、ゴットリープから、ミサイル通過の連絡が届く。
「わかってるわよ。ここで止めないと、被害が出るからね」
 ハンジャールを操りながら、神矢 美悠(かみや・みゆう)が答える。
 ハンジャールは一人乗りのイコン。ケーニッヒは同乗しているだけで、操作に加わってはいない。
「落ち着いて、肩の力を抜け。そうだ、深呼吸してみろ」
 その分、言葉でパイロットの美悠を落ち着かせ、最大限励まし、ハッパをかけようとする。
「大丈夫、落ち着いてる」
「ははっ、今更、ビビッたって始まらねぇよ……腹括って、ドーンと行けよ、ドーンとな!」
 ただ、威勢の良い言葉とは裏腹に、ケーニッヒの心の中は重圧への焦りとパートナーを応援することがしかできない自分に対する無力感でいっぱいだった。
「あーもう、イヤになっちゃうなー。何だかんだ言っても、結局、あたしたちって、態の良い敗戦処理投手じゃない」
 美悠は恐怖は口にしなかったが、ちょっと愚痴をこぼす。
 自分の任務は、空中特攻をして、破壊すること。
 このイコンは壊れても問題のないイコンだ。
 つまり、身体を張って止めるということ……。
「いや、止めることができさえすれば、仲間の勝利につながる。勝ち投手になれるさ!」
「二階級特進して?」
「……死ぬもんかッ、く、来るぞ! 上手く捕まえろよッ!!」
「行くわよっ!」
 美悠はイコンを操り、空を駆けてミサイルの前に飛び出す。
 抱える動作が整う前に、既にミサイルは目前に迫っていた。
「そら、今だ、空中キャーーーッチッ!!」
 ケーニッヒが大声を上げる。同時に。

 ドォン!

 ミサイルはその場で爆発を起こす。
 地上と周囲に控えていた国軍の隊員が、爆発の対処と、2人の救出に当たる。