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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

リアクション

「砲撃用のエネルギー炉がいくつかあるようですね。捕らえられた人達はその中にいるとみていいでしょう」
 エルデネストが、サイコメトリで倒した機晶ロボットから情報を読み取りながら言う。
 明子達が何者かと接触したことは知っていたが、対処は彼女達に任せてグラキエス達は予定通り捜索を優先していた。
「半数以上の炉が稼働していますね。その中の一つでしょうか」
 鎧となっているアウレウスの言葉に、グラキエスは頷きトレジャーセンスの能力で慎重に辺りを見回す。
「怪しいのは、4か所。だが、どうやって見分ける」
 サイコメトリで得た情報から炉と思われる装置。その中で稼働しているもの。大きさなどから、怪しい場所の目星はついていた。だが、破壊するにしても時間を要してしまう。
 捕らえられた人々とはテレパシーも通じない状態だという。
 おそらく意識がないと思われる。呼びかけても反応はないだろう。
「グラキエスか!」
 リフト側から下りてきたゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)ジュリオ・ルリマーレン(じゅりお・るりまーれん)が駆けてくる。
「神楽崎達の居場所は?」
 ゼスタの問いに、グラキエスは4か所の装置を指差した。
「おそらくあのどれかの中だ」
「手分けして破壊をしている時間はありません。……リュミエール……」
 エメは携帯電話を取り出した。
 鉄格子の中で、一瞬だけ。
 エメはゼスタに、消えたパートナー、リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)のことを頼もうかと思った。
 自分達は、要塞の探索の為に来た。
 だけれど、リュミエールは大切なパートナーで見捨てるわけにはいかない。
 でもそれは、私情であり、元々生還できる保証のない作戦で来ている。空京に要塞は迫っており、時間がない。
 ……だけれど、やはりエメはリュミエールと仲間達の救出に同行することにした。
 檻の中で鉄柵を壊しながら考えた、結論だった。
 何が一番大切か、悩んだ末での結論だった。
 ――パートナーを助けて、皆も助ける――。

 真っ暗で何も見えなかった。
 目を開けているのかもよく解らない。
 体中の力が抜けていくような感覚。
 眠ってしまいたい。
 深い眠りに落ちてしまいたい。
 だけれど、眠ってはダメだ。
 記憶が混濁して、正常に物事を考えることが出来なくなっていても。
 ここから、出なければならない。
 自分にはすべきことがある。
 その思いは、その場にいた者達全員が抱いていた。
(まいったな、シャンバラの民を……守る、どころか俺自身が……助けてもらう立場になっちまった……)
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、何も見えなくとも、周りを見回して。
(まぁ……無駄に、体力を消費したくねぇし、今は寝ておくか……)
 優子がいると思われる方向を見た後で、目を瞑る。
 垂の隣にいる、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)も、垂と同じように目を瞑っていた。
 捕らえられた瞬間に、垂と目を合わせた彼女は、垂の意図を感じ取っていたから。
(この感覚、多分、僕達の生命力を……吸収しているんだろうな……)
 朦朧としながらも、ライゼはそれを理解していた。
(……なら、元は僕なんだから、僕の言う事を聞いて『誰も、何も傷付けない攻撃』に……なって!)
 その思いをずっと抱き続ける。

 誰の声も聞こえない。
 うめき声さえも――。
(ここに何をしにきた?
 ……足手まといになって、作戦を中断させ、ては……いないか……。
 そんな、事の為に――来た、わけじゃ……ない)
 助けは来るだろうか、そんな余裕はない、はずだが。
 リュミエールは消えそうな意識の中で、そんなことを考えていた。
 ピ……ピロ……ピ……。
 音が、聞こえてきた。
 聞きなれた、いつもの音。
 リュミエールは、どこにあるのかもよく解らない自分の重い手で、掴んでいた携帯電話のボタンを押した。

「繋がりました! リュミエール、リュミエール、聞こえますか?」
 リュミエールにかけたエメの電話がつながった。
 だが、返事は返ってこない。
 機械の稼働音だけが響いている。
「炉を叩いてみてください」
「分かった」
 グラキエス、ゼスタが炉の方へと走り、武器の柄や素手で、炉と思われる装置を叩いて回る。
「……分かりました。リュミエールがいる炉は、あちらです」
 携帯電話から響いてくる音で、エメは判断する。
「力を貸してくれ。下手な方法で砕いたら、暴発の恐れもあるからな」
 グラキエスは皆に声をかけながら、その炉へと走る。

「優子達がいるのは、この階か!?」
 吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は、ある程度の情報を得てから、格納庫を出発し、優子達が捕らえられていると思われるエネルギー室を目指していた。
 慎重に、音を立てずに、戦闘は極力回避して進んでいる。
 銃型HCでマッピングしたデータも、逐一仲間へと送っていた。
 ちなみに、電波が届いていないため、外部とは銃型HCでも連絡は出来ない。
 ただ、HC同士はトランシーバーと同じような、無線通信能力がある。
「エネルギー室はこの辺りで間違いないでしょうね」
 答えたのは、エネルギー操作、制御の為に訪れた夜霧 朔(よぎり・さく)だ。
「1班の奴らが先に向かったようだなァ。派手に壊れてるぜ」
 エネルギー室への入口と思われるドアは、破壊されている。
 竜司は慎重に光学迷彩で隠れつづけ、音を立てないように進む。
「待ってください」
 竜司より先に進もうとしていた朔が壁際に飛んだ。
 途端。人工翼をつけた男が、高スピードでこちらへと向かってくる。
(知らない顔だ。オレと優子が選んだ奴じゃねぇな)
「道を開けてもらうよ」
 手を広げ、男が魔法を放つ。
「う……っ」
 怪我はしていないのだが、心が強い衝撃を感じた。朔と竜司の身体が動かなくなる。
 続いて、男は爆風の魔法を放った。
 真正面にいた竜司をキノコマンが庇うも、吹っ飛んで共に壁に衝突。
 朔は壁際に居たため、直撃は免れた。
 その間に、男はリフトへと飛び出し、上層に飛んで行った。

「深追いはしなかったわ……。後方は任せて」
 明子は男を追うかどうか少し迷った。
 だが、こちらも機晶ロボットがいつ襲ってくるか分からず、手が足りているとはとても言えない状態だ。
 逃げる者を仕留めるより、今は仲間の命を守ることに専念することにした。
「この中に、神楽崎優子様もいらっしゃるのですか?」
 身をひそめて探っていたマリカがゼスタと合流をする。
 マリカのパートナーの亜璃珠は、剣の花嫁をパートナーに持つため、用心のためまだ下りてきていない。
「多分な。さてどうする? 破壊しちまいたいところだが、人力では無理じゃね?」
 ゼスタは背負っていた大剣をカツン、カツンと炉に当てて、厚さを測っていく。
 彼が大剣を背負っているのはカモフラージュの為であり、技量はあるが、力技は得意ではない。
「ここから入れないか?」
 グラキエスが取ってに気づき、引っ張ってみるが開かない。
 その直後。
 プシューという音が響き、蒸気が流れ出る。
「全てのエネルギー装置を停止させた!」
 端末を操作していた牙竜がそう叫ぶ。
 もう一度、グラキエスは取ってを回して、引っ張ってみる。
 厚いドアが開く……。その先には、巨大金庫の扉のような扉があった。
「開けるぞ!」
「ああ」
 ゼスタとグラキエスで扉を外へと開く。
 ――中は真っ暗だった。
 嫌な感覚を受ける。身体が重くなるような。
 暗くて狭い空間の中には、捕らえられた契約者達が倒れていた。
 光の翼をもつ、ジュリオが真っ先に飛び込んで、同じ人物をパートナーとするリュミエールを抱え上げる。
「優子はそこかー!」
「垂達もその中にいるのですか?」
 駆け付けた竜司、朔も炉の中へと入り込む。
「……っ、吉永、か」
 優子が小さな声を上げる。
「おう、今出してやるからな」
「……剣の花嫁を、先に……」
「そうか。それなら一緒に連れ出すぜ」
 竜司は倒れていた優子と、傍に居たセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)を抱えて、外へと連れ出す。
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)の手を握りしめたまま、眠っていた。
「何でこんなところに……いえ、話は後ですね」
 朔はSPリチャージで、ライゼ、垂の順番で精神力を回復させてから、引っ張り出す。
「よく頑張ったな。口移しで生命力を分け……とかやってる場合じゃなねぇよな、さすがに」
 そんなことを言いながら、ゼスタはベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)をお姫様抱っこして、外へと運び出す。
「魔法で回復するかしら? とにかくリカバリ、リカバリですよ」
 六韜が救出された剣の花嫁とパートナー達にリカバリをかけていく。
「物資を預かっています。栄養剤を飲んでください」
 マリカは栄養剤を皆に配り、治療とナーシングの知識で、皆を介抱する。

「制御は出来そうか!?」
 救出を確認した後、グラキエスは制御を試みている牙竜達の元へ駆け付けた。
「エネルギーは砲身に集まっているようです。どこかに放出しなければなりませんが、ここからは方向を変えることは出来ないようです」
 先に牙竜を手伝い、機器とコンピューターを確認していたエルデネスがそう答えた。
「どちらにしろ、こんなもの、残してはおけない。エネルギーが残ってようが俺はやるぞ」
 牙竜は、エネルギー炉を破壊し、この兵器を滅するつもりだった。
 アルカンシェルは大事だが、この――非道ともいえる兵器は不要だ。
「ああ、そうだな」
 グラキエスの心も決まっていた。
 破壊ともなれば、溜まったエネルギーをまともに食らう可能性が高い。
 だが、死ぬ気はない――仲間を、死なせるつもりもない。