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リアクション
★第二章・3「一息つきましょ。つきましょう」★
「餌に見えている、ということは餌に見えない色合いや形も検討すべきかもしれんな」
「そうだね。あとはニルバーナの気候や空気中のゴミの量にもよるけど、結構頻繁にメンテナンスする必要があるんじゃないかな。メンテナンスしやすい形。もしくは気候(雨風・砂嵐など)に強い形が必要かもね」
大甲殻鳥の情報を聞いた樹と屍鬼乃の言葉に、会議はさらなる混迷を見せていた。
鳥よけの対策は別の施設を建設することになっているが、アンテナ塔自身にも鳥よけ効果があって困ることはないだろう。それに鳥だけが脅威とも限らない。屍鬼乃の言うとおり、自然も十分脅威となる。
そぉ〜れぺったらぺったらぺったらこ〜
会議室に奇妙な歌が聞こえたのは、何度目か分からない沈黙が降りかけた時だった。
なんだろう、と窓をのぞくと
そぉ〜れぺったらぺったらぺったらこ〜
空にまんまるお月様が
ひょっこり顔出しあたりを照らしたら
みんな出て来い祭りだ宴だ餅つきだ
そぉ〜れぺったらぺったらぺったらこ〜
歌っていたのはアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)で、手には杵(きね)を持っている。彼の目の前には臼があり、そこには白くてもちもちした物体。湯気を出すソレをルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が畳むように中央に寄せ、アキラが杵をソレへと振り降ろし、ルシェイメアが、を繰り返している。
どういう経緯でそうなったのかは分からないものの、アキラたちは餅つきをしていた。
「なんじゃ、その歌は」
奇妙な歌に呆れた声を上げる彼女だが、楽しそうなパートナーたちの様子に深くは突っ込まない。ルシェイメアの視界の隅には、元気に動き回る姿があった。
「そぉれぺったらぺったらぺったらこヨ〜……ワタシもあとでしたいネ」
「ふふ。じゃあ、後で私と一緒にやりましょうか」
小さな体で精いっぱいアキラを応援しているアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)に、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)が柔らかく微笑む。
セレスティアは、餅つきをしている横できなこやあんこなどの準備に追われていた。そしてふっと顔を上げ、会議室からのぞく顔に気付くと
「あ、皆さん、お疲れ様です。よろしかったら、ご一緒にどうですか?」
まだ会議は途中だったが、少し小腹がすいたところだったので、厚意を受け取ることにした。それに、気分転換も必要だ。
「アキラ! 次ワタシつく!」
ぞろぞろと人が集まって餅つき大会の雰囲気になったが、小さな杵で一生懸命にもちをつくアリスの姿や、アキラの不思議で耳に残る歌に、会議での重苦しい空気など吹き飛んでいた。
普段照れ屋なお月様が
顔をすべて見せてくれてる今日この夜に
つきましょつきましょお餅をつきましょう
空に輝くお月様の
その姿をお餅に重ねて願いをこめて
いつか行ってやるぞぴょんぴょん空跳んで
空で見守るお月様
そこにたどり着きし日はいつの日か
夢見彼方の果てに想いをはせてもうひと搗きだぁ〜
「ね、ちょっと思ったんだけど」
もらった餅を頬張りながらルカルカが、笑顔で声を上げた。
「美しい施設って親しみやすく利用しやすい施設って事だと思うの。だから、いろんな人の意見を取り入れない?」
「えっと、それはどういう?」
不思議そうな顔の会議メンバーたちに、彼女は言った。
◆
アンテナ塔にて、現場を見て回っていたカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は、技師たちに向かって声を張り上げる。
「気合いいれていこーぜ!」
「おうっ」
その間もダウジングや電磁気と音波の探査装置で地下も“視て”、水脈や硬い岩の有無を確認する。発電室は地下に作る予定だからだ。会議の結果次第だが。
そんなカルキノスの元へ届いたのは、発電室の設置決定の知らせと、一枚の図案だった。それを持ってきたルカルカは自信ありげに「どう?」と笑っている。
「おいおい、こりゃまた」
一体何が描かれてあったのか。ルカキノスは呆れた声を出してから、ふっと笑った。
「まあ、らしいっちゃ、らしいか」
「でしょでしょー……あ! ちょっとこれ見て」
「2人ともお疲れ様ーって、あら。どうかしたの?」
作業員たちを応援して励ましたり、お茶や差し入れのお餅を配ったりしていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、突然の笑い声に驚いたようだった。
オペレーター見習いとして通信設備の有無が死活問題である彼女は、少しでも力になれることがあるのなら、と作業現場で走り回っていた。特殊な技能がなくとも、書類整理や資材の発注搬入を手伝うことはできる。何より、彼女の励ましの声でやる気を出す者も大勢いた。そこはさすがディーヴァ、というべきか。
「リカインもお疲れさん。いや、ルカがこれを届けてきてな」
「何々……これって」
目を見開くリカインに、カルキノスは「な? すげーだろ」とまた笑った。
「なるほどね。たしかにこれは『らしい』わね」
彼女もまた笑う。楽しいから、というよりは苦笑いだったが。
「でもま、いいシンボルになりそう」
「でしょ?」
◆
「……ということで、最終的に決まったデザインはこちらです」
翔は少し緊張しながらジェイダスへとデザインの最終稿を手渡した。
翔の提案した茶色を基調とし、右下の部分には花の絵が、左下にはなぜかウサギと月が描かれ、正面入り口の上部分にはステンドグラス(ジェイダスのデザイン)。アンテナの部分はシンプルだが、そのすぐ下には花の形をしたオブジェや棘のような突起(鳥よけ)、鋭い鷹の目のようなものが描かれている。目の部分は鏡になっているらしい。
他にも色々と描かれたり付けられたりしているちぐはぐな塔であったが、どこか愛嬌があった。
「素晴らしい」
微笑んだジェイダスは一言、そう感嘆の声を上げた。
その満足げな笑顔を見て頭を下げつつ、翔はもしかして、と思った。ジェイダスの言う『美』とは――本気のぶつかり合いによって生みだされるモノを指すのではないか。口を挟まなかったのは、だからなのでは、と。
聞いてみようか、と思って、首を横に振った。それは執事の仕事ではない。
「ジェイダス様、紅茶のおかわりはいかがですか?」
「いただこうか」
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