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【創世の絆】西に落ちた光

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【創世の絆】西に落ちた光

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★第二章・4「レッツ探検」★


 こちらは狩へとやってきたグラキエスロアたちだ。

「軟体オオカミ、か。首が伸びるなんて……この環境にどう適応していったのか、進化の過程が気になるな」
「同感です。ニルヴァーナの気候や自然はかなり変化があったはず。でも毛皮や見た目はオオカミそのままみたいですし」
「違う進化を遂げた個体もいるかもしれないな」
 たった今倒した軟体オオカミを観察しながらグラキエスが言うと、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)もまた興味深そうにのぞきこんだ。

「よしっちと食ってみるか」
「やめんか馬鹿者! 何でも食うな!」

 しかし腹が減っているロアにはオオカミがただの肉にしか見えなかったようだが、レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が叱責の声をあげて止めた。そろそろ彼の胃に穴が開くのも時間の問題かもしれない。
「分かってるっつの……あ〜どっかに美味そうなやついねぇかな」
 つまらなさそうにそっぽを向いたロアの視界に赤色が目に付いた。グラキエスだ。キープセイクと何か話しこんでいる。
 と、ロアの腹が鳴った。

(あー、美味そう。腹減った。食いたい)

「って言ってるそばから涎を垂らしてグラキエスを見るな、ケダモノ!」
「ん? どうしたロア。……腹が減ってどうしようもないと言う顔をしているな。少し、齧」
「止めてやれ、グラキエス。それよりも、これを見てみろ」

 ロアへと腕を差し出しかけたグラキエスをゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が止め、地面を示した。
 オオカミの足跡の中に、ハートを縦にし細く伸ばしたような形のものがあった。
「これは何かの足跡、か?」
「かもしれん」
 戦闘によりその奇妙な足跡はほとんど消えてしまっているが、まだ近くにいるかもしれない。顔を上げたグラキエスの目に期待を読みとったゴルガイスとキープセイクは、彼のためにも絶対見つけよう、とそう思った。

「おい、ロア! どこに行……はぁ、まったく」
 風のようにどこかへと向かうもう1つの赤、ロアにレヴィが呼びかける。しかし聞こえていないのか。足を止める気配はない。レヴィが吐き出す息は、とても重たい。
「何か見つけたのかもしれない。追いかけよう」
 即座に追いかけるグラキエスに全員続く。ゴルガイスやレヴィの中に『妙なものを食べていないだろうか』という心配が浮かんだ。ご苦労様です。

 そんな心配をされているとは知らないロアは、『なんかこっちにいそう』と感じていた。ただの勘に近いがそこに今までの経験も追加されたその感覚は、中々侮りがたいものがある。
「ん〜、ここらへんなんだけどな……何もな、ん?」
 何もない荒野。あるとすれば岩のみ。その岩の一つが妙であった。いや、妙だと思ったのも彼の勘だった。
 抱えられるほどの大きさのその岩に近付き、触ってみる。――ふにょっとした。
「マリュ〜!」
 甲高い声とともに、岩もどきが飛び上がった。逃げようとしたのを、ロアはとっさに掴んで持ち上げる。意外と軽い。

 腕の中でじたばたと暴れるソレを地球の生き物にあてはめるならば、長い垂れた耳をもつ白ウサギに近い。そのウサギの額の部分から背、尻尾までを硬い表皮が覆っている。亀の甲羅、というよりはアルマジロみたいであった。
 そこへグラキエスたちがやってきて、彼の手にした動物に目を丸くする。ロアはその生き物を掲げながら言った。
「なぁグラキエス。これ、食えるかな?」
「食うな!」
 即座に入るレヴィのツッコミ。ウサギ? アルマジロ? は、言葉を理解したわけではないだろうが、不穏な気配を察したらしくひどく暴れ、ロアの腕から脱出した。
「マリュリュ〜」
 そしてグラキエスの足元に隠れた。そのことにグラキエスはひどく驚いた。彼の魔力は、彼の意思に反して動物たちを怖がらせてしまうのだ。

 だから彼は驚いた後、それは嬉しそうに、微笑んだ。

 そんなグラキエスを見たロアも笑う。キープセイクもゴルガイスも、レヴィも、笑った。



 また別の場所では、なんとも明るい鼻歌が響いていた。
「どんな子たちがいるんだろ。仲良くなれるかな?」
「きっと葛なら大丈夫ですよ」
 南天 葛(なんてん・かずら)の不安げな声に、葛を乗せて歩いているダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)が励ますようにそう言った。
 それから背後を振り返り、葛に向けた優しい声とは正反対の厳しい声を出す。
「ベリー! なにしてるの、早くなさい」
「う、だってコレ重」
「荷物が重い? 頑張りな! 男だろう!」
 ダイアに反論しようと口を開いたヴァルベリト・オブシディアン(う゛ぁるべりと・おびしでぃあん)の背には、3人分の荷物が乗っていた。無茶言うな、と思うヴァルベリトだがダイアの目を見て「ガンバリマース」と遠いところへ目を向けた。……がんばれ!

「あ! ダイア、もしかしてあれが涅槃イルカかな?」
 一方で楽しそうな葛は、2人の会話よりもイルカに目を奪われていた。
「わっ可愛い!」
 歓声を上げる葛に対し、ヴァルベリトはどこが可愛いんだろうな、とため息をついた。見た目はただのイルカだ。可愛いと言うなら葛の方がよっぽど。
――心の中でならいくらでも素直に言えるのになぁ。
 それに満足したのか、葛はお手製の図鑑を取り出した。ずっと描き続けた結果、図鑑は大分厚みを増していた。そこには絵だけでなく、自分なりの考察が描かれた、まさしく世界に一つだけの図鑑だ。
 葛は早速イルカをかこうとするのだが、イルカは動き回る。
「イテっ何す」
 休憩しようと荷物を降ろしたヴァルベリトの頭に軽くかじりつくイルカ。とっさに追い払おうとした彼だが、葛が「ヴぁる、すごい! イルカさんに懐かれるなんて」とキラキラした目で見てくるものだから、動くに動けなくなった。
 どこをどう見たら懐かれている、になるのだろうか。

「ヴぁる、そのままじっとしててね。イルカさんを描くから」
「えっ? いや、その」
「じっとしてなさい、ベリー」

――かじられてるだけなんですけど。っというか、オレ動物苦手なんですけど?
 そんな彼の主張を聞いてくれる人はおらず、葛が描き終わるまで彼はずっと考えていた。
 葛の真剣な目が自分へ向けられることに幸福を感じればいいのか。その眼が自分ではなくイルカを向いていることを嘆けばいいのか、と。
 ガンバレ!



 ゴギュっという何ともグロイ音が下から聞こえた。

「ん〜、壊さずに殺すのはなかなか難しいね」

 戦象で大甲殻鳥を踏みつぶしたブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は、ひびの入った甲羅を見てそう言った。一番の目的は食料を手に入れることだが、甲羅は加工すればパラ実分校建設の良い資材になるのでは、と考えていた。
 情報の収集はジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)がしてくれているし、もしものために分校周辺で待機しておかなくてはならないので、そろそろ帰った方がいいかもしれない。
 すでに涅槃イルカや大甲殻鳥を何匹か倒し、荷物に入れていた。中継基地とは違い、ほとんど自給自足なパラ実分校だが、これだけあればしばらくは持つだろう。帰ったら保存方法も考えなくては。

「ま、とりあえずは食料か……何か見つかった?」
 ブルタは持ち運びしやすいよう鳥を解体しつつ、問いかけた。象に声をかけたわけではもちろんなく、共に来ていたパートナーのステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)は、手にしたメモを握りなおした。
 不思議な籠に『野生動物以外でニルヴァーナで食べても大丈夫なモノはどこにあるの?』というメモをいれたのは昨日だ。帰って来たヒントは

「ひびの入った地面……おそらくこのあたりにあるはずですわ」

 からからに乾いた地面には、あちこちにひびが入っている。どこかにあるはずだが。
 首をめぐらせた彼女とブルタの耳に、破裂音が聞こえたのはそんな時だった。
 人の気配はしない。だが2人は警戒しつつ、音の方向へと向かう。そこには縦2メートル、横6メートル、奥行き1メートルほどの岩があった。そしてその岩にへばりついている植物らしきもの。破裂音が響くようなものは何もないが――首をかしげる2人の前で、植物になった実と思われる部分が茎から外れ、地面に落ちた。
 パン!
 途端実は破裂し、中から緑色の無数の何かが当たりへ飛び散った。ブルタが近くに転がって来た緑色のそれを拾う。球、にいうにはやや平べったく、かなり硬い。
「……豆?」
「の、ようですが、どうやら先ほどの破裂音はこれのようですわね」

 食べられるかもしれない、ということで2人は豆? を持って帰ることにした。



――調査とはいえ2人きり……これはデート、だよね?
 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)と調査に出かけたイリア・ヘラー(いりあ・へらー)は、少々浮かれていた。
 この機会を有効利用して彼にいいところを見せたい! 恋する乙女のささやか過ぎる願いだ。

「ん? どうしたのじゃ? 楽しそうじゃな」
「なっななんでもないよ」

 2人が来ているのは、中継基地から少し離れたところにある背の高い岩が群れをなした場所だ。ルファンが赤茶色の岩を触ってみるとすぐに崩れて砂となったので、岩場と言うのは正確ではないが。
「知らぬ場所が多いからのぅ。あまり2人だけで遠いところまではいかんほうがよい。そろそろ戻ろう」
「えぇっ? そんな!」
 戻ろう、というルファンにイリヤはもう少し待ってくれと言った。何か、何か見つけたい。
 そんな乙女の祈りが届いたのだろうか。一歩踏み出した彼女は、何か固いものを踏みつけた。しゃがんで地面を調べる。砂を払うと出てきたのは
「タイル?」
 白っぽいタイルの欠片のようだ。ルファンが目を細める。それは明らかに人工物だ。しかもかなり古い。ということは近くに何かあるのだろう。

「ほう。これは――」
 そうして、2人はソレを見つけた。

 赤い砂に埋もれた巨大な建築物を。