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第21章 老女な少女

 エリザベートがスイーツを堪能している時間。
 アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)も、バレンタインフェスティバルで賑わう空京の街にいた。
「流石にまだ外は冷え込みますね、大ババ様は大丈夫ですか?」
 アーデルハイトの隣にいるのは、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)だ。
 彼女は彼の誘いで、今ここにいた。
「着込んできたからの。寒くはないが……今夜も冷えそうじゃの」
 街はオレンジ色に染まっている。
 もうすぐ、寒い夜が訪れる。
「それにしても、カップルが多いですね。実は、一緒にリア充爆発しろー! と言いながら街を回ろうと」
「それは良案じゃ!」
「……冗談ですって」
 ザカコが笑うと、アーデルハイトも「わかっておる」と、笑みを見せた。
 特に見たい店や、目的があったわけではなくて。
 ただ一緒に2人は会話を楽しみ、飾りを鑑賞しながら街を歩いていた。
「そういえば、大ババ様に聞いてみたい事があったんです」
「なんじゃ?」
 老人のような口調でありながら、ザカコに向けたアーデルハイトの顔は、可愛らしい少女のものだ。
「大ババ様が『リア充めー!』等と言っている姿を結構見たりするんですが、その割には相手を作ろうとする仕草を見た事がないんですよね」
「ふむ……」
「正直魅力はあると思いますし、本当にその気になればいつでも相手を作れると思うのですが……何か理由があったりするんですか」
「おぬし、わかっておるのう」
 うんうんとアーデルハイトは首を縦に振る。
 アーデルハイトは博識で、顔も広い。
 さらに、外見はとても可愛らしい。
 そんな彼女が、5千年も生きているのに、誰からもアプローチがないなどということは、あるわけがない。
(校長の先祖という事は昔に誰か相手が居て、その相手がずっと心にいるのかも……)
 ザカコはアーデルハイトを慕っていた。
 だから、彼女のことを少しでも知りたかった。
 微笑みをうかべながら、アーデルハイトを見つめて、返答を待つ……。
「遠い昔に色々あってのう……」
 そう言って、アーデルハイトはどこか遠くを見る。
「離別したあの男のことを……忘れられんところもあるのかもしれぬ。愛してなどはおらんのじゃがの」
 独り言の呟きのように、そう言った後。
 アーデルハイトは深く考え込んでいく。
「もしかしたら、少し辛いことを聞いてしまったかもしれませんね」
「……そんなことないぞ。ただ、リア充が溢れているここからは、そろそろ退散したいところじゃがの!」
「そうですね。ではこちらへ」
 ザカコはアーデルハイトを近くの店――花屋へと誘った。
「大ババ様に似合う花は……」
 少しだけ迷った後、ザカコはピンク色の薔薇と、カスミソウを花束にしてもらう。
「今日のお礼です。散歩に付き合って下さり、ありがとうございます。……受け取って下さいますか?」
 赤いリボンが結ばれたその花束をアーデルハイトに差し出して、ザカコは微笑みを浮かべた。
「私にはもったいないほど可愛らしい花じゃのう」
 そう言って受け取り、アーデルハイトは花束を抱えて笑みを見せた。
「少しは似合うじゃろうか」
「勿論、すっごく可愛いですよ」
「なるほど。まだまだ私も捨てたもんじゃないということじゃの」
「当たり前です。とってもキュートですよ」
「嬉しいことを言ってくれるのう。ま、当たり前のことじゃが!」
 微笑みながら、2人はフェスティバルで賑わう街から離れて、帰路についた。