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第25章 恋愛観

 空京の公園にあるテニスコートでテニスを楽しみ、一汗かいた後。ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)と、ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)は、公園内にあるカフェで食事をとることにした。
「普段利用しない場所でのスポーツも、楽しいものだね」
 ルドルフの言葉に、ヴィナは笑みを浮かべる。
「良かった楽しんでもらえて。たまには何も考えないで身体を動かさないと、思考も身体も凝り固まっちゃうからね」
 ひたむきなのは良いが、ルドルフには特にそういう傾向があるとヴィナは捉えていた。
「今日はありがと」
 ヴィナがそう言うと、ティーカップを手に、ルドルフが不思議そうな顔をする。
「ん? 礼を言うのは僕の方だと思うけど」
「バレンタインフェスティバル中だしね。……僕のこと、そういう意味で好きじゃないのにって、申し訳なく思ってそうに見えたから」
 誘った時に、ルドルフは迷いを見せたのだ。
 ルドルフはヴィナのことを、友として紛れもなく好いている。
 だけれど、ヴィナの恋愛感情には応えることが出来ずにいた。
「それは俺が努力をすることだし、ルドルフさんが申し訳なく思う必要もないし」
「……」
「それにさ、自分の気持ちを相手が知っている、自分に対して嫌悪していない、それだけでも俺は十分に嬉しいし、こうして一緒に過ごす時間を俺はいただいてる、ある意味贅沢な贈り物を貰ってるよね」
 そう言って、ヴィナはにっこり笑みを浮かべた。
 そんな彼の言葉に、ルドルフも口元に笑みを浮かべる。
 紅茶を一口飲んで、軽く息をつき。
 少し考えた後で、ルドルフは口を開いた。
「君と僕や、君の周り、僕の周りの人達とは、生きてきた環境の違いから恋愛観が少し違うようだね」
 ルドルフはヴィナのことを好いているが、既婚者であるルドルフを恋愛的に愛そうとは思わないだろう。
 勿論、それ以上にヴィナがルドルフの心を支配し、惚れさせたのなら、その限りではないだろうけれど。
「だから、やっぱり少し悪いと思う、けれど……。君さえよければ、こうして一緒に体を動かしたり、話を出来ることは、僕にとっても嬉しいし、僕にとってもこの時間は贈り物だよ」
「ありがと」
 ヴィナはもう一度、微笑んで礼を言う。
「ありがとう、ヴィナ」
 ルドルフも同じように笑みをうかべて、ヴィナに礼を言った。
「会話する前って、ルドルフさんって得体が知れなかったんだけど……話したら、印象が変わったかな」
「そう?」
 ヴィナは頷いて言葉を続ける。
「前は余裕ないみたいだったけど、今は落ち着いてるように見える、かな。成長したって感じ」
 だから、好きになっただろうとヴィナはルドルフを見ながら思う。
「色々あったからね。君には本当に助けられている」
 ルドルフのそんな言葉に、彼の成長に自分も影響を及ぼしたのだろうかと、ヴィナは少し嬉しく思った。

 食事を終えてカフェを出ると、公園が夕日の光で、オレンジ色に染まっていた。
「もう、タシガンに戻らないとね」
 言いながら、ヴィナは鞄の中から包みを取り出した。
 中に何が入っているのか分からない。シンプルな包みだった。
「ルドルフさん、この包みは部屋に戻ってから開けてね」
 そう言って、ヴィナは包みをルドルフに差し出す。
「中身はルドルフさんに任せるから。いらなきゃ捨ててね」
 中には手作りのオランジェットが入っている。本命のチョコレートだ。
 だけれどこの場で、それは告げない。
「……ありがとう」
 ルドルフは少し迷った後、その包みを受け取った。
 ほっと、ヴィナは息をつく。
 そして夕日に染まる街を歩き、一緒にタシガンへと帰還する。