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第27章 告白…

 バレンタインフェスティバルが行われている一帯に、空き地となっている場所がある。
 そこには、運営用のテントが張られており、各種サービスが行われていた。
 その空き地の看板に、バレンタインがテーマの何枚かの絵が展示されていた。
 それらの絵は全て師王 アスカ(しおう・あすか)の作品だ。
 愛・友愛・親愛・片思いをコンセプトに描かれた、愛、溢れる絵だった。
「わー、可愛い絵」
「これは熊のぬいぐるみのカップルだね。こんなぬいぐるみ欲しいなあ」
(良かった、なかなか好評みたい〜)
 立ち寄って見て行ってくれる人達に感謝の気持ちを抱きながら、アスカはテントの前でそわそわとしていた。
(お忙しい方だけど、手紙に絶対に来てほしいですって書いておいたから……大丈夫よね?)
 今はまだ、特に親しいわけではない。
 だけれど、自分の夢を後押ししてくれた大切な人を、アスカは待っていた。
「あ……っ」
 かなり離れていても、その人物は一目でわかる。
 イベントの一環だろうかと、人々が目を向け、注目を浴びつつこちらに近づいてくる人――ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)こそ、アスカが待ち望んでいた人だ。
「こちらです〜。こちらです〜!」
 アスカはジャンプをしながら手を振って、薔薇学生と共に歩いてくるジェイダスを呼ぶのだった。
 ジェイダスはアスカに気付き、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「お寄り下さったのですね〜。嬉しいです〜。あ、ここの絵……私が描いたものです〜」
 緊張しながら、アスカは自分が描いた絵をジェイダスに見てもらう。

「うふふ、頬を赤くして待ってるアスカ……可愛い!」
 彼女達の後方。テントの後ろに隠れながら、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)はこっそり2人の様子を覗き見ていた。ばっちり変装もしているので、アスカに見つかったとしても、すぐには自分だとわからないはずだ。
「何で俺がこんなこと……」
 その隣には、蒼灯 鴉(そうひ・からす)の姿もある。オルベールの誘いに乗った自分を恥ずかしく思いながらも、やっぱりアスカのことが気になって仕方がない。
 鴉は、先日アスカに告白したのだが、まだ返事を貰えていない。
 アスカがジェイダスを気にかけていたことくらいは、パートナーとして知ってはいたが。
 今日のこれは、なんだろう。
 顔を赤らめながら、アスカは何かをジェイダスに言おうとしている。
(もしアスカがあの校長様の事を好きなら……身を引くべきか。もし告白だとしたら……俺は)
 悶々としながら、鴉は2人の様子を見守り続ける。
「あの校長の為にまた男装しちゃって、せっかくの可愛さがもったいないわ」
 オルベールはアスカの姿に少し残念そうに吐息をついた。
 アスカは男性をより好むジェイダスに合わせて、男物の服を着ているのだ。長い髪も帽子の中に隠している。
「アスカの纏っているあの空気は……間違いない、あれは告白する乙女の顔だわ」
 オルベールの言葉に、ビクリと鴉が震えた。
「あ〜楽しい! 面白い!」
「何も楽しくないだろ」
 鴉はギロリとオルベールを睨むが、オルベールは意に介せず、この場からアスカを応援している。
「さあアスカ、告白しなさーい……お姉ちゃんがしっかりと見届けてあげるから!」
 鴉がぎりりと歯ぎしりをする。
(女悪魔め……最初から俺への嫌がらせが目的だったのか。なんつう性悪だ、後で殺す……!)
 そんなことを考えながら、アスカとジェイダスを見続ける。
 鴉の想いの人は……アスカは顔を赤らめて、ジェイダスに何かを言おうとしているところだった。
「これでバカラスとアスカのラブコメはジ・エンドよ!」
 オルベールの応援が、鴉をより苛立たせる。
(せめて直接言われて振られたかったな。こんな遠まわしに知りたくなかった……。うん、やっぱり女悪魔は後で葬ろう)
 悲しみと、憎しみの感情を抱きながら、鴉は耳を澄ませて、アスカの言葉を待っていた。

「ジェイダス様……」
 アスカは緊張で顔を真っ赤に染めながら、ジェイダスを見上げる。
 言うのよ、言わなきゃ……。
 自分を励ましながら、口から言葉を出そうとする。
「……その……私と……っ! 私と……!!」
 ジェイダスはアスカをただ穏やかに見ていた。
 大きく息を吸い込んでアスカは一気に言葉を吐き出した。
「お友達になって下さい!!!」
 ……途端。
 後ろの方で、ドスンと何かが倒れる音がした。
 オルベールが鴉を下敷きに、盛大にズッこけた音だ。
 アスカは後ろを少し気にしながらも、真剣な目でジェイダスを見続ける。
 ジェイダスは軽く笑みを浮かべて、アスカの絵に目を向けた。
「真剣な想い。そして、想いが込められた作品もまた美しいものだ。君が美しくあるのなら、私もまた君の美しい絵を観に来させてもらうよ。いずれ、互いに友と呼べる存在になるかもしれないな」
「はい」
 アスカは深く頭を下げた。
「今日はありがとうございました〜」
「良い時間となったようだ。ありがとう」
 ジェイダスもアスカに礼を言うと、生徒達と共に、街の中に消えていった。
(良かった〜。破られたらどうしようかと思った……。私の絵、ちゃんと成長してた、よね〜?)
 アスカはどきどきしている胸を押えながら、ジェイダスの姿が見えなくなるまで見送っていた。