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リアクション
腕力で振り弾かれて吹き飛ばされた。ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は俯せのままに海岸に投げ出された。
「うぅ〜」
ほんのり紅く柔い頬が砂にまみれている。口にも砂が入ってしまったのだろう、ケホッケホッと小さく咳き込んだ。
「もぅ〜、砂まみれだよ〜」
追撃はない、弾き飛ばした事で満足したのだろうか、だとしたら神官戦士とやらは戦士としては質が悪いという事に……
――それなら楽なんだけどね。
戦場の外へ追いやった、それを離脱させたと判断したのだろう。奴らの狙いは明確だった、そしてそれはそれに執着しているようにも見えた。
「海が青いよ〜、うっすら蒼いよ〜」
『タワーシールド』を拾い、ミルディアは海に背を向けた。浸っていたい、出来ることなら、この景観の中でのんびりと。それでも彼女は駆け戻った、仲間が闘う戦場へと。
「うっ」
重い、それでいて疾い。先程からずっとグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)は『栄光の刀』を盾のように使わされていた。
神官戦士が装しているのは大槍『ハルバード』であるが、それをまるで大剣であるかのように振り薙ぎってくる。斬撃には成り得ないが、獲物に重量がある分、受ける度に吹き飛ばされそうになる。
――厄介ですわね。
何よりも厄介なのは奴らの突進力だった。女神像めがけて直線で駆けてくる、そこにグロリアが立ちはだかるから退かそうとする、退かしたなら女神像を破壊する。ただひたすらに盲目的にそれを目指しているようにも思えた。
それが如実に見られるのが、パートナーのレイラ・リンジー(れいら・りんじー)と神官戦士との戦いだった。
「………」
いつもの通りに安易に言葉を発することもなく、それでも視界の中には幾つもの狙撃点を捕らえていた。
狙いを定めて『碧血のカーマイン』の引き金を引く。銃弾は狙った軌道をなぞるように向かい飛んだが、神官戦士は『ハルバード』の槍身を盾にしてこれを受け防いだ。
「………」
すかさずレイラは狙撃点を変更して狙撃した、次は主に脚部や腰部を狙いて。再びに女神像めがけて前進しようとすれば射抜かれてしまう、過ぎゆく弾や足下への着弾を見ればレイラの狙いも容易に分かる、だからこそ戦士は自らが敷いた『女神像までの直線ルート』から外れ、結果後方へ退かざるを得なくなるのだった。
一連の狙撃は見事に女神像への接近を阻んだことにはなるのだが、それは正に束の間の間の間の。戦士はすぐに像までの最短ルートを新たに定め、駆け向かってくる。それをレイラが迎え撃つ。こうした攻防が何度も繰り返されているのだった。
――鬼気迫る、といった感じでしょうか。
グロリアは目の前の神官戦士を見て、そう思った。
強い決意というよりは恐怖や脅迫に近い強い危機感に支配されているような、そんな印象すら感じられる。そういった敵を相手にするなら力でねじ伏せるのが常套ではあるのだが……
力強く『宮殿用飛行翼』を羽ばたかせ、水神 樹(みなかみ・いつき)は一気に降下した。『ブラインドナイブス』を用いた剣撃だったが標的に達するより前に神官戦士の『ハルバード』がこれを阻んだ。
押し込むべきに力比べをしながらに樹は体壁の向こうに居る天司 御空(あまつかさ・みそら)に声を投げた。
「兵を引いて下さい!」
彼が神官たちを率いているようには見えなかった、それでもただ一人、契約者である彼ならば話が通じると思ったのだが、御空はこれに応えなかった。
「なぜ女神像を狙うのです。壊すことに何の意味があるというのです」
「…………」
樹の剣撃を阻んだ神官戦士は御空を守るように戦っていた。これは他の戦士たちとは明らかに目的が違う。ネルガルに仕官した生徒は神官たちよりも上位だという事だろうか。それともそれもただの命令の一つなのだろうか。いや、それ以前に、
「なぜあなたはネルガル側についたのです! あなたの何がそうさせているのです!!」
声を荒げて樹は叫んだ。それでも御空からすればこれに応える義理はない、むしろ大きなお世話な問いでしかなかった。
――目的のためには、それを聞くにはまずは成果をあげるしかないんだ。
そんな事を言葉に発した所で何も変わりはしない、御空にとってはとにかく女神像を破壊して帰還する以外に立場を向上させる術はないのだから。
――何を手こずっている。
苛立たしげに御空神官戦士共へと目を向けた。神官たちは仕官して間もない御空の言うことなど聞くわけもなく、それでもそれだけに『ネルガルの命を果たすは自分たちだ』と言わんばかりに息巻いていた。
御空からすれば像が破壊できるなら彼らの態度などどうでもよいし、むしろ一刻も早く破壊しろと急いてもいる。神官戦士たちは今も生徒たちの抵抗にあい、像に辿りつけないでいた。
「あ〜もう! しつこい!」
戦況の停滞に苛立っていたのは葉月 エリィ(はづき・えりぃ)も同じだった。像を守る側の彼女は、払っても圧し飛ばしても向かってくる神官共にもはや憤りしか感じていなかった。
「エレナ! クリムゾン! もういいわ、フルでやっちゃいな!」
パートナーたちへの解禁宣告。2人がどう感じていたのかは知らないが、彼女にとっては、とうに限界だった。
「了解でござる」
クリムゾン・ゼロ(くりむぞん・ぜろ)は2装の『加速ブースター』を起動させるのに合わせて『六連ミサイルポッド』を両肩から放った。
3名の神官戦士の足下へと『6つの砲弾』が被弾すると、爆音と共に積もった砂が飛び散った。それをキッカケにエレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)は『アシッドミスト』を唱えた。
霧はすぐに広がりゆく。それらが砂埃に加わると、あっという間に視界は遮られていった。
「いただきまぁす」
足を止めた戦士の背後からエレナはその首もとに噛みついた。血を吸い精神を乱す『吸精幻夜』、
――本当は全てを吸い尽くしたいのですけど。
貧血を起こしたのだろう、男は糸が切れたように倒れ込んだ。
「わたくしをイライラさせたオシオキですわ」
フワリと髪をなびかせ背を向けると、再び羽織った『霧隠れの衣』も同じに揺れた。闇夜に紛れるヴァンパイアの如くに、エレナは同化するように霧の中へと姿を消した。
「ク〜リィ〜ムゥ〜ゾォ〜ン〜〜」
「しょっ、承知したでござるっ」
エリィが抗議と催促を込めて名を呼んだ。
土埃が落ち着いてきてしまったと。
クリムゾンは滑るように地の僅か上を駆けながらに『残りの6つの砲弾』を放った。
霧と土埃、視界を遮られた以上、明瞭な視界を求めて光りある場所へと移動をする。霧を抜け出し、迂回して改めて女神像を目指す。その為にはまず―――
「はーい、ごくろうさん」
霧を抜けた直後に射抜かれた。神官戦士が次々に膝をついて倒れ込んでゆく。
「そこで地面と添い寝しててね」
エリィは『魔道銃』で膝の裏を狙い撃った。如何に甲冑を纏っていようと膝の裏は強度が落ちる、まして霧を出るべく後退しているとあれば尚更である。そして極めつけは『二丁拳銃』での連撃、同じ膝裏を一度に打ち抜き威力を増していた、もう一丁は『曙光銃エルドリッジ』だ。
「あたい、完璧じゃん」
見事な連携、そして戦力。彼女たちは次々に神官戦士たちを地に伏せていった。
「直線で来るだけと分かれば、打ち崩すのは難しくない」
一人、オルトロスを射っていた水神 誠(みなかみ・まこと)が御空に言った。神官戦士の数に比べ、怪犬の数は少なかった、その戦意も。
「俺の方はまるで、拍子抜けだったね」
『ポイズンアロー』が非常に効いた。もともと複数の相手を射る事が可能だが、怪犬が巨体であるが故に一度にヒットする矢数も増していた。
「さて、そろそろチェックメイトも近いんじゃ―――」
「うあっ!!」
呻声が聞こえた、樹の呻声が。二卵性の双子の姉、誰よりも美しく誰よりも愛おしい姉、その樹の腹部を『ハルバード』が貫き抜いていた。
「うわぁぁぁぁああああぁあ!!!!!」
一心に駆けて頭から突っ込んだ。共に宙に浮いている刹那、誠は神官戦士の腰部に『ポイズンアロー』を撃ち込んだ。呻声と共に体を捻る神官の胸元へ足を振り上げると、そのまま打ち下ろして地に叩きつけた。
「まだだ……まだだ!まだだ!まだだぁ! 立てぇ!!」
意識のない戦士の胸鎧を掴み、誠は何度も地に叩きつけていた。その光景が横目に入ったが、アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)はどうにか気を落ち着けようとしながらに樹の傍らに寄り添いた。
「大丈夫ですか?」
腹部を貫かれた瞬間を目撃した、確かにそう見えたはずに彼女の腹部には貫穴は見られなかった。代わりに『従龍騎士の鎧』の片脇腹部が破砕していた。
「あの瞬間に避けたのですか……」
安心するのはまだまだ早い。避けたとはいえ彼女の腹部は肉が抉れ、もちろん大量の出血も見られた。
「お気を確かに! すぐに処置致します」
『ヒール』を唱えて出血を抑えようと。唱え始めてすぐだった、大きな破砕音がほど遠くから聞こえてきた。
「ぬわぁ〜〜〜〜」
暴走するトラックから飛び退くように、イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)は横っ飛びでそれを避けていた。その直後に破砕音が一帯に響き渡った。上手く体を丸めて受け身を取った、イシュタンの瞳に飛び込んできたのは『砂鯱』が女神像を轢き壊した光景だった。
「ああ〜!! ああ゛ぁあ゛〜〜!!!」
一度目は像を壊されたという衝撃に、そして二度目は『砂鯱』を避けてしまった自分に対しての憤りだった。
平たい海岸、広がる砂地。積もり積もった砂の中から突然に『砂鯱』が現れた。体長8mもの巨体が加速したままに迫ってくる、2歩と後ずさろうものなら圧し潰されてしまうことだろう。
イシュタンは『銃型HC』を向け放ったが、十分に加速した巨体を止められるはずもなく。横っ飛びで避けた、そして鯱は像にダイブする事になったのである。
砂上を泳ぎ駆ける『砂鯱』の背に御空が飛び乗った。意識のある神官戦士たちもそれに続いて追い駆けて、最後にはワイバーンの背に飛び乗った。
「ぁあ゛〜〜〜もうっ! 戻ってこぉい!!」
戦況が悪いと判断するや、迷わず力技に切り替えた。目的は女神像を破壊すること、故にそれを成したならば即退散する。始めから最後まで徹底していた。
押していただけに悔しい。最後の『砂鯱』の突進を止められなかったのは誰もが同じだったが、それが何よりも悔しかった。
降砂によって海岸の砂が増していた事は事実だろう、しかし砂の中を進ませて全員の不意を突いたのは敵ながら見事と言わざるを得ない。
樹の負傷も決して軽くはないのだが、それ以上に女神像を破壊された今、彼らを追走する理由が一行には無かった。
戦いに勝って勝負に負けた。どっと両肩が重くなるのを感じる一行に、波の音もまた白々しく慰めているように聞こえた。
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