First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
『オートガード』が唱えられた。アリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)を中心に周囲の仲間全員の物理防御が上昇した。それはすなわち女神像を背に取り囲んだ生徒たち全員の防御が上がったことを意味していた。相手がオルトロスである以上、願ってもない効果だった。
北東の集落(平地)では広がる田畑に向かって女神像が奉られていた。1m程の台座、その上に佇む女神像を中心に防衛ラインを張っていた。
2体並んだオルトロスが突進してきた。4つの頭が踊るように迫り来る。
「凄い迫力だけど」
杵島 一哉(きしま・かずや)が両手を広げて『サンダーブラスト』を放った。
「その勢い、止めさせてもらうよ」
雷撃が怪犬の足下で弾けた。交通安全の標語ではないが、急に止まれるはずがない。まして足払いをかけられた形になるが故に、2体は水泳レースのスタートのように飛び込んできた。
それに相対するは『女王のソードブレイカー』を構えたアリヤだった。
「いきます」
雷電を纏った2回攻撃。双頭それぞれの牙を次々に薙ぎ砕いた。
「いいね、良い落ち着きだ」
一哉が彼女の太刀筋を褒めた。一哉はと言えば既に次に備えていた。
もう一体を退けたのは源 明日葉(みなもと・あすは)だった。弓を得意とする彼女だったが、本日、振るうは『雅刀』。
アリヤが選択した雷電属性の攻撃、通電も期待できるこの選択と思考は彼女も同じだった。ただし狙うのは一閃のみ。彼女の間合い、直線上に2頭が並んだ瞬間―――
明日葉の『轟雷閃』が双頭の牙を一閃で砕いた。
飛び過ぎる巨体を彼女は横目で追った。それだけの所作の中に託した。
――あとは任せたでござるよ。
「ふっ」
託された一哉は笑みを浮かべ、そうして『ファイアストーム』を放ちぶつけた。炎の複撃が2体の怪犬を弾き沈めた。
「んにしても……うまいことやってるな」
ここまでの攻防を遠目に見つめていた闇咲 阿童(やみさき・あどう)が呟いた。
「あぁ、あんな変速のラインで良く連携が上手くいくもんだ」
出雲 竜牙(いずも・りょうが)は頬杖をついたままに応えた。戦場の隅で、2人はあぐらをかいて攻防を見つめていた。
「俺はまぁ、戦神を信仰する身だからよ」
阿童は退屈そうに頬を下げて言った。
「ネルガルの野郎が女神像を破壊してるって聞いただけで頭に来るんだけどよ」
「あぁ、そうなんだ」
「そう、そうなんだけど、何か納得いかなくてな」
「何が」
「ふむ。果たしてなぜネルガルは女神像を狙ってるんだ?」
「……それ、みんな思ってるよ」
竜牙の言葉は最もだった。崇拝の対象を潰すことで人々に恐怖や不安を植え付けるつもりと考えるのが自然か。それにしても。
「あの戦い方はどうだろうか」
「あの戦い方?」
竜牙が女神像の前の防衛ラインを指して言った。
「あんな露骨に女神像を守ってたら、像の重要性に気付かれるんじゃないか?」
いずれ気付かれるにしても、わざわざ今『像を壊されるとマズイです』なんて、連中に教えてやる必要はない。だからそう見えるような戦い方も避けるべきだと思う。けど……
「それにしても…… 見事だね」
オルトロスを操る神官戦士たちもラインを壊壁する事が全てだと理解しているのだろう、それだけに双頭の怪犬を次々に駆け向かわせているのだが。
ラインに辿り着くより前にそれらの勢いは殺がれてゆく。当たり所によっては、その場で即倒するオルトロスもいる、というよりはそれを狙って乱射していた。
「いつもは後片づけばっかりだけど」
キルティ・アサッド(きるてぃ・あさっど)は女神像から最も近い家屋の屋根上から『トミーガン』を構えていて、
「今日は先制なのよ、うふふ、うふふふ」
頬を綻ばせながらに銃を乱射した。パートナーの寿 司(ことぶき・つかさ)は体も小さいし体重も軽いから、オルトロスを相手にするにはキツイでしょう。
「気ぃ遣ってくれてありがとね」
いつもは丸く優しい司の瞳が、鋭く剥いていた。
「自分の未熟さは分かってるつもり。でもね、悪いけどウジウジなんてしてらんないの」
『グレートソード』を両手で振って放つは『爆炎波』だった。炎を纏った剣撃がオルトロスを弾き返した。
「来なさい! 女神像には指一本触れさせないわ!!」
地を蹴り跳びだした。怪犬を操る神官戦士めがけて司は駆ける。盾にするようにオルトロスをけしかけるが、それもキルティが狙い撃っては沈んでゆく。司はそれを剣で弾き退けるだけで容易に進むことができた。
――あたしたちがオルトロスを倒すから、それでバリケードを作ると良いと思うわ。
「なるほど確かに、効果はあるね」
高島 真理(たかしま・まり)は感心しながらに倒れたオルトロスを集めて並べた。司が言った通りにしただけだったが、障害物がオルトロスの突進を防ぐ事にも、また神官戦士たちの士気を下げるのにも一役買っているようだ。
「ほら、オルトロスを倒すところも連携してるし、倒したやつまで上手く使ってる」
「なるほど……違いねぇ」
相も変わらずに暢気な竜牙と阿童にモニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)が遂に、
「もう! しゃべってないで手伝いなさいよね」と怒鳴りつけた。
と言っても『カモフラージュ』で身を隠している為、彼女の姿がどこにあるのかは見えなかった。声の感じからして近くには居るようなのだが。
「ほら、さっさと行きなさい! 援護してあげるから」
「援護って……やっぱり突撃するのは俺なんだな」
「なに? 嫌なの?」
「いえ。行きます。………… でもさ」
竜牙が躊躇う理由が分かって…… というか謝罪を含めて阿童は同情した。分かってる、竜牙が腑抜けているのは俺の責任でもある。
「アハハ、アハハァ、アハハハハハハッ」
パートナーの後光 葉月(ごこう・はづき)が100%の笑顔で神官戦士たちと戦っている、しかも次々に倒しているのだ。
「神に逆らう悪魔なんて、み〜んな死んじゃえばいいんだよ〜」
射撃の腕が驚異の的中率0.001%を切る彼女が『100%の命中率を叩き出す方法を発見した』と言って飛び出していった。そして確かに葉月の銃弾はことごとく的を射抜いていた。それもそのはず、彼女は銃口をピタリと接地させてから引き金を引いていたのだから。
「アハハハハ、凄い凄〜い、全部命中するよ〜」
そりゃそうだ、むしろそれで外す方が意味分からん。姿を消したモニカが神官戦士の足を撃ち抜いてフォローしている事も大きい。急所を外して撃っているのは敷島 桜(しきしま・さくら)に反対されたからだろうか、最後まで『傷つけずに戦うべき』と説かれていた。
「まぁ、やることないんだよな」
女神像を守るラインは盤石、神官戦士たちはモニカや司が制圧するのも時間の問題だし、集落の人々を避難誘導させるのだって南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)と桜が的確にこなしていたし。
秋津洲は『轟雷閃』や『爆炎波』を、また桜に関しては『火術』に『雷術』、『氷術』に『光術』まで操れるそうだ。彼女たちが合流すれば制圧もあっという間に完了するだろう。
適材適所に見事な連携、誰一人欠けては成り立たない。
「はぁ」
「はぁ」
竜牙と阿童がため息を吐いた。挙手が遅かったのだろうか、冷静に状況を見ようなどと静観の姿勢を取ったことが悪かったのだろうか、どうしてこうなっ――― いや言うまい。
兎に角に、次期に無事にネルガルの手の者たちを退けるだろう。戦場では結果が全て、そう言い聞かせて2人は今一度、大きなため息を吐いたのだった。
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last