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リアクション
第6章
「どこの電力会社だぁーっ!! ヘマしやがったのはーっ!!」
高柳 陣(たかやなぎ・じん)は夜空に叫んだ。
パートナーのティエン・シア(てぃえん・しあ)が図書館から借りてきた都市伝説の本を読みつつも『いそうでいない、見えそうで見えない幻の鳥、ピヨ』について熱弁をふるうのを適当にあやしつつ、自身はベッドでゴロ寝を決め込みつつ、ノートパソコンからシルバーアクセのネットオークションに入札しようとした矢先の停電であった。
怒りを露にしつつも、事故や事件であっては困る。とりあえず下宿の窓から外に出た二人は、周囲を見渡す。
「……何だ……ありゃあ?」
空を見上げると、そこには大量の『パラミタ電気クラゲ』の姿が。そして、あちらこちらから聞こえてくる『目からビィィィム!!』の掛け声。
その声と共に夜空に向けて幾筋ものビームが放たれ、停電中だというのに夜空はほんのりと明るいほどに照らされていた。
「わぁ……」
ティエンはうっとりと呟いた。無邪気で好奇心旺盛なティエンは、放っておくとどこに行くか分からない。陣はティエンがどこかに行ってしまわないよう、後ろから肩をつかんで静止させた。
「……あんまり不用意に動くんじゃないぞ、危ないからよ」
陣の言葉にティエンは頷く。
「うん……でも、夜に外になんか出たことないから、ちょっとドキドキする、ね」
はにかんだ笑顔を浮かべるティエン。
二人は状況を観察し、パラミタ電気クラゲと情熱クリスタル、そしてビームの関連性に気付いた。
「情熱っつってもな……」
と、普段からつかみどころのない性格の陣は呟く。ティエンは見た目にも綺麗なクリスタルを握って、瞳を輝かせた。
「でも……クラゲさんたちもただご飯食べに来ただけなんだよね。……ちょっと可哀想だね……そうだ、もうここにはご飯はないよって教えられればいいんじゃないかな、僕の気持ちがクラゲさんたちに届くように!!」
ティエンは一歩前に出て、胸の前で両手を合わせた。
そして、そのまま両手でハートマークを作って、大声でクラゲに向かって突き出した。
「らぶちゅーにゅーっ!!」
ティエンのクラゲを思いやる優しい気持ちがピンクのハートマーク型ビームになって、夜空を飛んでいく。
そのビームが何体かの電気クラゲに当たると、その電気クラゲはふわふわと方向を変えて、街を離れていく。
「あ……僕の気持ち、通じたのかな……っとと」
ビームを撃った反動でよろけたティエンを、陣は受け止めて支えた。
「へぇ……やるじゃん」
と、声をかける陣の眼鏡が激しく光っているのにティエンは気付いた。
「お、お兄ちゃん?」
「お、何だこりゃあ?」
――皆さんは、眼鏡というものについてどれくらいご存知でしょうか。
眼鏡というものは、それが必要な人間にとってはかけがえのない存在。
それは身体の一部であり、それがなくては日常生活を営むことすら困難。
眼鏡は人生のパートナーであり、相棒であり、持ち主の視力を助けるという使命――情熱に溢れているのです。
そして、陣は聞いた気がした。いや、確かに聞いたのだ。
物言わぬはずの、眼鏡の叫びを。
『眼鏡からビィィィムッ!!!』
そのまま、陣は自分の眼鏡から銀色のビームを乱射しつつ、電気クラゲを追い払っていくのだった。
ところで、その頃もう一人のパートナー、ユピリア・クォーレ(ゆぴりあ・くぉーれ)は。
「ちょっとー! どうして誰もいないんですかーっ!!」
と、裸身にバスタオル一枚で窓から叫んでいた。
ちょうどお風呂タイムを楽しんでいた頃の停電。ひょっとしたらこの機会に陣がお風呂に忍び込んで来てあんなことやそんなことを、という妄想に浸っていても誰も来なかったので、仕方なくバスタオルを巻いて外に出てきたというわけだ。
とりあえず状況を把握したユピリアは、クリスタルを握り締めて叫んだ。
「もーぅ、どこ行ったの、陣ーーーっ!!!」
ただいま陣に全力片思い中で、やや妄想癖が激しい彼女は陣のことを思うとちょっぴり暴走しちゃう悪い癖が。
「……リア充シネー、リア充シネー、波動砲、発射ーーー!!」
ユピリアの口からやたらとピンク色の波動砲が発射され、地面に沿って飛んでいく。
「うぉわっ!?」
そのビームに気付いた陣は、飛び上がってそれを避ける。発射された方向を確認すると、自分のパートナーがやたらとピンクの波動砲を乱射しながら暴走しているのが見えた。
そして、そちらをぎ凝視してしまったことで陣の眼鏡が勝手に情熱を燃やしているビームがユピリアの方へと飛んでいくわけで。
「きゃあああーっ!! あつぅーい、これが陣の愛なのねーっ!!!」
と、一人悶絶するユピリアだった。
いやそれ、愛じゃないから。
☆
一方、ツァンダの街を訪れて停電に巻き込まれていたものの、個人的事情からあまり表立って行動したくない者もいた。
伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)である。
「ですが、このように人類に仇なす異形――埋葬機関の一員としては放ってはおけませんわね」
と、藤乃は呟く。彼女は埋葬機関アンノニモデウスのメンバーとして、自らが信仰する破壊神『ジャガンナート』への忠誠心を証明するべく動き出したのだ。
だが、個人的事情によりあまり目立ちたくない藤乃は、最近凝っている変装の練習中も兼ねて、しかもその上でビルの裏手や路地裏など、あまり人が来ないであろうところに入り込んだパラミタ電気クラゲを退治して回っていたのである。
というわけで、今の彼女は金髪のゆるい内巻きロールヘアーが美しい、セシリア・ナートであった。
「意外と入り込んでいますわね……!!」
セシリアが『神遺物:斬業剣斧ジャガンナート』を振りかざすと、何本ものビームが刃から発射され、裏路地に入り込んで残りわずかな電気をむさぼっていたパラミタ電気クラゲを始末していく。
「ひゃっほーい、クラゲだったら殺し放題だよね!! 最近こういうのしてなかったから楽しいーっ!!!」
パートナーである耶麻古 かたり(やまこ・かたり)もまた、自らのフラワシである『パルヴァライザー』を操り、両腕の『セクメト』と『セルケト』からビームを乱射してクラゲを始末していた。
いや、それは正確ではない。セシリアはあくまで埋葬機関の一員、破壊神への信仰のために電気クラゲを倒しているのだが、かたりは違う。
楽しみのために、虐殺しているのだ。
「あはははは、ほぉら、ビームビームビィィムッ!!!」
裏路地がかたりの狂気に満ちていく。
セシリアは、そんなかたりの姿を見て優しく微笑むのだった。
そして、雷獣 鵺(らいじゅう・ぬえ)も共に暴れまわっている。何しろ、普段はある程度人目を気にして思う存分暴れる機会などはそうそうあるものではない。今日という日を逃してはまたいつ本気で暴れられるとも限らないのだ。
害のあるクラゲ退治、という名目は彼女らにとって、またとないエサであった。
「張り切ってるね!! まぁ、気持ちは分かるけどさ!!」
ヒロイックアサルトである『夢幻白夜』を発動させ、ビームを発する紫電の翼を四枚広げる。不定形の一対の腕と、さらに口からも強力なビームを撃つ鵺は、まるで踊るように軽やかな動きで、裏路地を進む。
「――ハッ!!」
さらに驚くべきことに、鵺が人差し指と親指を擦り合わせて、パチンと音を鳴らすとその斜線上にいたクラゲが音もなく真っ二つになった。
その指パッチンからは目には見えないほどの速度のビームが発射されているのだろうか、まるで刃物のような鋭さを持ったそのビームは、次々に電気クラゲを切り裂き、屍の山を築いていく。
やや出遅れたものの、アルク・ドラクリア(あるく・どらくりあ)も負けてはいない。
「ひゃははは、みんなが暴れるならアルクも暴れるのだな!!」
聖杭ブチコンダルを電気クラゲに突き刺したアルクは、あえて至近距離から渾身のビームを放つ。
「……近づくとビリビリするのだな、けどこれ、楽しいのだな!!」
クラゲが突き刺さったままのブチコンダルを振り回して、アルクは笑う。
また次の電気クラゲに突き刺して、ビームを放った。
クラゲから体液がこぼれ、アルクの顔を汚した。
「……ふぅん……美味しそう、なのだな」
ニヤリと笑ったアルクは、そのまま電気クラゲに噛み付いた。
吸血鬼である彼女は、そのまま『吸精幻夜』で体液と共に残り少ない電気クラゲの命を吸い取っていく。
「……ぴりぴりするけど、珍しい味……珍味なのだな」
強力なビームと戦闘力で撃ち進むセシリア――藤乃たちにとって、パラミタ電気クラゲ程度は敵ではない。
それは、電気クラゲが野路裏に撃ち捨てられた仲間の死骸を吸収し、路地裏一杯に巨大化したところで同じだった。
「――では、ここらで終いといたしましょうか」
セシリアが剣斧を構えなおす。
「ここが終わったらまた次の場所に行こうよ! 全然足りないって!!」
かたりはまだまだ暴れ足りない。
「いやぁ、ワタシたちは運がいい……今日は特別だね」
両手の指をぐっと構えて、鵺はニヤリと笑みを浮かべた。
「もっと新鮮なの……食べたいのだな」
口から零れ落ちるクラゲの体液を拭うこともせず、アルクは凄惨な笑顔を見せる。
「さあ、ビーム! ビーム!! ビィィィム!!!」
四人が一斉に放ったビームは、一瞬だけ裏路地を眩しく照らし――すぐに暗闇に戻る。
彼女らが去った後は、そこには動くものもなく、ただクラゲ達の死体の山が残るだけだった。
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