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リアクション
☆
「えーいっ! アイドル☆ビームっ!!!」
遠野 歌菜は額から薄いピンク色のビームを発射して、次々にクラゲを打ち落としていく。
その横に、偶然街を通りがかった四葉 恋歌がいた。
「わあー、歌菜ちゃんすごいね!!」
恋歌は素直な感想を述べる。以前ウィンターの人助けの際に、恋歌のラブレターを巡って知り合った二人は、連れ立ってクラゲ退治に乗り出した、というわけだ。
「ほら、恋歌ちゃんも撃ってみなよ、ビーム撃つの楽しいよー!」
と言う歌菜に、月崎 羽純冷静に呟く。
「……歌菜、クラゲ退治のためにビームが必要なだけなんだから、ビーム撃つのが楽しいってのは本末転倒じゃないか?」
歌菜はというと、そんな羽純から微妙に視線を逸らして、答えた・
「そ、そそそんなことないよ、停電だってクラゲせいなんだし、せっかくだから楽しくやったらいいじゃない」
顔を赤らめて、羽純の顔を見ようとしない歌菜に、恋歌はそっと耳打ちをした。
「……歌菜ちゃん、羽純くんと喧嘩でもしたの?」
「ち、ちちちがうよ!? 何もないからね? それより恋歌ちゃんはどうなの!?」
まさか『バスルームで裸を見られました』と説明するわけにもいかず、歌菜は慌てる。
「……何を誤魔化してるんだ?」
その歌菜に、羽純は冷静に突っ込むが、さらりと黙殺された。
「……うーん、私は……今はちょっと恋愛時期じゃないのかな、って。少しゆっくりするよ。んじゃ、私もいっちょビーム撃ってみますか!!」
と、クリスタルを受け取って微笑む恋歌。その視線の先に、一人の男がいた。
リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)だった。
「あ!!」
歌菜は、リュースのことをお兄ちゃんと慕っていて、リュースも歌菜を妹のように想っていた。
だが、その夜の彼はちょっとだけ違っていた。
「やあ、歌菜ちゃん。いい夜ですね」
確かに涼しげな目元、優しい微笑みはいつもどおり。
だが、何だろう――あえて言えば、今夜の彼はテンションがちょっとだけ高かったと言うべきだろうか。
「ふ、ふふふ……あはははは……! あんまり難しく考えない考えない!! とりあえずビーム撃って鬱憤とか晴らしておけばいいんですよ!!」
「えっ!?」
歌菜は戸惑った。いつも冷静で優しいリュースに似つかわしくない高笑い、気分がよほど高揚しているのか、握った両拳はわなわなと震えている。
リュースは花屋の仕事でツァンダを訪れていたが、ついつい仕事先の人と話し込んでしまって遅くなり、停電に巻き込まれたというわけだ。
だが、今この場においてはそんなことは問題ですらなかった。
「目視なう!!」
どこかの商店の屋根の上から登場したリュースは、上空に漂う電気クラゲを発見するや否や、両目と口からビームを3本、一気に撃ちだした!!
「即!! 目と口からビィィィムッ!!!」
クールな青い光線が激しく照射され、あっという間にクラゲを射抜く。
「……ずいぶん……やる気のある人だね……」
と、恋歌は呆然と呟くが、本人の名誉のために歌菜は補足する。
「う、ううん……? いつもはあんな感じじゃないんだけど……何かいいことあったのかな……?」
だが、当のリュースはそんなことはお構いナシだ。
「はっはっはっは!! さあ歌菜ちゃん、そんなことを気にしている場合じゃないよ!!
だってそうだろう、オレ達はなんだかんだ言ったってここにビームを撃つために、そのためだけに集まったんだから!!」
リュースさん、ぶっちゃけ過ぎです。
「さあ、どんどん行きますよ!! 多くの人と協力してこそクリエイティブですからね!! みんなで一緒にビーム撃って街を守りましょう!! はいビームビーム!!」
リュースさん、かなりぶっちゃけ過ぎです。
そしてそこに、強力な助っ人が現れた!!
「オーーーバーーーキーーール!!!」
リュースや歌菜のビームと同等、いやそれ以上の威力を秘めた炎状のビームが空を焦がした。
ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)だ。
小型飛空艇ヘリファルテに乗った彼女は、片手に情熱クリスタルを握り締め、悶絶の表情を浮かべつつも、激辛カレーを食べながら、口から激しい炎を噴き出していた。
焙煎嘩哩「焙沙里」でいつもカレーを出しているネージュだが、激辛食品は大の苦手で、うっかり食べてしまうと口から炎を吐いて悶絶するのだ。
それこそがネージュ・フロゥの特技『オーバーキル』である!!
特技なのかそれは。
だがしかし、実際ネージュが口から発する炎はかなりの距離はないがかなりの威力で、ある程度近づいたクラゲを高速で移動するヘリファルテから次々と焼き落としていく。
「こ、この規模の停電となると色々と被害が出ちゃうからねっ!! 一刻も早く解決しないと!! ていうか、かーーーらーーーいーーー!!!」
叫びつつもクラゲを遊撃していくネージュをサポートするのが、パートナーのディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)だった。
リュースのように高い建物の屋根に上り、すっと自らのスカートの裾をたくしあげると、その中から白い花粉のようなものがあふれ出した!
ディアーヌは花妖精なのだ。
「えーいっ!! ぽぽぽぽーん!!!」
その白い花粉はふわふわと漂い、20cmほど浮遊したところでパチンとはじけ、中からリング状のリップルビームが放射されていく。
花粉ビームは、威力は高いが射程の短いネージュのビームを縫い合わせるように飛び、ネージュの撃ちもらしたクラゲにヒットしていった。
そして花粉の残りはふわふわと地上に漂い、吸い込んだ者の精神を少し高揚させる効果があったようだ。
その効果をモロに受けてしまったのが、コトノハ・リナファとルオシン・アルカナロードである。
「ああ……なんだか気分が高まってきました」
正直言えば、このところ出産その他でバタバタしていたコトノハとルオシン。ようやく出産も終わって退院したところで、ラブラブしたくてたまらないのだ。
そんなときにディアーヌの花粉を吸い込んだのだから、もう大変。
なお、何が大変なのかは、ここではあえて言及しない。
「えーい、母の愛ビーム!!!」
コトノハが気合を入れると、主に胸部の辺りから2本のピンクのビームが勢い良く射出され、複数のクラゲを効率よく落としていく。
「ぬぉぉぉ!! 父の愛ビーム!!!」
大変なのはルオシンも同様だ。こちらは主に下半身を中心に放たれたビームが、すばらしい貫通力を持って電気クラゲを射抜いていくのだった。
なお、具体的にどのあたりから射出されているのかは、ここではあえて言及しない。
しかし、それらのビームは間違いなく強力で、周囲のクラゲはあっという間に一掃されていく。
だが、クラゲもただ黙ってやられているわけではない。リュースや歌菜と羽純、ネージュやディアーヌ、そしてコトノハ達が手ごわい相手と知ると、集団で寄り集まってひとつの群生体となって巨大化したのだ。
「ふふ……中ボスってところでしょうかね。だがしかし、今夜のオレ達の敵ではありません、いきますよ歌菜ちゃん、みなさん!」
リュースが叫ぶと、その場の全員は空中に出現した巨大クラゲに向けてビームを放った!!
歌菜の額からビーム!!
「マジカル☆アイドル☆ビィィィムッ!!!」
恋歌の目からビーム!!
「目からビームっ!!」
ネージュの口からファイアー!!
「オーーー! バーーー!! キーーール!!!」
ディアーヌの花粉リップルビーム!!
「ぽぽぽぽーんとビーム!!」
コトノハとルオシンの合体ビーム!!
「必殺!! 光の螺旋ビィィィムッ!!」
そして、リュースの必殺ビーム!!
「オレは! この時の為に! サラシナ絵師にアイコンを頼んだんだ!! おおおおおお!!! 目と口からビィィィム!!!」
一斉に放たれた光の奔流は、やがて一本の光となって巨大クラゲを包み込んだ。
巨大化した甲斐もなく墜落していく巨大クラゲを眺めて、羽純は呟いた。
「……やりたい放題だな」
と。
☆
一方、『情熱クリスタル』の本体を守るウィンター・ウィンターとスプリング・スプリングの元へも数人のコントラクターが集まっていた。
確かに、街中で多数のコントラクターがパラミタ電気クラゲを落としに行ってはいるものの、情熱クリスタル本体を落とされてしまっては元も子もない。
神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)もそう考えた者の一人で、いち早くウィンターとスプリングの元へと駆けつけ、本体の警護に当たっていた。
「まぁ……暗闇とかも、嫌いじゃないんですけどね」
紫翠が緩やかで優雅に、しかし的確な動きで扇を動かすと、まるで水芸のように銀色の光が溢れ、一直線にクラゲへと飛んでいく。
「……よっ……っと」
ひらりと扇をひるがえすと、放たれたビームは空中で四散し、複数のクラゲを一撃で巻き込んでいく。
「よし……なら次はあっちが手薄だな」
パートナーのシェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)の指示も的確だ。
シェイドはあえてビームを撃たず、観察と指示に徹することで隙を少なくし、より効率的に電気クラゲを落としていくのだった。
そしてその傍らで、ビームでクラゲを撃退していくコントラクターたちを応援しているのがレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)とそのパートナー、リコリス・リリィ・スカーレット(りこりす・りりぃすかーれっと)であった。
「はい、フレー!! フレー!!」
特に頑張っているのはリコリスだ。
今日はたまたまリコリスの服を買いにツァンダを訪れた二人だが、ご多分に漏れず停電に巻き込まれたというわけだ。
「まぁ……白昼堂々とフィギュアショップに入るのも目立ってしまいますし」
と、レイナは呟いた。何しろ花妖精であるリコリスの身長はまずかに20cm。普通の洋服ではサイズが合わないのだ。
あえて閉店間際のフィギュアショップを狙ったまでは良かったが、すっかり遅い時間になってしまったのである。
「ほら、あんたもしっかり応援しなさいよ!!」
と、リコリスはその店で買ったチアリーダーの衣装に身を包んで、レイナを指差した。
「あ……はい。でも、チアリーダーはリコリスさんにお任せしますね。何しろ、私にはビームを撃てるほどの情熱というものもありませんし」
レイナは、光術による明りをまたひとつ出して、少しでも周囲を明るくしようとする。
「あたしだってそうよ! ま、仮に出せたってそんなバカっぽいことしないんだから!!」
そんなリコリスに、カレン・クレスティアはちょっかいをかけた。
「んー? でも文句言うワリにはしっかり応援してくれるんだよねー、素直じゃないんだからーっ」
リコリスは真っ赤になってそれを否定する。
「しょ、しょうがないじゃない! さっさとその気持ち悪いクラゲを何とかしてもらわないと帰れないんだから!!
あたしはね、主義に反することはしないけど自分では何もしないで文句ばかりつけるような奴とは違うのよ!!
だからしっかり応援だけはしてあげるから、さっさとそのクラゲ共を始末しちゃって!!
今回だけは特別なんだからねっ!!」
口は悪いものの、リコリスの主張はそれはそれで筋が通っている。
カレンは、レイナの肩の上から皆にエールを飛ばすリコリスを微笑ましく眺め、さらにビームを撃つ気合を入れるのだった。
「よーし、んじゃ頑張っちゃおうか!! リップルビィィィム!!!」
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