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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!

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第3章


「危ない!!」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は叫んだ。
 突然の停電でツァンダの街ではほとんどの信号機が死んでしまい、交通網にかなりの混乱が起こっていた。
 一応警察官などが出回って交通整理を行っているものの、人手はまるで足りていない。
 ドライバーのほうもかなりイライラしており、中には裏道に出ようとして強引な運転に出ている者もいた。
 そんな折、突然の停電に戸惑いながらも道を歩いていたおばあさんが、無謀な方向転換をしようとした車にはねられそうになっているのを見かけた弥十郎は、サイコキネシスでおばあさんを空中に持ち上げて間一髪、何とか助けたところだった。

「――大丈夫ですか?」
 弥十郎はおばあさんをやさしく下ろし、怪我がないか確認した。
「ああ、大丈夫だよ。ありがとうねぇ」
 と、そのおばあさんは礼を言うものの、危険運転をしていたその車は案の定民家の塀にぶつかっている。

「――どぎゃんかせにゃいかん!」
 その様子を見た弥十郎の兄、佐々木 八雲(ささき・やくも)は叫んだ。


 そんな街中を、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)童子 華花(どうじ・はな)またたび 明日風(またたび・あすか)の二人を連れて一般住人の避難に協力している。
「――ったく、何だって客人が二人も来てる時に限って停電なんだよ……っておい、ハナが危ない!」
 華花は明日風に肩車をされながら、光精の指輪で暗闇を照らして誘導の手伝いをしていたのだが、どうやらクリスタルとクラゲが気になるらしく、隙を見てはビームを撃とうとするのだ。
「え? おっと……お嬢さん、おいたはいけませんぜ」
 明日風が肩の上の華花に話しかけると、華花はいたずらを見つかった子供のように、笑ってごまかしながら誘導の続きをするのだった。
「あ、アハハハ……わりぃわりぃ、オラ真面目に手伝うよ!! でも……ちょっとだけビームも撃ってみてぇなぁ」
 確かに、暗い夜空に他のコントラクターたちが放ったビーム光線が飛び交う光景はあまりにも日常からかけ離れていて、子供の華花がわくわくする気持ちは理解できる。しかし、アストライトから華花の子守を頼まれている明日風としては、華花が危ないことに手を出してはいけないと、気が気でないのだ。

 ちなみに、三人はいずれもリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)のパートナー。今日はたまたまツァンダに住むアストライトの自室に華花が遊びに来ていたのだが、まだ面識のなかった明日風が突然アストライトを尋ねたところの、突然の停電だった。
 ところで、『華花に万が一のことがあったらバカ女に殺されるぞ』と囁いて華花の世話を頼んだのはアストライト。

 体のいい脅しであった。

「お、交通整理か……よしわかった。俺はこのあたりで一般市民の誘導と警護を続ける。お前は華花の様子を見ながらクラゲが寄ってこないように、適当に撃退して来い」
 と、アストライトは明日風に命じる。
「む、一般市民に被害を出させないための囮ってわけですなぁ? 心得ましたぁ」
 明日風は華花を肩車からおろして堅焼き秋刀魚をちゃきっと構えた。

 秋刀魚は普通、構えるものではないということは気にしない方向で。

 だが、その構えた秋刀魚は『情熱クリスタル』の効果で見る見る白熱化し、一本のビームナイフのような形状に変化する。
 そのビーム秋刀魚を振りかざすと、数本のビームが発射され、空中に浮かんだ電気クラゲを落としていった。
「お、すげぇな!! よーし、オラも頑張るぞ!! えーいっ!!」
 華花が気合を入れると、髪の毛から毛針のようなビーム数本放たれ、明日風が落としたクラゲが一般人に迷惑をかけないように始末する。

「よっし、んじゃくれぐれもハナが危なくないように頼むぞ」
 と、アストライトが目をやると、道路では弥十郎が道路で交通整理をしていた。

 弥十郎は焔のフラワシ、『ザッピングスター』に棒状の炎を出させて、それを利用しててきぱきと車の列をさばいている。
「――で、こっちは何してんだ?」
 アストライトが目をやると、道路の端でその様子を見守りながら、微妙な表情をしている八雲がいた。
「うう……火術は最近使えるようになったばかりで、あまり上手じゃないんだ……弟より下手とは、情けない……」
 どうやら、八雲はうまく炎を明かりの代わりに使うことができなかったらしく、うまく誘導できなかったらしい。
 見かねた弥十郎が八雲に代わって誘導を始め、八雲は次第に道路の端に追いやられた、という次第であった。

「あー……火術がうまくいかないんだったら……これ使ってみたらどうだ?」
 アストライトはその辺から『情熱クリスタル』を一本もぎ取って、八雲に手渡す。
「うん? ……ああ、内なる情熱……? どうかな、あまりそういうのには向いてないとは思うけど……」
 と、八雲はクリスタルを受け取りつつもあまり乗り気ではない。しかし、物は試しとばかりに空中のクラゲに向かって指鉄砲を向けてみた。


「バキューン♪」


 すると、意外にもすんなりと八雲の指先からはビームが発射され、電気クラゲの一体を落とした。
「あ、出た」
「何だ、ちゃんと出るじゃねぇか」
 肩をすくめて見せるアストライト。八雲は、指からビーム出せたことが嬉しかったのだろうか、喜び勇んで弥十郎のほうへと駆け出して行った。
「出た出た!! ビーム出たぞ弥十郎!! やればできるもんだなぁ!!」
 はしゃぐ八雲を見て、弥十郎は戸惑いつつ尋ねる。
「え、何が出たって?」
「ビームだよビーム!!」
 ともあれ、二人はあ相変わらず地味に交通整理を続け、街の治安に貢献していく。


「やれやれ……さて、こっちも頑張るとすっかな!!」
 その様子を見たアストライトは、落下するクラゲの始末や、暗闇で困っている市民を光条兵器の明かりで誘導を続けるのだった。


                    ☆


「……何だか外が騒がしいな」
 和泉 猛(いずみ・たける)は自室で呟いた。
 外では『パラミタ電気クラゲ』を退治する者や、交通整理や市民誘導に精を出す者、様々なコントラクターが活躍している。
 だが、猛はそんな中で一人、ホテルの部屋でひたすら研究資料の作成に勤しんでいた。
 何しろ、明日は研究上の用事があってツァンダの街に来たものの、突然明日の朝までに資料を作り直さなければならないことになり、下手をすれば徹夜作業かという矢先の停電。
 確かにクラゲ退治も市民誘導も大事だろうが、こう言っては何だがそれどころではない、という人間も確かに存在するのだ。

 猛も街の事情は認識していたが、こちらも明日の朝までの突貫作業に追われる身。
「まったく……師はいつも話が急で困る……こちらも暇ではないのだよ。
 大体、目からビームなぞ常識的に考えて出せるわけもないし、もし出せるんだったら間違いなく新エネルギー産業の誕生だろうに。
 それにどちらかというと、目からビームってヒーローというよりは怪人ぽくないかね?
 しかも下手に撃ちもらしたりしたら住民の皆さんから講義の電話が殺到するだろうし……。
 まあ幸いホテルが用意してくれた蝋燭があるから、これで朝までに何とか……何でここの数値が一致しないのだ?」
 もはや街の事情も個人の事情には敵わない。
 個人差はあるだろうが、往々にして研究者というのはそういうものなのだ。

「ふ、ふえええぇぇぇ、やっぱり怖いです……!!」
 その頃、猛のパートナーであるルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)は外に出て、空中を飛び交うビームに対処していた。
 何しろ、外では幾多のコントラクターが多種多様のビームを撃ちまくっているのだ。中には撃ちもらしもあるし、ひょっとしたら悪ふざけをしているコントラクターもいるかもしれない。
 実際のところ、研究のことでは猛を手伝えないので、ルネはせめて街の安全に一役買おうと、サイコキネシスを駆使して危険なビームをさばいていたのである。
「えーい、危ないであっちのクラゲのほうに行ってください!! あと他人を狙うような悪いビームは撃った人のところへ帰って下さーいっ!!」
 クラゲ自体には武器もスキルも魔法も効きにくいが、確かにビーム自体の軌道を変えることは可能だ。
 ルネは次々と四方八方から飛来するビームをどうにかこうにか安全に回避していくのだった。

 ところで、そうもいかないのがベネトナーシュ・マイティバイン(べねとなーしゅ・まいてぃばいん)である。
 ルネと同じく研究に関しては手伝えることもないし、と何となく外に出たのが運の尽きだった。

「あばばばばばば!!!」
 ルネのようにビームの軌道を変える術を持たなかったベネトナーシュは、あっというまに流れビームの餌食になってしまったのである。
「しびびびびびび!!!」
 致命傷にはならないが、コントラクターそれぞれの想いのこもったビームは、命や精神のある者には影響を与える。
「のおおおおおお!!!」
 どうすることもできないベネトナーシュは、四方八方からビームを喰らって悶絶するのだった。

 道端の端っこで倒れているベネトナーシュをルネが発見するまで、しばらくの間ビームの洗礼を受け続けたベネトナーシュだった。


「オ……オデノカラダバボドボドダッ」


 もはやうまく言葉を発することもできないのか、猛烈に滑舌の悪い最後の言葉を残して、ベネトナーシュは力尽きたという。


                              ☆