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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!

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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!
目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム! 目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!

リアクション

 いい夜だった。

 六月だというのにその夜のツァンダは雨も降らず、湿度も低目で過ごしやすい夜で。
「よっし、んじゃあ始めるか!!」
 五条 武(ごじょう・たける)はとある貸しスタジオでエレキギターを構えて、準備完了を宣言していて。
「準備はっとくに出来ている。調整がどうのと言っているのはお前だけだ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が幾つもの機器を前に肩をすくめてみせて。

「ふふ……よく寝ていますね」
 コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は産まれたばかりの赤子――名は白夜――の頬をそっと撫でて。
「ああ……そうだな」
 ルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)がその様子を穏やかに見守っていて。

「ふふふ……蒼学生のあの娘はまだのぞいたことがないでござるよ……」
 と、椿 薫(つばき・かおる)は『のぞき部』の部活動の一環として四葉 恋歌の後をこっそりと尾行していた。

「ふんふんふ〜ん♪」
 それはそとして、ツァンダの街のホテルに宿泊していた遠野 歌菜(とおの・かな)は、お風呂に入っていた。バスルームに、歌菜の美声が響く。
「けっこういいホテルにあたったわ〜、値段のワリにお風呂が広くていい気持ち〜♪」
 バスタブをソープの泡でいっぱいにして、歌菜は形のいい足をくいっと伸ばした。
 まるで映画のようなワンシーン――後始末が面倒だから自宅ではできないのだ。
 透き通るような白い肌を上気させながら、お湯のカランをひねる。
「さてと……軽く流したらあがろうかな」
 バスタブに注がれる心地よいシャワーを浴びながら、泡を落とすために歌菜は立ち上がった。


 はい、サービスシーンここまで。


『目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!』


第1章


「きゃーーーっ!!?」


 歌菜はバスタブの中で叫んだ。
 無理もない、なにしろ世界で一番快適だったはずのバスルームが突然暗闇に包まれたのだから。
「な、なになになに!? 何で電気が消えちゃうのーーーっ!!?」
 何も見えない中で目一杯混乱する歌菜だが、辛うじてカランを回してお湯を止める。
 それでも冷静になるとこの突然の暗闇が停電によるものであろうことが想像できた。それでなければ突然世界が終了したかのどちらかだろう。
「え、えーっと……」
 何とか手探りでバスタブから出た歌菜は、記憶を頼りにバスタオルを探そうとしていると――

「――歌菜。悲鳴が聞こえたが無事か?」

 と、隣に部屋を取っていた月崎 羽純(つきざき・はすみ)がバスルームに扉を開けて入ってきた。
 ドアはピッキングで解錠して。
 ご丁寧に『光精の指輪』で明かりをつけて。

 つまり、色々と何かが丸見えなわけで。


「きゃーーーっっっ!! 見ちゃだめーーーっ!!!」


 瞬時にして放たれるサイドワインダーによる石鹸の泡!!
「おぅっ!!?」
 器用に右目と左目に入った石鹸の泡に、羽純はのけぞってのたうった。
 そのまま、ごろごろとバスルームを転がって出る羽純。一瞬の光でバスタオルを見つけた歌菜は、それで素早く裸身を隠す。
「あ……ゴメン……でも、私も裸だったんだもん……」
 とりあえず簡単に体を拭き、バスタオルを巻いたまま部屋に入る。
「よいしょっと……ちょっと貸してね」
 羽純の指から光精の指輪を抜き取ると、その明かりを元に羽純をトイレに押し込めた。
 何しろまだバスタオル一枚の状態なのだ、目の前で着替えるわけにはいかないだろう。

「……状況としては分かるが、この扱いは少しひどくないか?」
 と、暗闇のトイレでつぶやく羽純。その呟きを聞きつけた歌菜はドア越しに声をかけた。
「ご……ごめんね羽純くん、ちょっとビックリしただけなの……心配して来てくれたのに……怒ってるよね……」
 実際のところ羽純も驚いただけで、石鹸の泡が眼から落ちればどうということはないのだが。
「……」
 ようやく着替えが終わった歌菜がドアを開けると、憮然とした表情の羽純がいた。
「……うぅ……ごめんなさい……」
 うなだれつつも、原因を把握するために部屋の外に出る歌菜。羽純はというと別にもう怒っていたわけではないが、歌菜の反応が面白いのでしばらく放置することにしていた。
「……しかしまた停電とは突然だな……」
「そ、そうよね! 早く復旧してもらわなくっちゃ!!」
 どうにか暗い空気を払拭しようと、歌菜は無理に明るい声を出して、羽純がその様子を見守りつつも内心楽しんでいる。


 そんな二人は、混乱するホテルからどうにか外へと出たのだった。


                    ☆


「……どうしたのかしら……?」
 一方の自室で、先日産まれたばかりの白夜をあやしていたコトノハは、どうにか子供を抱いて外に出た。
「停電のようだが……ツァンダの街がほぼ全てだな……大きな事故でなければいいが……」
 と、ルオシンは暗闇に包まれた空を見上げる。その横で、そっとコトノハがついたため息を、彼は見逃さなかった。
「……どうした?」
 パートナーであり夫でもあるルオシンは、そっとコトノハの背中に手を添えた。
「……何でも……ううん……何かこう、うまくいかないな……って」
 このところ、コトノハのため息が増えた気がする。
 というのも、先日色々とあって蒼空学園を放校されることになったコトノハ。それによってルオシンにも迷惑をかけていることを、コトノハは気にしていた。
 確かに自分とルオシンの子である白夜は元気に産まれて来てくれた。だが、それでも。
 ルオシンは、そのコトノハの背中をやさしく撫でる。

「そうだな……確かに色々あった。だが、我にとっては一番大事な家族たちが無事だった……それだけでも喜ぶべきことだと思っている」
 コトノハは、その言葉に自らの腕に抱いた白夜をそっと見つめた。
「……そう……でしょうか……」
 コトノハは言いよどむ。確かに、生きて帰れたことは喜ぶべきことかもしれない、しかし、事態はそう単純ではないのだと。
「……コトノハ」
 ルオシンは、そっとコトノハの背中を抱く。事件や出産でバタバタとしていた日常。誰かのぬくもりを感じるのも久しぶりだと、コトノハはそっと目を閉じた。
「コトノハ、聞いてくれ……。我は永い間、封印されていた。
 封印を解かれはしたものの、ひょっとしたら本当に未来永劫あのままだったかも知れない。
 それを考えると怖くなる……コトノハや皆、そしてこの子――白夜にも会えなかったのかも知れないのだからな。
 確かに今、我々の置かれている状況は良くはないかもしれない……それでも」
「……ルオシンさん……」
「……それでも、我々は生きているのだ。色々と巡り合わせが悪ければ、思いもよらない方向に流されてしまうのが人の世。
 しかし、あえてその流れに逆らうならば、真っ当にやり直すしか手はない――。
 ……やり直そう。これから、街や人……パラミタのためになるように動いていけば、いつか学園に戻れる日も来るだろう。
 やり直すのだ……二人で……いや、家族四人でな」
「……はい……私達はいつも、一緒です……」
「愛しているよ、コトノハ……」
 二人の姿がそっと寄り添う。どうせこの暗闇の中だ、構う事はないとそのまま唇を接近させる二人。

 だが。


「はいはいはい、邪魔するぞー!! あと出産おめでとーう!」


 と、そこにやって来たのがツァンダの地祇の一人、カメリアである。

「カ、カカカメリアさん!? どどどうしてここにっ!?」
 さすがに不意を突かれたのか、顔を赤くしたコトノハはルオシンから離れる。
 カメリアは二人の様子を見て、とりあえずルオシンに2本の水晶のようなものを手渡した。
 それは、冬の精霊ウィンター・ウィンターと春の精霊スプリング・スプリングが作った『情熱クリスタル』だ。
「これは……何だ?」
「まあ……説明の前に、あれを見るが良いぞ」
 尋ねるルオシンに、カメリアは空を指差した。
「……あれ、いつまにか少しだけ空が明るく……?」


 そこには、黒雲の中をゆっくりと降下してくる、無数の『パラミタ電気クラゲ』の姿があった。


                    ☆


「……ふぅん、つまりあのクラゲが電気を吸い取ってしまうから、停電してるってワケね?」
「そういうことじゃな」
 しばらくの後、茅野 菫(ちの・すみれ)に事情を説明したカメリアは頷いた。
 コトノハとルオシン夫婦に事情を説明した後、カメリアはまた街を駆け巡り、少しでも知った顔がいたなら『情熱クリスタル』を渡して歩いているのだ。
「それで、このクリスタルを持って気合を込めれば、目からビームが出る……と。無茶もいいところね」
 と、ため息をつく菫だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
 何しろ、パラミタ電気は魔法やスキルに対する耐性が強く、そもそも距離があるせいで直接の攻撃も効き難い相手。
 クリスタルを使ったビームであればそれなりの効果が期待できるとのことだし、効率の悪い手段は菫の趣味ではないのだ。
「どれ……目からビーム!! ……あれ?」
 ものは試しと、空中を浮遊する電気クラゲに向けて気合を入れる菫だが、何の変化もない。
 菫は、クリスタルを眺めながらカメリアに文句を言った。
「……出ないじゃん」
 カメリアはというと、自分もクラゲに向かって叫んでみる。
「おかしいのぅ……目からビィィィム!!!」
 すると、カメリアの両目から赤いビームが飛び出し、一匹の電気クラゲを貫いた。
「ほれ、ちゃんと出るではないか……きっとお主の気合がたりな……何を見ておる?」
 説明しながら、カメリアは菫の視線に気付いた。
 さっきまで空やクラゲを眺めていた菫が、今はなんだか熱心にカメリアを見つめているではないか。
 艶やかな黒髪から、白い地に紅い椿の柄の着物。
「え? ……ああうん、ナンデモナイヨ?」
 妙にカタコトでとぼける菫は、視線をカメリアの頭の先から足元まで滑らせた。
「……なるほど……そういうことか……」
 一人納得する菫に、カメリアは尋ねる。
「おい……どうしたのじゃ菫?」
 しかし、菫はというとすっかり上機嫌でカメリアから受け取ったクリスタルをひらひらと振って答えた。

「いや大丈夫。事情は分かったよ、このクリスタルであのクラゲを何とかすればいいんだろ?」
「ああ……じゃが、お主ビームは……」
「うん大丈夫、それよりさ……最近は着物の下に着ても目立たない下着もあるから、今度買ってみたら?」
 と、まったく関係ないことをカメリアにそっと耳打ちする菫。そのまま、クリスタルを握って走り去ってしまった。
「はい? ……というかお主、どうして儂の下着事情を知っておる……まさかッ!?」

 しかし、カメリアが顔を赤らめて自分の身体を隠した時、菫はすでに光の速さで走り去った後だった。

 そう、菫の目から出ていたのは、ビームはビームでも赤外線ビーム。
 赤外線なので目に見えることはなく、暗闇での行動が可能。そして最大の特徴は、特に白い服などは透けて見えることである。


 つまり、菫はさきほどからカメリアの全裸を思いきり堪能していたのである。


「ひゃっほーっ!! こいつはいいもの手に入れたーっ!!」
 と、喜び勇んでツァンダの街を走る菫。


 とんだエロガキであった。


                    ☆


「む……停電でござるか……これではのぞきを楽しめないでござるよ」
 薫は一人呟いた。
 四葉 恋歌の後を尾行していた薫だったが、今日はなかなかチャンスがなく、そろそろ女子の尾行をするにも色んな意味で危険な時間帯になってきていた。
「さてさて、どうしたものか……む?」
 暗闇を見上げると、街のあちこちから一直線に光線が伸びて、上空を浮遊しているクラゲのような生物を貫いているのが見える。
 カメリアやブレイズ・ブラス(ぶれいず・ぶらす)がクラゲを退治しながら『情熱クリスタル』を配って回っているので、そろそろビームを使ってクラゲ退治を始めたコントラクターたちがいるのだ。

「ほう……これは奇妙な」
 薫が周囲を見渡すと、街のあちらこちらから普段は見慣れない水晶のようなものが生えているのが見えた。
 と、そこに通りがかる茅野 菫。

「……おっと……これは別に見たくないなぁ」
 さすがに、普通に服を着ている薫の全裸が見られるわけではないが、普通に下着姿には見えてしまう。菫はあまり薫のほうを見ないようにしながら、自分が持っていたクリスタルを薫に投げるのだった。
 その代わりに、自分はその辺のクリスタルを一本折って持っておく。
「……おっと、これは何でござるか?」

 戸惑う薫に、菫は一通りの説明をした。

「なるほど……」
 薫はとりあえず納得し、クリスタルを握り締めて空中に向かって叫んだ。


「目からビームでござるぅぅぅ!!!」


 すると、薫の内なる煩悩が形となって溢れたのか、左右の目から一対のピンクのハートマーク型ビームが飛び出し、空中の電気クラゲを貫いた!!
「おお、これはすごいでござるな!!」
 だが、それを見て菫はぼそっと呟いた。
「あれ……そうか、ビームの種類はクリスタルじゃなくて個人の情熱の資質によるのか……?」
 それを聞いた薫もまた、菫に聞き返す。
「どういうことでござるか?」
「いやね……かくかくしかじか」
 とりあえず、事情を説明してみる菫。
「な、なんと!! それならばまさにのぞき放題ではござらんか!!」
 激昂する薫だが、しかしすぐにその考えを改める。
「……いやしかし、あけっぴろげに丸見えで見放題とはいささか主義に反するでござるな。やはり見えそうで見えなくてちょっとだけ見えるかもしれない、あのギリギリ感がのぞきには重要でござるよ」
 さすがはのぞき部所属の薫。のぞきにかけてはやはり一家言あるらしい。

「だが、これは千載一遇のチャンス!! 一刻も早く停電を回復させて、油断しているであろう女性の姿をのぞきにいくでござるよ!!」
「まあいいか……のぞき部なら色々といいポイント知ってるだろうし……よし、とりあえずあのクラゲをやっちゃおう!!」
 いつの間にか、パラミタ電気クラゲはずいぶんと街の近くまで降りて来てしまったようだ。次々と降下してくるクラゲに向かって、二人は叫んだ。

「さぁ、目からビームでござるよぉぉぉっ!!!」
「よし、こっちもビーム!!」
 同時に放たれた二人のビームは互いに威力を高め、赤熱化した巨大はハートマークとなって大量のクラゲを巻き込んだ。
 赤い光に誘われるようにやってきたクラゲと次々と巻き込んで、ついにはその熱量に耐え切れず、電気クラゲは次々と爆ぜていく。

 周囲のクラゲが一掃された時、菫のビームのせいだろうか、どこからともなく音がした気がした。
「チーンッ」
 と。


 電子レンジか。


                              ☆