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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 写真の中の過去 ■
 
 
 
 喫茶『とまり木』は数日休業することにして、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)はパートナーを連れて地球へと里帰りした。
「佑也さんのご実家に行くのは久しぶりですね」
 ラグナ アイン(らぐな・あいん)は地球で機能停止に陥っていた所を佑也に発見されて再起動を果たし、これも何かの縁だと契約を結んだ。その後パラミタに渡るまでは、よく佑也の母である如月 香澄の手伝いをしたりしていたから、実家のことは知っている。
 今回同行した他の2人、アルマ・アレフ(あるま・あれふ)ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)は佑也の実家に行くのははじめてだ。こんなパートナーたちを連れて行くよと、佑也は皆の写真を撮って先に携帯で母に送っておいた。
 
 実家に帰ったら挨拶もそこそこに、まずは寝泊まりするために普段は使っていない部屋へと佑也はパートナーたちを案内した……のだが。
「ちょっと母さん、部屋が凄い散らかってるんだけど……」
 一体何事なのかとに訊くと、香澄はそうそうと笑った。
「大掃除してたところだからな。ちょっと目を離すと要らない物がどんどん溜まってくるもんだから、この期間にきれいさっぱりと片づけようと思ってたんだ」
 言われてみれば、他の部屋にも荷物が散乱している。思い立ったが吉日と、母があちこち引っかき回したのだろう。
「仕方ない、まずは部屋を片づけるか」
 このままでは寝ることもままならないと佑也が言うと、アインが即座に頷いた。
「そうですね。香澄さん1人がこの広いお家の掃除をするのは大変だと思います。皆でお手伝いをして早く終わらせましょう」
「姉上がやるというなら、手伝うのにやぶさかではありませんな」
「そうね。大変そうだし、あたしもやるわよ」
 ツヴァイとアルマも手伝って、佑也たちは皆で部屋中に散乱している物の片づけに取りかかった。

 4人がかりなら掃除も早い。荷物を整頓して押し入れに入れ直し、物を動かした所為で部屋に舞う埃を外へとたたき出す。
 思ったよりも早く部屋の掃除が終わったからと、アインとアルマは今度は納屋の片づけを手伝いにいった。
「皆が手伝ってくれたお陰で掃除もはかどるな。お礼にケーキでも買ってこようか」
「兄者推薦のケーキでもあるんですか?」
「最近は食べてないからどうか分からないけど、結構おいしいケーキを売ってる店はあるよ」
「ならば行ってみる価値はあるでしょう」
 頷いてくれたツヴァイを連れ、佑也は近所で評判の洋菓子店にケーキを買いに出掛けた。
 
 佑也たちがケーキの買い出しに行っている間も、アインとアルマは納屋の大掃除。
 荷物が多い分だけ部屋よりも大変だが、お喋りしながらも手は動かして手際よく片づけてゆく。
「佑也の家族ってどんな人なのかと思ってたけど、気難しそうな人でもなくて安心したわ」
「香澄さんはいい人ですよ」
 ちょっと大雑把なところはありますけど、と付け加えると、アインは手を伸ばして棚の埃を拭いた。
「あら……何か挟まってますね」
 紙のような感触のものに気づいて、アインは手探りでそれを隙間から引っ張り出した。
「写真……ですね」
 いつ頃撮ったものだろう。写真には男性1人、女性2人、あわせて3人の人物が写っていた。背景はおそらくこの家の庭。
 1人は香澄。今と変わりないように見えるけれど、今でも見た目20代後半に見える香澄だから、何歳の時の写真とは言い難い。もう1人はどこか佑也に似通った面差しだから、香澄の夫だろうか。そしてもう1人は……。
「あれ……アルマ……さん?」
 アインは写真とアルマを見比べた。
「え、あたし?」
 アルマが覗いた途端、伸びてきた手がその写真をさっと浚った。
「……見たのか?」
「香澄さん……。あたし……ですよね。今の写真……」
 アルマが言うと、香澄は小さく息を吐いた。
「佑也の送ってきた写真を見た時からもしやと思っていたが、どうやら間違いなさそうだな。……分かった。お前達たちには話しておこう」
 観念したように言うと、香澄は話し出した。
 
「佑也の父親は契約者だった。それも、パラミタが現出してすぐの頃のな。あの頃はどの国もパラミタ開拓に躍起になっていて、あの人もパートナーを伴ってパラミタの調査に赴いた。危険だが遣り甲斐のある仕事だと本人は笑っていたが……」
 死んだよ、と言う香澄の声は淡々としていたけれど、それが逆に、何かを乗り越えた強さ、そして寂しさを感じさせた。
「調査中に化け物に襲われたらしくてな。現場の責任者だったあの人は、部下を逃がす為に殿を務めたそうだ。その当時、あの人と契約を結んでいたのが……アルマ。君だったんだよ」
「あた……し……?」
 何も覚えていない、とアルマは首を振る。記憶を失い放浪の末に行き倒れていたところを佑也に保護されたアルマは、それ以前のことは何も記憶に無い。
「この写真は出立の直前に撮ったものだ。佑也が写っていないのは……まあ、多感な時期だったからな。父親が母親以外の女と仲良くしている所など見たらショックだろう? だから隠しておいた。今でも佑也は自分の父親のパートナーがどのような人物か、知らないはずだ」
 そう言って香澄はさっき取り上げた写真をアルマに見せた。
 笑っている、3人とも。
 この後、佑也の父とアルマはパラミタに発ち、そこで佑也の父は生命を落とした。
(本当の話ならあたし……佑也のお父さんを、護れなかった……。記憶喪失になったのはパートナーロストの影響で……?)
 そして、護れなかったことすら……忘れてしまったのか。
「ごめん……なさい……あたしのせいで……」
 申し訳なさがこみ上げてきて、アルマは肩をふるわせた。が、香澄は優しく言う。
「……謝る必要などあるものか。それよりも私は、ずっと礼を言いたかったんだ。今まで佑也を護ってくれて、ありがとう。……謝る必要など、何も無いんだ。贖罪も断罪も、私は望まない。私が……私たちが望むことは唯の一つ。私たちの愛した大切な息子を、護ってくれ。ただ、それだけだ」
 息子をよろしく頼む、と香澄は頭を下げた。
 夫が生命を落とすような危険な地。そこに息子をも送り出す母の気持ちはいかばかりか。けれど香澄は佑也の意思を尊重し、パラミタへと送りだした。心配でないはずがない。
 そんな香澄にアルマは力強く答える。
「必ず……護り抜いてみせます。佑也も、佑也の大切な人たちも。この身に代えても、必ず……!」
 今度こそ、失わせはしない。
「……私も、約束します」
 アインもそう誓う。アインにとっても、香澄の語った話は今まで知らなかった。思えば、自分のことを何の疑問も無く香澄が受け入れてくれたのは、佑也の父が契約者だったからなのか、と今になって納得する。自分と佑也の契約を受け入れ見守ってくれた香澄の為、そして佑也のパートナーとして、アインは心に固く決める。
「佑也さんを、絶対に護り通します」
 この家に再び同じ悲しみをもたらさない為にも、必ず。
 アルマとアインは改めて、佑也を護ってゆくと強く決意するのだった――。