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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 紅茶とスコーン ■
 
 
 
 去年里帰りはしているけれど、その後エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はあまり実家に連絡を入れていなかった。
 パラミタでは刻々と情勢が変化していて、その推移を見守っていたからということもある。けれど、うっかり連絡を入れて、やはり帰ってきなさい、ときっぱり言われてしまうことが嫌だった、という気持ちも確かにあった。
 恐らく他から連絡は入っているだろうけれど、年に一度くらいは顔を見せておかないと、後で煩そうだと、この夏もエースは里帰りを決めたのだった。
 伴うのはエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)。パラミタで皆の世話をしてくれている気配りな人だから、という以外にもエースにはエオリアを連れてきた理由があった。
 空京から上野に向かう新幹線の中、エースはエオリアに自分の補佐をしないかと打診した。
 今のようにシャンバラでパートナーとして、というのではなく、エースがいつか地球に戻った際、自宅で補佐について貰えないかと思ったのだ。
「補佐ですか。エースに仕えるのは楽しいので、異存はないです」
「といっても俺はまだ当分パラミタに居たいと思ってるから、先の話になるんだが。家族に、そういう存在がいるということを伝えておこうと思ってさ」
「そうすることでお家の人を安心させてあげられるなら、別に構いませんよ」
「そうか。ありがとう」
 今回の帰省でエオリアのことを家族に紹介して、先への準備としよう。そう考えて帰宅したエースだったのだけれど。
 やはりと言うべきか、両親は今年も不在だった。
 両親が色々忙しいことは理解しているから仕方がない。
 小さい頃から、両親よりも執事であり教育係であったエルンスト・コーエンと一緒にいる時間の方が長かったから、こういう状態には慣れている。
「旦那様も奥様も、エース様に会いたがっておいででしたが、拠ん所ない用件が入ってしまい仕方無く発って行かれました」
「2人には手紙でも書いて残していくよ。エルンストとは自室でゆっくり話がしたいな。エオリアがスコーンを焼いてもってきてくれているんだ」
「かしこまりました。ではお茶の用意をしてエース様のお部屋にお持ち致します」
 エルンストは一旦エースを自室まで送ると、一礼してキッチンへと戻っていった。
 
 
 お茶のワゴンを引いたエルンストが改めて部屋を訪れると、エースは待ちかねたように中に通した。
「いれていただいた紅茶、凄く美味しいです」
 香りも水色も申し分ない紅茶をエオリアが褒めると、エルンストは静かにそれを受ける。
「ありがとうございます。こちらのスコーンも良い焼き具合ですね」
「どっちも本当にうまいよな」
 エースはスコーンと紅茶で一息入れると、空京大学に進学したということをエルンストに報告した。
「おめでとうございます。旦那様も奥様もきっとお喜びになることでしょう」
 エースとエオリアが話す空京大学の学生としての生活に、エルンストは興味深く耳を傾けた。
「それと……実家の事業の総括的な部分はある程度エルンストに手伝ってもらう事になっているけれど、身の回りの細々とした事と、実質SPとして側における人材として、エオリアを置こうと思ってるんだ」
 パラミタでも執事的雑務を任せているのだとエースが説明すると、エルンストはしばし碧眼をエオリアに当てた後、苦笑した。
「わたくしはまた、エース様が未来の奥方候補でも連れて帰ってきたのかと思いましたよ」
「まさか。大体、結婚相手を自分1人で決めるなんて事実上不可能だよな、我が家の場合」
「むろんそうですが、エース様の場合、無理無茶を押し通そうとしないとも限りませんから」
 そう言った後エルンストはエースに意味ありげな視線を向ける。
「よろしいですか? エース様はこの家を背負って立つ御方。怪我などは絶対避けていただかねばならないのですよ」
「うっ……」
 エースはしまった、と口ごもる。
 このエルンストの様子からして、昨年大怪我したことはしっかり耳に入ってしまっているようだ。
 エースは素直に謝った。
「話さなくてごめん。危険なことに首を突っ込んだことも悪かったと思ってるよ。けど、それからも怪我をしないように気を付けているし、エオたちも気を配ってくれてるから」
 エオリアもエースに口添えする。
「事件に色々と関わることが多いのはエルンストさんも御心配でしょうけれど、エースも自分自身や周りの人の身の安全を最優先に、事件に対処しているのでご安心下さい」
 エルンストも、エースが無茶をした結果負傷したのではなく、ある意味相手が悪かったのだという事は解っている。黙っているからチクリと言ったが、エースが素直に謝った以上、その件について深くは追及せずにおいた。けれど、エースのことが心配なのは事実だから、エオリアにこう頼んだ。
「エース様は一族全員の未来もその身に負っていらっしゃいます。しかし、わたくしたちはエース様のお傍にずっと一緒にいることは出来ません。ですからエース様のこと、くれぐれも宜しくお願い致します」
「はい。エースは周りの人たちと助け合って事に当たっていますし、勿論私たちも全力でお護りします」
 エオリアがはっきりと約束すると、漸くエルンストの表情も和らいだ。
「お茶が冷めてしまったようですね。新しいものに入れ替えましょう」
 次はどの銘柄にしようかと、エルンストはエオリアと相談しながら茶葉を選んだ。