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ユールの祭日

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ユールの祭日
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●●● ナイトメア・オブ・サンタクロース

イタリアでは『ベファーナ』なる祭りがあるという。
1月6日(公現祭)の前夜になると、魔女のべファーナが箒に乗ってやってきて、良い子にはお菓子を、悪い子には炭を置いていくという。

この魔女は古代ローマで崇拝された力の女神、ストレニアの零落した姿であるらしい。
しかし昨今では時期的にクリスマスと関連付けられ考えられている。

そのベファーナを名乗るベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が、このユールの日にやってきた。

「イケメン英霊が集まるから」
という理由である。

そのベファーナが目をつけたのは、新選組の原田 左之助(はらだ・さのすけ)であった。
新選組でも左之助は美丈夫として知られていた。
武人との戦いを望んでやってきた左之助だが、まさか先方からのご指名である。
モテる男の辛い所だ。


左之助は種田流槍術免許皆伝の腕前を誇り、今回も愛用の槍を持参していた。

「さぁて……血がさわぐってもんだ。気合入れていくぜ!
 改めて名乗るぜ、元新撰組十番隊組長、原田左之助だ!
 おまえさんも名乗りな」

「ベファーナ、と名乗っておきますか」

「いざ、参る」

左之助は相手を殺さぬよう、槍の穂先を鈍らせた槍を使っている。
無論、当たれば痛いというだけでは済まされないが、それでも命は落とさぬだろうという考えだ。

熱血漢の左之助に比べると、ベファーナの意図はだいぶん入り組んでいる。
「イタリアのサンタクロース」であるのなら、もっと他に適したイベントはあるだろう。
にも関わらずこの場に来たのは、見るものに夢を与えたかったからである。

「……じゃあ私は、子供達の英雄として舞台に上がらせてもらいましょう」

(子供達が夢見る英雄は、本物の英雄に勝てるのでしょうかね?)
ベファーナは心のなかでそうつぶやく。

左之助はベファーナの芝居がかった様子に辟易して、さっさとケリをつけようと突きをくれる。

「さあさ、今は彼ら子供達の時間。血生臭い大人は退場しないと」
ベファーナは幻術で左之助を惑わせようとする。

子供の頃に、おもちゃをもらった夢……

左之助はしばし呆然と立ち尽くす。
と、やおらすさまじい表情で怒鳴りだした!

「待てよ信長!! その交換はおかしいだろ!!!」
その剣幕にびくっとなるベファーナ。


夢の中にて。
信長「おう、左之助の。おぬしのそのドラゴンを交換せんか」
左之助「ええー……織田よ、こいつは俺のとっておきだぜ。割に合わん」
信長「そう固いこというなって、ほれほれ」
左之助「(うわあ面倒くせえ)しょうがねえなあ」


クリスマス寸前に、だいたいそのようなことがあったのである。
俗に言うシャークトレードだ。

(えええー、この人たち英霊になってもオモチャの交換とかやってるの!?
 日本人やばいよ!)
ベファーナ大ショックである。

「やかましいわ。
 英霊ってのはな、みんなでっかい夢を抱いた子供みてえなもんだ。
 そうでなけりゃ、どうして後の世にまで残れるかってんだ!」

いつのまにか正気に戻った左之助は、ゲンコツをベファーナに見舞う。
だいぶん加減したつもりであったが、それでベファーナはのびてしまった。
「ついかっとなって殴った、今は反省している」


「やっぱり左之助兄さんは格好いいなあ」
夢の内容を知らない椎名 真(しいな・まこと)は、弁当をパクつきながらそう思った。