蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

ユールの祭日

リアクション公開中!

ユールの祭日
ユールの祭日 ユールの祭日 ユールの祭日

リアクション


●●● 天地創造

偉大な功績を残した英霊は、時に無数の分霊を生み出す。
それだけ多くの多面性を持つからだ……。

戦いの場に【分御魂】 高御産巣日大神(わけみたま・たかみむすびのかみ)が立った。
これは異様極まる事態である。

日本神話においてはじめに現れたのは、造化三神と呼ばれる存在であった。
この神々は独神(ひとりがみ)といい、性別を持たなかったという。
それぞれ

・天之御中主大神(あめのみなかぬしのかみ)
・高御産巣日大神(たかみむすひのかみ)
・神産巣日大神(かみむすひのかみ)

というが、その実態は謎に包まれている。
後に江戸後期の国学者、平田篤胤がキリスト教と対比して、この三神を記紀神話における創造神であると考えたらしい。

対するは九十九 天地(つくも・あまつち)という巫女の英霊だが、パートナーである九十九 昴(つくも・すばる)にも長く素性を明かさないでいた。
しかし相手が高御産巣日大神であると知るや、意を決したのかこう告げた。

「手前、真名『天之御中主神』に御座います」

造化三神のうち、二柱が対峙するという事態となったのである。


「うーん、ちょっとまずいかなぁ」
珠代はめんどうくさそうにそういった。

「何がまずいので?」
アウナスが尋ねる。

「王様や武将は想定してたんだけど、天地創造の神様となるとねぇ。
 だいじょぶかなー」

実のところ英霊は神を名乗っていても
『後世では神や半神として伝わっているが、実際には元となった人間がいて、その人物が英霊となったもの』
である。

「つまり天地創造の英霊というのは、宇宙を創造した知性体ということになるわね!」

インテリジェント・デザインというやつである。
「宇宙を創造した知性体って神とどう違うの?」
という疑問はもっともだ。


こうして空前絶後の戦いが始まった。


「秘術『宇宙創造』!」
天之御中主神ははじめに世界に現れたものであり、また同時に宇宙そのものであるともいわれる。
完全な『無』から『有』が生じる、ビッグバンだ!

その宇宙的なエネルギーは、高御産巣日大神の怒りに触れた。
「『還れ』」
高御産巣日大神はただそう命じると、超高次元のエネルギーが天之御中主神へと跳ね返される。



日本神話に、天若日子(あめわかひこ)という神が登場する。
この神は葦原中国平定の任を受けて地上に降りたのだが、それっきり連絡をよこさない。
そのため高御産巣日大神は雉を遣いに出したのだが、天若日子はこの雉を弓矢で射殺してしまった。
その矢は天に届き、これが高御産巣日大神の怒りに触れた。
高御産巣日大神が矢を投げ返すと、天若日子に刺さり、死んでしまったという。


この『攻撃を跳ね返す力』によって、天之御中主神の無限力に対抗したのだ。

「なにが起きているのかわからない……」

高御産巣日大神のパートナー、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は途方にくれていた。
なんとなくでこの戦いを見にきたのだが、すでに事態はパラミタどころかこの次元全体に影響を及ぼしかねない。

「……感じるのぅ」
【分御魂】 天之御中主大神(わけみたま・あめのみなかのぬしのかみ)がつぶやいた。
恐ろしいことに天之御中主大神の分霊がふたりもこの場に居合わせたのだ。

「やはり、三柱の力か……」
【分御魂】 神産巣日大神(わけみたま・かみむすびのかみ)も呼応して答える。

「なんのことか、わけがわからないよ」
何も見えない光に包まれて、近遠はパニック気味に言う。


「神のことを数えるとき、一人、二人……ではなく、一柱、二柱……と数える。
 柱とはそれだけ重要な、支えとなるもののことを指す。
 国にももちろん柱がある。
『世界軸』そう呼ばれるものだ」

神々は唱和した。

「世界軸……世界樹じゃないの?」

「世界樹もまた世界軸のひとつの表れだ。
 日本においては富士山のように、霊峰が軸をなすこともある。
 シャンバラにおいては世界樹イルミンスールと霊峰アトラスの傷跡がそうであった」
「しかし今、人間は第三の柱を建てた。
 それがここ、シャンバラ大宮殿だ」
「柱は結界を成す。二本の柱では線しか引けぬ。
 しかし三本となった柱は面を成す……」


造化三神は宇宙創造の秘密の一端を語ろうとしていた。
点、線を経て面となり、立体となり、時間の概念を獲得して宇宙が動きだす……

そしてそれが今のシャンバラで行われている『国造り』の原型であることも明らかだった。
だからこそ日本政府は最初の契約者育成校に『天御柱学院』と名付けたのではないのか。

遠近が何かを悟りかけた瞬間、光が急速に収まった。

「戦いが終わった……?」

立っていたのは、九十九 天地のほうだった。