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年の初めの『……』(カギカッコ)

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年の初めの『……』(カギカッコ)
年の初めの『……』(カギカッコ) 年の初めの『……』(カギカッコ)

リアクション


●戦え! 何を! ウィンタースポーツを!

 白い閃光のようなものが雪を蹴立て走り抜ける。
 それはスキーウェアの色であった。白のジャケット。これに黒のズボンを合わせていた。
 スキーヤーだ。猛速度の滑走だった。速いばかりではなくとても優雅な滑りだ。体重を上手に移動させて絶妙のバランスでシュプールを描く。スキーヤーは神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)である。
 ザッと華麗に急カーブを描き、翡翠は停止した。
「久し振りですので、上手く滑れるかどうか心配していましたが」
 なんとかなりましたね――ゴーグルを上げ、柔らかなエメラルド色の眼で翡翠はふわりと微笑んだ。
 ヒラニプラ山脈に位置する村、そのすぐ近くの丘である。
 村を賑やかにするのも復興の一環だ。村の招待を受け、新年の日を過ごすべく沢山の契約者が集まっていた。翡翠もその一人なのだった。
「なんとか、なんてもんじゃないよな……翡翠のスキーの腕前、プロ級だろ」
 レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)は舌を巻いていた。何でもできてしまうのが翡翠の凄いところだがスキーも例外ではなかったようだ。
「いえ、自分なんか、下手な方ですよ」
 みるみる翡翠は顔を赤らめた。握ったスポンジのように小さくなっている。照れ隠しのように彼は言う。
「滑りやすくくていい斜面です。二人も滑ってみて下さい。楽しいですよ」
「滑ってみて……と言われてもなあ」レイスは、ストックを握ったままの手で頭をかいた。「まあ、下りるときは楽だろうけどさ〜。登るのが、きついぜ」
 ぺたぺたと、レイスとフォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)は斜面を登っている最中なのである。翡翠は飄々と簡単に登っていたのだが、実際にやってみると厳しい。
「本当なら、リフトとか有りますからねえ」
 専門のスキー場ではないのだ。しかし逆に、そういった人工物がないため自然を満喫するにはこれ以上の場所はないようにも思えた。
「本当に綺麗よね? 跡つけるの、もったいかもしれないわね?」
 フォルトゥーナもレイス同様に苦戦中だ。踏み荒らされていない雪面にスキーを平行にして、よいしょよいしょと頑張っていた。
「自分ももう一滑りしましょう」
 そんな二人を軽々、翡翠は追い越して斜面のてっぺんにたどりついた。
 やったー、と嬉しそうな声は、到達したレイスのものである。ようやく頂上だ。清涼な白い空気を胸一杯に吸い込む。
「雪は、綺麗なんだが、斜面が反射して眩しいぜ」
 彼はゴーグルを下ろした。青いジャケットに灰色のズボン、ジャケットは現在の空の色だ。ズボンも、雪を被った森の色とよく似ている。
 行ってくる、と言い残してレイスは斜面に飛び込んだ。翡翠に比べると初心者丸出しだが、転ばずに滑ることができているようだ。
「なかなか気持ちいいぜ。やっぱスキーはいいな」
 平地にたどり着いてレイスが振り向くと、
「ちょっと、どいて〜!」
 突っ込んで来た。
 真後ろから、黄色いジャケットのフォルトゥーナが突っ込んで来た。
 ボーゲンという言葉など存在しない直滑降、それも猛スピードだ。
「危ない!」
 翡翠がスキーで追ってくるがその誘導は間に合わず、フォルトゥーナはレイスに体当たりする格好となった。二人は、知恵の輪のごとく複雑にもつれあって転んでいた。
 幸い怪我はなかったが、レイスは歯を剥いて怒った。
「てめえ、わざとだろう!? 怪我する所だったじゃないか? 危ねえだろうが!」
「わざとのわけ無いじゃない? ぼ〜と突っ立っているそっちが、悪いんだから」
 ぐいとフォルトゥーナが顔を向けると、レイスとの顔の距離は数センチと離れていなかった。
「ち、ちょっと顔近いじゃない! 危うく事故チューするところだったじゃない!」
 言いながらフォルトゥーナの眼は翡翠のほうに向けられており、
「マジでそれだけは勘弁してくれ! 俺の唇は……」
 思わずレイスも翡翠のほうを見ていた。まさか『翡翠のためにとってある』と言うわけにもいかず口ごもった。
「二人とも大丈夫ですか? 変な転び方していませんよね……最悪、捻挫する事もあるんですよ」
 そんな事情などまったく気づかないまま、翡翠は二人を助ける。
「大丈夫だ。一応最悪の事態は避けられたが、雪まみれだぜ」
 パンパンと雪をはたきながらレイスは立ち上がった。『最悪の事態』とはこの場合、怪我を指すのか唇の危機(しかも、よりによって翡翠の前で!)を指すのかは自分でもわからない。
「あたしも平気よ。ただ、冷たいだけね」
 縄抜けみたいにしてレイスから離れると、スキーを外してフォルトゥーナは翡翠に抱きついた。
「翡翠のフォーム、すごい綺麗で、慣れているみたいね。更に惚れ直しそうだわ。ね? あたしに手取り足取り教えてよ」
 甘えた口調である。近くで見る翡翠の肌は女の自分でも嫉妬しそうなくらい綺麗だ。頬ずりしたいくらい。
「お、お教えします。お教えしますから、あの、できれば抱擁は解いて下さい……」
 翡翠は再び紅潮していた。肌がしっとり薄いだけに桃色に染まるのも早い。
「こらそこの変な女、いますぐ離れろ! 翡翠、俺にもスキーの技術指導してくれよな! な?」
 などとレイスは引き剥がしにかかりながら、翡翠からスキーを習うことを考えて気分が盛り上がってくるのである。
 今日は一日、くたくたになるまで滑って雪遊びして、夜は温泉につかりに行くとしよう。

 そんな翡翠たちのところへ……。