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【ダークサイズ】戦場のティーパーティ

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【ダークサイズ】戦場のティーパーティ

リアクション

きゅぴーん

(誰かが……空腹に泣いている……っ!)

 浮遊要塞アルカンシェルの医務室に詰めていた涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は、ちょうど医務作業が一段落したところに、第六感の訴えにハッと顔を上げる。
 と、彼は感じるが早いかロッカーへ走り、中から何かのヒーローの着ぐるみを取り出す。

「急にどうしたの、おにいちゃん!」
「クレア、次の仕事だ」

 駆け寄って来たクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)に、涼介は着替えながらソーサルナイトの出撃準備を、と指示する。

「ええっ、さっきお仕事終わったばっかりなのに〜」

 クレアは涼介を追いながら、イコンの格納場所に向かう。
 ソーサルナイトに乗り込もうとした時、涼介ははと気づいて、クレアにパピヨンマスクとコック帽を渡す。

「お、おにいちゃん、何しに行くの……?」
「久しぶりに、謎の光の正義の公開の料理人・蒼空軒の出番だ。腹を空かせし者が、私たちを待っている!」

 颯爽とイコンに飛び乗って起動する涼介。
 慌ててクレアも後ろに乗り込み、アルカンシェルを後にする。
 涼介はさらにラジカセのスイッチを入れ、

そ・お・だ おっそれないーでー らーんららん・らん・らん・らん・らん

 色んなところをぼかしたお食事ヒーローの曲を響かせる。
 言っておくが、彼が届けるのは決してパンではない。


☆★☆★☆


 ラピュマルを襲う機晶姫部隊の約100体のうち、まだ半分以上が稼働してダークサイズを襲う。
 異界属性組が食い止めようとするが、はやりその隙間を縫って、機晶姫は徐々にラピュマルに上陸していく。
 いよいよダークサイズ側の弾数が少なくなってきた時、突如機晶姫隊を横から挟撃するイコンが二機。

「エヴァっち、弾は無駄にするなよ! 機晶姫さえ倒せばいいんだからな!」
「おらおらおらー! あたしにぶっ壊されたい奴から出てきなーっ!」

 煉の話を聞いているのかいないのか、エヴァは【ショルダーキャノン】で機晶姫を倒して注意を引いた後、角度を変えて別方向の機晶姫を【アダマントの剣】で攻める。
 大吾機は、機晶姫の隙間をすり抜けて、一気にラピュマルまで突進、

どがあっ

 と、盛大な音を立てて着地する。

「わーお、今の登場、かっくいー♪」

 アリカが手を叩く。

「アリカ! シールドを!」

 大吾は、イコンを持たない生身の乗員の前に走り、率先して盾となり、シールドで敵弾を受けつつ、『ケルベロス』と名付けた【ガトリングガン】でけん制。
 同時にアリカは【超感覚】で索敵し、

「4時! 9時!」

 と敵の位置を大吾に知らせる。
 淳二に投げ捨てられてひっくり返ったままのダイソウは、突然の援軍に通信を送る。

「誰だか知らぬが、よくぞ来た」
「早くバリアの回復を!」
「うむ、ご飯待ちだ」
「は? 何悠長なこと言ってんだ!」

 事情の知らない大吾は、いきなりダイソウを叱り飛ばす。
 煉機は洋たち異界属性組と連携し、通信を送る。

「ニルヴァーナ捜索隊の桐ケ谷煉だ。敵部隊の隊長はどれだ? 指揮系統を麻痺させる」
「ダークサイズの相沢洋である。指揮官らしきものは見当たらん。見ての通り、数に任せての単純攻撃を繰り返している」
「なぁるほど。ってことは、殲滅戦だな……ちっ」

 パラミタの月に着くまでに、ここで弾の消費を覚悟しなければならないと悟った煉は、無意識に舌打ちする。
 そこに今度は、ラピュマルの反対側、つまり機晶姫の背後から【機晶ビームキャノン】【レーザーマシンガン】が、最後列の機晶姫を破壊する。

「ひゃっほーい! おっまたせえーっ!」

 カレンとアキラがピースサインで通信を送る。

「こんな少数で戦ってたのか! うおおおおおっ!!」

 勇平機もすぐに追いつき、【ダブルビームサーベル】を中心に近接戦で機晶姫に挑む。
 ほぼ同時に別の二方向からの援軍で、形勢はダークサイズが機晶姫を包囲する形になる。
 指揮官を持たない敵機晶姫は、多方面からの攻撃に対応できず、一気に体勢が崩れる。

「よくぞ来たな、お前たち!」

 と、自分も戦線に復帰しようとダイソウはイコンを立ち上がらせようとするが、またダイソウトウキャノンが発射して、ゲブー機をぎりぎりでかすめて、ラピュマルの表面をガリガリ削る。

「あぶねーだろー!! 後で覚えてろよーっ」
「……もういいから、あんた降りなさいよ」
「うむ、そうする」

 菫の進言に、今度は素直に従うダイソウ。
 戦況の好転に伴って、残す問題はバリアなのだが、

「お待たせしました! 炒飯ですよ、アルテミスさま!」
「う、うむ……」

 アルテミスは何とかレンゲを持つが、その炒飯をマナが平らげる。

「いいかげんにしなさいよー!」

 祥子もキレるが、

「条件反射で食べてしまったのだ……」

 マナも状況は理解しているようで、一応反省はする。
 クロセルも、

(良い子の皆さん、お茶の間のヒーローが星になっても、忘れないでくださいね……!)

 と、声に出さないがさすがにやばいと思っている。

あ・い・と るるるだけーがー ふーんふふん・ふん・ふーん

 歌詞のほとんどが鼻歌で違和感だけをもよおす歌が、カレンたちが駆け付けた方角から聞こえる。
 それが音波ノイズにでもなったのだろうか、劣勢の機晶姫の方向感覚をさらに狂わせ、ダークサイズにいいように倒されていく。
 その間隙を縫って、涼介機が猛スピードで颯爽と現れる。

「お待たせしましたー! 蒼空軒でーす!!」
「ダーイナミックうー! エントリいいいいいっ」

 ラピュマルに着地し、バッと降り立つ謎の料理人ヒーローとコックヒロイン。

「援軍……?」

 怪しげな格好に、思わず戸惑う面々だが、

「詳しい話は後! キッチンを借りるぞ!」

 涼介は祥子のコンロを借りて、【至れり尽くせり】【晩餐の準備】【用意は整っております】のスキルで、あっという間に一品作り上げる。

「おおっと! ここで謎の料理人蒼空軒が現れた! 一品作り上げたようですが、しかし難関はここから! アルテミス選手が口にする前に、マナ選手が食べてしまっては元も子もありませんっ!」

 いつしか終夏の実況にも熱が入る。

「必殺! アトラスの傷跡プレート!」

 と名付けた料理を、涼介はテーブルに出す。
 そしてすかさず、本人も無意識のままマナの手が伸びる。
 が、マナは突如冷静に返り、コトリとテーブルに戻す。

「……いらないのだ」
「な、なんだってーっ! 一体どうしたというのでしょう、マナ選手!?」

 見ると、涼介のプレートは、炒飯の中央にマグマをイメージしたという、見るからに辛そうな麻婆豆腐が盛ってあり、周りには岩石をイメージした唐揚げや餃子が乗っている。

「……辛いのはいらないのだ」

 ここにきて好き嫌いを言いだして、プレートをアルテミスに差し出すマナ。

「なんとマナ選手! プレートをアルテミス選手に譲ったああああ!」
「さあ、こいつを食ってもう一息頑張るんだ。パラミタの月はもうすぐそこだ!」
「はい、あーんして」

 クレアが介護士のように、アルテミスに一口食べさせてあげる。
 直後、アルテミスの目が輝き、一気にアトラスの傷跡プレートを平らげてカロリーを回復。

「続きを持てい!」

 と、シシルや子敬にも指示を出した直後、バリアを回復。
 クロセルは慌ててマナを普段のサイズに戻させるが、

「おぬしら、あっぱれの戦いぶりであった……覚えておれよ……」

 アルテミスの讃えているのか脅しているのか分からない言葉に、ぞっとする。
 バリア回復でラピュマルの内外に機晶姫をさらに分断することになったダークサイズは、さらに攻勢を強める。
 上陸した機晶姫は、

「よし、一気にいくぞ!」

 悠機の重火器を中心に、ヴェルデ機、泰輔機、ゲブー機、リアトリス機が囲い込みに入る。

「俺達の戦いはここからだ!!」

 乗員の保護に回っていた大吾機は一転してラピュマルから飛び出し、

「エルブレイカー、ケルベロス、アヴァランチミサイル、ノヴァブラスター!」
「大吾、全部使っちゃうの!?」
「構うものか! 全門開放だあああっ!」
「かっくいーっ! アペイリアー、やっちゃえ〜!」
「当たれええええっ! フルバーストアターーーーーーック!!

 何やらどうしようもなくテンションの上がった大吾は、後先考えずに残った全弾を撃ち込む。
 思わず『当たれ』と叫んだ大吾だが、やみくもに撃ったわけではなく、アリカの索敵のおかげでほぼ全てが敵に命中する。
 撃墜に至らずとも、武器やコンテナを失って攻撃力を削がれた機晶姫を、他のイコンが続けとばかりに追撃する。

「これで、ダークサイズは安心のようだな……光の料理人はクールに去るぜ」

 涼介は、自分の仕事に満足しつつ、ラピュマルを離脱してアルカンシェルへ帰っていく。