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リアクション
第三章 いよいよレース開始
最後の調整に励む緋王 輝夜(ひおう・かぐや)とネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)にエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が近づいた。
「調子はどうですか?」
「まぁまぁ……って何しに来たのよ!」
「もちろん、応援ですよ」
「賑やかな応援、ありがとうございます」
フン! と輝夜がそっぽを向くのも無理はない。エッツェルが両脇に女の子を抱えていたからだ。
輝夜は足元の雪の塊を蹴飛ばすと、「トイレ!」と叫んで駆け出していった。
「お祭りですし、楽しんだもの勝ちなんですけどね」
「それは……間違っては…………いないが……な」
ネームレストは瘴気の猟犬の頭を撫でている。
「調子は悪くないようですね。入賞くらいは狙えそうですか?」
エッツェルが侵食されかけた手を出すと、瘴気の猟犬は臭いをかいで、顔を背けた。
「どうだ……ろう。…………不利だから……な」
エッツェル達のイルミンスール魔法学校が属する東チームは、ソリの引き手は4頭に限られ、ソリのグレードも劣っている。
「船頭多くして舟山に登る、とも言いますし、数が多ければ勝てる訳ではありませんよ」
「ククク……今回は…………登る……ぞ」
ネームレスが雪山を指差した。エッツェルも釣られて笑う。
「フフッ、確かに」
馬 超(ば・ちょう)、ラブ・リトル(らぶ・りとる)、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)は、少し離れた所にいるコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)を見つけた。
3人のところに来ようとしているが、何人もの係員に入場を止められている。
「あー、やっぱりね」
ラブが手をかざしながら見る。馬超と鈿女も確認した。
今回のレースにコアは出場しない。推定600キロの体重はあまりにも重すぎ、雪に埋もれてしまうからだ。
現に今も体の半分までが埋まっており、コースなどに影響があるといけないので、係員に止められているのでである。
「おーい、ガンバレー!」両手を振るコア。それに応える3人。
「コアの分まで頑張りましょう。それが応援してくれる人へのご褒美よ」
腕組みした馬超が「うむ」とうなずいた。
西シャンバラ代王の高根沢 理子(たかねざわ・りこ)が最初に向かったのは、応援を求められた酒杜 陽一(さかもり・よういち)と酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)のところだ。
「陽一、大丈夫?」
「…………はぁ」
理子の第一声は、タイエットした陽一を気遣ってのものだ。しかし反応はイマイチだった。
30キロまで体重を絞った陽一は、あまりの空腹ゆえか、ペットを見る目つきまでがおかしい。ボーッとして、わたげうさぎにかぶりつこうとする陽一を、美由子と理子があわてて止める。
「あっ、理子様」
理子に両手で頬を挟まれ、更に至近距離で見つめられて、なんとか陽一は正気に戻る。
「やってしまったものはしょうがないわね」
理子は救護班で見回りをしていた布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)からココアを受け取ると、陽一に飲ませる。体の芯から温まって、さすがに陽一も無理をしすぎたことが自覚できた。
「くれぐれも無理をしないで。ダメだと思ったら、棄権するのも勇気よ」
「はい、でも優勝は……」
言いかけた陽一の頭に、理子が軽くゲンコツを当てる。
「まず安全を考えること。良いわね」
念押しした高根沢理子は小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)のところにも応援に行く。パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)とで、最後の打ち合わせをしていた。
「美羽は……無理なダイエットはしてないようね」
「もちろん!」と美羽は答えたが、理子から酒杜陽一が30キロまで落としたと聞くと、そっとわき腹をつまむ。『ちょっとは落とした方が良かったかも』などと思ってしまう。
「うん、あたしも同感」
美羽の考えを見透かしたように、反対側のわき腹をつまんで理子が言った。
「ちょっと、やめてよ!」
美羽が回し蹴りを放つが、理子はよけようとしない。顔に当たる寸前で美羽は足を止めた。
「よけなさいよ! それともあまりの速さに反応できなかった……とか?」
「真剣勝負ならともかく、こんな時に美羽なら当てないのは分かってる」
顔の横にある美羽の足に、理子がツーと人差し指を走らせる。美羽はフフッと笑って足を下ろす。
「頑張ってね。西チームのためにも」
理子と美羽はしっかり握手をした。
「さむーーーい」
百合園女学院の茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)は窓を開けると、冷気を胸いっぱいに吸い込んだ。息を吐くと、白い塊が目の前を飛んでいく。早々に窓を閉めた。
「お茶に……お菓子に……」
傍らのテーブルに準備を整えると、クッションの固さを確かめて椅子に腰掛ける。
「そろそろかしら」
テレビをつけると、タイミング良く、冬季ろくりんピックのソリレース会場が映し出された。
「じゃあ、始めましょうか」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が合図すると、冬季ろくりんピックソリレースの特設会場に音楽が流れる。
観客席のざわめきがすぐに静まった。
音楽が終わると、会場のあちらこちらに設置されたスピーカーから良く通る声が響いた。
「ただいまから、冬季ろくりんピック競技、ペットソリレースを開催します」
そのアナウンスが合図となって、観客席から歓声が上がる。
「まずは正面舞台をご覧ください。司会のお2人、よろしくお願いします」
舞台の中央が競りあがってくる。タキシードの男とゆる族が姿を現した。まずタキシードの男が一歩進み出る。静まった会場が再びざわめきに包まれたのは、男の外見にある。アフロヘアーにサングラス、そして上唇の髭とチンピラ風だ。
しかし正装をしていることで、かろうじてジャズピアニストくらいには見える。しかも用意万端を熱狂のヘッドセットを取り付けていた。
ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)は大きく一呼吸すると、マイクに向かって大声を張り上げた。
「お前ら! 準備は良いかー!」
会場から「おー!」の声が返ってくる。
「寒いからと縮こまってちゃ話にならねぇ、てめぇら心の導火線に火はついてるか? ボンバー!」
今度は「うぉー!」の怒鳴り声が返ってきた。
「冬季ろくりんピック第一競技、ペットソリレースの開催だ。最初は様子見なんでビビリには用はねぇ。我こそはって奴らが集まってくれたぜ。おっとその前にルールを説明しておくぜ。ただし自分じゃあない。相棒! 頼んだぜ!」
それまで控えていたゆる族が前に出る。こちらも前日までとは異なり、正装で立っていた。
「さーて、頑張らなくっちゃ」
藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)乗せで空飛ぶ箒を操る宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)が一段と上空へと舞い上がった。優梨子がファインダーを覗くと、レース会場の全景が見える。
それがそのまま司会を務める2人が立つ後ろのスクリーンに映し出された。
「ろくりんピック公認マスコットのキャンディスでース。ミーから簡単にルールを説明しますネー」
キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)から、コースの概要を初め、ソリや引き手の規程、失格行為などが説明された。
「6位までに入るとポイントが貰えるんですネ。東チームと西チームで、ポイント合計の多い方に30ポイント貰えまース」
一通り説明が終わると、会場から拍手が起こった。
次にヴィゼントがチームの紹介をした。
「今回のレースに出場するのは、東チーム12組、西チーム19組の合計30組だ。小学生でも分かるだろうが、西チームが倍近い上に、ソリのグレードや引き手の数も西が有利と来ている」
ひと呼吸置いて、更に声を張り上げる。
「しかーし! 油断すりゃ勝てるものも勝てなくなるのが勝負の世界だ。東も西も最後まであきらめるんじゃないぜ。ここで出場者の紹介をしよう! ここで実況レポーターのビューティー達、よろしく頼むぜ」
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