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【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

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【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

リアクション

 シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)の腰に手を回しながら、行動予測で妨害行為に備えていた。ところが。
 ── 意外に誰も攻撃してこないのですね ──
 スピードこそ出ているが、大人しいレース展開に拍子抜けだった。しかしそれはそれで抱きついているセイニィの活躍が気になってくる。
 グリム童話 『白雪姫』(ぐりむどうわ・しらゆきひめ)もシャーロットのポケットから顔を出してレースを観戦している。
「この分では、私の出番もなさそうかしら」
「油断しないで、レースはまだまだこれからよ」
 セイニィの言葉に、2人は気を引き締めなおした。
 操縦を高円寺 海(こうえんじ・かい)に任せた杜守 柚(ともり・ゆず)は、超感覚で周囲を探るのを続けていた。
 ただし感覚の半分くらいを海に回しているのはナイショである。柚の心にビデオカメラがあれば、海をターゲットに回りっぱなしになっていた。
「柚、大丈夫か?」
 同じチームに三月もいることから、名前で呼ばれるのもドキドキだ。
「はい、でも……私のことは気にしないでください」
「何言ってる! チームメイトだろ!」
 そんな言葉の一つ一つが柚には刺激的だった。
 ── ずっとレースでも良いなぁ……ってそんなこと考えてるの、私だけだよね ──
 シャーロット・モリアーティと桐生理知が、ふと共感できそうな感覚を得る。2人とも周囲を見るが、もちろんレースに懸命な選手ばかりだ。
『おかしいな』『不思議なことも』と首を傾げた。
「こんなものかな」
 中盤グループにつけたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、油断なく周囲を警戒する。今のところ、体当たりをしてこようとするソリは見当たらない。
 羅 英照(ろー・いんざお)の操縦は、堅実にシルバーウルフを動かしていた。
「遅くはないか?」
 羅英照の問いかけに対してルカルカは「これから、これから」と余裕を見せる。
「わかった」
 羅英照はペースを維持した。
「どころで参謀長、どんな子供だったの?」
 いきなりの質問に羅の手元がぶれる。ソリが大きくバウンドした。
「危ないじゃない!」
「ルカルカ、その質問は、レースに関係あるのか?」
「んー、なんとなく聞いてみただけ」
「俺も知りたいな。羅殿は普段どんなことをしてるんだ?」
「答える必要はないな。今はレースに集中しろ」
 羅英照は手綱を握ったまま、前を向き続ける。
「つまんないなー、せっかくなのに」
「私のプライベートを知ったところで、何の益がある。私としても教える必要があるとは思えん」
「えー」と不満一杯のルカルカや夏侯淵をよそに、羅英照は操作に集中した。
 芦原 郁乃(あはら・いくの)荀 灌(じゅん・かん)を乗せたソリは着実に坂を登っていく。
「誰も攻撃してこないのね」
 超感覚を働かせていた郁乃が荀灌に確認する。
「インタビューで、妨害行為はしないって宣言していた選手もいましたから、そんな人が多いのかもしれません」
 などと荀灌は答えつつも、どこか不安な気持ちになる。トラブルやアクシデントは油断した時にこそ起こりやすい。
「とりあえずお姉ちゃんはレースに集中してください。守ることは私が考えます」
 荀灌のしっかりした返事に、郁乃は気を引き締める。
「そうね。今はレースに集中しましょう」
 賢狼の“はやて”と“いかづち”に合図を送ると、2頭は一段と力強くソリを引き始めた。
 高峰 雫澄(たかみね・なすみ)も賢狼を操って、地道に坂道を登っていく。パートナーの魂魄合成計画被験体 第玖号(きめらどーる・なんばーないん)は重さ対策で魔鎧のままだ。
「ねぇ、あのキノコマンはどうするのー?」
 雫澄は狼達の背中に乗ったキノコマンが気になっていた。大した重さではないだろうが、無い方が良いのではと考える。
「とりあえずは乗せておきましょう。何かの時に楯にでもなるかもしれません。それより雫澄、あまり前に出すぎてはいけませんよ。それに妨害行為にも注意して」
「うん、わかってるよぉ」
 柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)真田 幸村(さなだ・ゆきむら)蒼空学園が中継を見つめる中で、曹丕 子桓(そうひ・しかん)真田 大助(さなだ・たいすけ)は、なんとか登攀を続けていた。
「仕方ないと言えば仕方ないが…………無様だな」
 言い捨てる氷藍に幸村も否定しない。
 ソリの上では曹丕が七殺の獅子を懸命に操っている。かろうじて前身させているものの、統制が取れているとは言いがたい。そして大助はソリにつかまっているのが精一杯だった。
「獅子は我が子を谷底に……と言うが、甘やかしすぎたようだ」

 後方集団も様々だ。
「練習みたいに上手く行かないのね」
「今になって、なに言ってるのよ」
 白波 理沙(しらなみ・りさ)雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)の言い合いが続く。しっかりとソリの練習をしてきたものの、競争相手のいる本番では思うように行かなかった。
「じゃあ、どうすれば良いのよ」
「思うんだけど……ランディが呼びかけたら、セントバーナードも言うことを聞いてくれるんじゃないの? パラミタペンギンにはピノが」
「オレが?」
「ピノが?」
 いきなりの提案だったが、とりあえずやってみようと言うことになる。
 獣人のランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)がパラミタセントバーナードをリードし、ゆる族ペンギンのピノ・クリス(ぴの・くりす)がパラミタペンギンにハッパをかける。
「雪だるまはどうするのよ?」
「それくらい気合いでなんとかしなさいよ!」
「もう」と言いながらも、理沙は「雪だるまくらいなら」とバランスを保つ。担当の割り振りが良かったのか、ようやく走り方が安定しだした。
 ホッとしながら雅羅は歴戦の防御術で、他からの攻撃に備えた。
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)の乗ったソリは、後方から着実に追っかけていく。
「最初から無理する必要はありません」
 他の参加者が固めた後を、楽々と進んでいった。
「シャロン、聞こえる?」
 上空からナビゲートするシャロン・ヘルムズ(しゃろん・へるむず)が「はい」と答える。
「そっちはどうですか?」
 空飛ぶ魔法で上空を旋回するシャロンは、雪山の美しさに見とれながらも、レース行方も楽しんでいた。
「先頭集団が10台くらい。続いて20台くらいがまとまっています。最後にロザリンド達が付いています」
「予定通りってことね。何か危険があったら、知らせてくださいね」
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は先頭争いや中段の混乱を見ながら、後方から追走する。
「予想はしていたが、追っかけるだけなのは、随分と楽だな」
 式神の術を発動させるために集中している島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)は、視線のみクレーメックに向けてうなずいた。
「それでも同じようなことを考えるのはいるんだな。油断できないってことか」
 手綱を振るって、ホッキョクグマと普通のクモワカサギを、わずかにスピードアップさせる。

 コースが狭まるに従って、参加者は細長くなっていく。そんな中で最初に異変に気付いたのは、救護班のエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)だった。
「雪崩? じゃないよね。佳奈子、アレ見える?」
 呼ばれた布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)が視線を移すと、大きな雪玉がコース中央を転がっていた。急ぎ運営本部と連絡を取る。
「コースに雪玉の仕掛けとかは? …………そんなものない? 分かりました。至急選手に伝えてください」
 コース内に設置されたスピーカーからリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の声が流れる。
「選手の皆さんにお知らせします。コース前方から雪玉が転がってきます。レースとは何の関係もありません。注意してください」
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)のカメラが雪玉を捉える。スクリーンに映ると、観客席が騒がしくなった。
「妨害行為……だろ?」
「誰の? やって良いのは体当たりだけだぜ」
「ろくりんピックテロ……とか?」
「自然現象じゃね。石か何かが転がって」
「それであそこまででかくなるのかよ!」
「可能性はゼロじゃないだろ」
「いや、裏の運営委員会が仕掛けたトラップかも」
 勝手なことを言い合っている。
 ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が止めようとしたが、スノーモービル1台では何もできない。参加者達に大声で呼びかけるくらいだ。
「怪我人が出るかもしれないな」
 最悪、レースの中止も覚悟した。
「地球のオリンピックでもテロ行為は起きている」
 解説のイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が、1972年のミュンヘンオリンピック事件を紹介した。
「しかし雪玉はあまりにも稚拙だ。愉快犯的ないたずらか、自然現象の可能性すらあるだろう」
「中止した方がいいのでハ?」
「トラックか戦車でも突っ込んできたのならともかく、雪玉程度なら選手の対応こそ見所になるだろう」
 イーオンの解説に触発されたのか、観客席からも「頑張れー」の声援が上がり始める。
「シャロン、どうしたら良い?」
 ロザリンド・セリナはナビゲータのシャロン・ヘルムズに頼る。
「もう少しまって、先頭集団の対応次第で、雪玉のコースが変わるはず」
 シャロンの言葉通り、雪玉のコースを見極めて、先頭集団は右に左にと避けていく。