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自然公園に行きませんか?

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11


 良い天気だと、外に出たくなる。
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)もその例に漏れず、フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)立木 胡桃(たつき・くるみ)を連れ立って空京にある自然公園まで散歩に来ていた。
 フランカと胡桃は、遊歩道をはしゃぎながら歩いている。二人の少し後ろを、ミーナは見守りながら歩く。
 木の実がなっている木を見つけて手を伸ばしたり、花壇の花を見て喜ぶ姿。
 ――かわいいなぁ♪
「みーな、みーな。このおはなのおなまえなあに?」
「え? どれー?」
「これ、これ」
 フランカが指差したのは、色とりどりの小さな花。見覚えがあった。調べなくてもわかる。
「これはね、パンジーですよー」
「ぱんじー?」
「そう」
「こっちは?」
「えっとねー、ヒヤシンスかなー」
「これはー?」
「う……ちょっとわかんない。調べてみるね」
 携帯から調べようとしたとき、
「あ!」
 フランカが、声を上げて駆け出した。どこに行くのと目で追うと、走っていく先にはクロエの姿。クロエもフランカに気付いたらしく、手を振っている。ミーナも二人の傍に寄ることにした。
「くーちゃん!」
「フランカちゃん、こんにちは!」
「みーなもいるの。みんなできたの。くーちゃんは?」
「わたしもリンスといっしょよ。いまはひとりだけど」
「一人でお散歩?」
「なのよ。ミーナおねぇちゃん」
「えらいのです。なでなでー」
 撫でると、くすぐったそうにクロエが笑った。フランカが、「ふらんかも!」と跳ねているのが微笑ましい。
「今日もクーちゃんかわいいです。ぎゅー♪」
 先に抱きついていたフランカごとぎゅっと抱いて、堪能。
 していたら、頭上できゅーと声がした。
「胡桃」
「きゅ。ん」
 木登りをしていた胡桃が手を振っている。クロエは驚いたように目を開いていた。
「あぶなくない?」
 クロエの発言に気付いた胡桃が、ひょいっと木から降りてくる。地面に立つと、クロエに向けてにぱっと笑いかけ、
「きゅ!」
 採ってきたらしい木の実を差し出した。
「ありがとう!」
 挨拶? を終えたところで、胡桃が思い出したかのように手を打った。ホワイトボードを取り出して、なにやら書き込む。
 それからボードをクロエに見せた。クロエが「えっ」と驚いている。
 何を書いたのだろうと内容を読むと、
『ボクはこう見えて女の子ですよ!』
 とあった。そういえば、前にクロエに会ったとき男の子に間違われていたっけ。
「胡桃は中性的な顔立ちだからね〜。間違えられちゃったね」
「ごめんなさい。くるみおねぇちゃん、ね!」
「きゅ!」
 満足そうに胡桃が頷いた。
「クーちゃんは、このあともお散歩してるですか?」
「どうしようかしら。ちょっとあるいたら、もどるわ」
「じゃあ、そのちょっとを一緒にすごしましょー。フランカや胡桃も喜びますです」
「ほんと? えへへ、うれしい」
「手を繋ぐのです」
 四人で横に広がると、迷惑かなぁと思ったけれど。
 周りにはあまり人が居なかったし、ちょっとの間だけだから、と言い訳して、手を繋いで並んで歩いた。


*...***...*


 この間、病院で会った少女のことが忘れられない。
 長い黒髪。赤い大きなリボン。小さな身体。明るい笑顔。
 彼女の姿も声も知ってる。
 話だってした。
 だけど。
 ――名前……聞けなかったなぁ……。
 思い出しては考え耽る。
 あの子の名前はなんていうのだろう?


 真田 大助(さなだ・たいすけ)がなにやら考え込んでいるのを見て、柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)はピンときた。
「ははーん……」
「どうかなさいましたか」
 大助と氷藍の様子に気付いた真田 幸村(さなだ・ゆきむら)が声をかけてきたので、氷藍は幸村の手を引いた。
「ちょっと屈め、耳貸せ」
「?」
 従う幸村の耳に口を寄せ、
「ありゃ絶対コレだぜコレ」
 囁き、くいっと小指を立てる。
「大助の奴、退院してから妙にぼーっとしてることが多くてな。女にはわかるんだよ、ありゃ絶対に恋してる目だ」
「氷藍殿」
「ん? 何だ、相手の子が気になるか?」
「いえ、そうではなく。小指を立てるサインは『ツレ』を示すものです。片想いの段階では時期尚早なのでは」
「あ。間違えた」
 立てていた小指をぱたんとしまい、間違いを消すようにこほんとひとつ咳払い。
「初恋だよ。は・つ・こ・い!」
 言い直した。幸村が、「楽しそうですね」と冷静な指摘をした。ツッコミと判断し、受け取りは拒否する。
 思い悩む様子の大助に近付き、
「……で、実際のところどうなんだ大助?」
 問うてみた。
「母上……」
「あの子のこと、気になってんじゃねーのか? ん?」
「…………」
 言いづらいのか、それともまだ無自覚なのか。大助は俯いてしまった。
「……大助」
 そこに、幸村が声をかける。俯いていた顔を上げ、大助が幸村を見た。
「見初めた女子が愛らしいと思うのなら、早めに手を打っておかねば先を越されるぞ」
「……っ、……そういうのか、どうかは……わからないんですけど……」
「けど?」
「あの子にはちゃんと会って、ありがとうって言いたいんです」
「よっし。んじゃ捜しに行くか」
 本当は今日、幸村と二人きりでデートをする予定だったけれど。
「可愛い我が子の恋路を応援、ってな」
 そっちの方が、面白そうでもある。


 とりあえず、出会った場所の近くをと。
 空京にある自然公園にやってきた。
「わぁ……」
 芝生を見て、大助は声を上げた。クローバーに囲まれて、白い小さな花が咲いている。
 花の名前に疎いけれど、これくらいなら知っている。シロツメクサだ。
 ――このお花で、花冠作れないかな……?
 ――作って、あの子に……。
 黒髪に映えると思った。
 愛らしい雰囲気に合うと思った。
 渡したときに、喜ぶ顔が見たいと思った。
「へー……」
「!! は、母上!?」
 ふと気がつくと、すぐ背後に氷藍が立っていた。にんまり満足そうに微笑んで、大助を見ている。
「ちっ、違います、違いますよ!」
 ついそう言ってしまったけれど、
「俺まだ何も言ってねーけど」
 ごもっとも。「ぅあ、」と声を呑んだ。
「いいんじゃねーの?」
「ち……違いますってば! こ、言葉だけじゃあやっぱり物足りない気がして……それだけですから!!」
「はいはい」
 さらりといなされてしまった。にまにま笑いは継続中だ。楽しんでいる。絶対、楽しんでいる。幸村まで、大助を見て微笑んでいた。恥ずかしい。
 恥ずかしかったので、花冠作りに集中することにする。
 ――会って、渡せるといいな。
 ――……、会いたいなぁ。
 

「……なんかさ、彼奴見てると微笑ましいんだが……切ない気持ちになるんだよな」
 大助を見守っていた氷藍が、突然そんなことを言い出すものだから。
 幸村は、じっ、と氷藍を見た。何を思って言ったのか。真意を読み取ろうと。
「去年のクリスマスだっけか……俺、お前のこと守りたいって言っただろ?
 あん時は男同士だったはずなんだが、思ってみれば変な話だったよな」
「変、でございますか」
「変だよ。だって、男が男をだぞ? それもお前みたいな……ま、何だかんだで放っとけないところもあるんだけど」
 結論付けると、氷藍は空を見上げた。幸村もそれに倣い空を見る。
 澄んだ空だった。どこまでも青く、広い。
「……いつ、お前に『恋』をしたんだろうな」
 不意に、氷藍が言葉を零す。空を見上げたまま。ぽつり、ぽつりと。
「俺さ、昔のことをはっきりとは覚えていないんだ。
 でも、お前のことは鮮明に覚えてるんだ。ガキの頃からずっと一緒にいてくれて、乱暴だったけど俺のことを守ってくれてて。
 ……案外俺も大助並に惚れっぽい性格だったのかもな」
 滔々と語り終えた氷藍が、ふっと微笑む。
 その微笑みが、少し悲しそうに見えたから。
「……氷藍殿には色々とありましたからな」
 幸村も、少し語ることにした。
「うん? どうした、いきなり」
「詳しくは申し上げられませぬが、過去のことは過去のこと。思い出す必要もありませぬ」
「……そっか」
「不安なお気持ちが僅かばかりにでもあるなら……せめて、今を興じて下さいませ」
「興じさせてくれるのか?」
「俺は無骨者ゆえ、大したことは出来ませぬが。……お傍にいましょう」
「はは。十分だな」
 二度目に見せた微笑みは、いつも見る明るいものだった。
「ああ言ってみたけどさ。俺、今すごい幸せだからさ。本当、十分なんだよ。
 俺とお前と、大助と。皆で一緒にいられるこの時間が、一番大好きだぞ」
「不安などと、深読みしすぎましたか」
「どうかな。……さてと、しみったれた話はこれぐらいにしといてだ!」
 明るい声を張り上げて、氷藍が幸村の袖を引っ張った。大きな木の陰に隠れさせられる。
「草葉の陰から、俺たちの愛の結晶の頑張りを見届けるとしようぜ。な?」
 氷藍が指差した方向。そこには、愛らしい少女と対面する大助の姿。
「あの子ですか」
「おうよ。可愛いよなー。あの子も大助も。ほら真っ赤になっちまってさ。アレの何処が恋してないっていうんだろうな」
 そう、遠目から見てもわかるほど、大助の顔は赤い。シロツメクサの花冠を手に、切り出す言葉も思い浮かばない様子。
「しかしやはり大助に色恋事は早うございませぬか?」
「そうか?」
「彼奴はまだ生まれて一年すらしていないというのに」
「いいじゃねーか。経験しといて悪いことじゃないだろ? ……あ」
 大助が、一歩踏み出した。両手で花冠を差し出している。口が動いた。何と言ったのかまでは聞き取れなかったけれど、彼女は喜んだようだった。太陽みたいな明るい笑顔をいっぱいに浮かべて、花冠をそっと抱きしめる。片手で抱いたまま片手で自身のリボンを外し、もらったばかりの花冠をかぶった。
「これ以上は出刃亀やめとくか」
「もっと見たいと仰るかと」
「そこまで野暮じゃねーよ。それに、せっかくお前と二人きりなんだ。俺は俺で楽しまないとな」
 言って、氷藍がニッと笑う。腕を組まれた。歩き出す。
 少し歩いて戻ってきたとき、あの二人はどうしているだろう?