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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第3回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第3回/全3回)
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リアクション


●遺跡〜『繭』

 こじ開けたドア口から見える室内は、これまでの通路と同じで間接照明でうす暗く、冷えていた。
「こ、これは…!」
 アスカたちに続き、一番最後になかへ入ったコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は、そこに広がった光景に目を奪われて絶句する。
 三方の壁は、天井にいたる高さまで隙間なく機械で埋められていた。
 しかもそのすべてが細部にいたるまで美しい。
 作動音はほとんどしていなかった。ときおりチカチカと部屋のどこかで光の明滅があって、機械が動いているのが分かるだけだ。
 見る者に与える畏怖すら計算されて造られたかのような外観は荘厳で、まるで大聖堂にいるかのような気持ちにさせられた。
 部屋は広いフロアの1階と中2階の高さのスキップフロアがある構造で、1階フロア中央には数十のラインで天井部の機械とつながった美しい女性と、その女性を護るように立つ乳白金の髪の少女がいた。そしてスキップフロアの方には、なだらかな山のように頂点から左右対象に広がる巨大なコンピュータが設置されている。
「ここは一体…?」
 カツン、とヒールが固い床を打つような、冷たい音が響く。
「ハーティオン。よくぞこのダフマの中枢へたどり着けたものね!」
 巨大コンピュータの影から現れたのはコアのパートナー高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)その人だった。
 しかしその声音は彼を褒めているわけではなかった。よくおまえごときがと、嘲りを含んでいる。
「……くっ。やはり覚醒者となっていたのか、鈿女博士…」
 だがその見下した冷たい目を見上げるうち、コアははっと気づいた。
(…!! そうか、博士…! あなたはどこが敵の急所(中枢)かを私たちに伝えるためにあえて…!!)
 きっとそうに違いない!
「鈿――」
「えいっっ!!」
 ぱかーーーーーーん

 希望に満ちた笑顔でコアが見上げた瞬間、鈿女は背後にそーっと忍び足(?)で回り込んだラブ・リトル(らぶ・りとる)によって頭を殴られ、気絶させられていた。
「ふーっ。やったわよ、ハーティオン! みごと悪の女幹部をやっつけてやったわ!」
 ぶいっ!
 腰に手をあて、勝利の笑顔でVサインをかますラブの姿に、あいたたた……とコアはこめかみに指をそえる。
「これでこのラブちゃんが、カナンを救った英雄! 蒼空学園No.1アイドル間違いなし!
 にしてもすごい石頭ねー。あたしのラブ・ミュージックがちょっとへこんじゃっ…? ――って、きゃあああっ!」
 宙でぱっと横に飛び退いて、驚くラブ。
 彼女の視線の先にはサバイバルナイフを手にした女性型ドルグワントがいて、ラブめがけて切っ先を突き込んでいた。
 たしかに先まではいなかったのに。いつの間にか階段の上にはやはり少女型のドルグワントが数人立っていた。
 ほおにはGナンバーロットが刻まれている。
「ラブ!!
 くそっ! ドルグワントどもめ、攻撃するならこの私を狙え!!」
 コアはプロボークを発動させた。
 それに反応して、ドルグワントの目が彼の方を向く。サバイバルナイフを手に階段の上から、一斉に全員がコア目掛けて跳躍した。
 1人でもコントラクターとほぼ同等の力を有する者たち。コアはその数に気圧されそうになったが、瞬時に立て直す。
「蒼空戦士ハーティオン! 参る!」
 それは自らを鼓舞する宣言でもあった。
 勇心剣をかまえ、受けて立とうとする彼の横にすばやく師王 アスカ(しおう・あすか)がつく。
「今度は私の番ね〜。助っ人するわぁ」
「ありがたい」
 コアは素直に彼女の助力に感謝して、2人は剣を手にともにドルグワントへ敢然と立ち向かった。
 2人にとって幸いだったのは、ここが『繭』内であることだった。ルドラやダフマを破壊しないために、ドルグワントはエネルギー弾が使えない。
「やあっ!」
 アスカはゴッドスピードを発動させてドルグワントの高速攻撃に対処していた。そして名も無き画家のパレットナイフと黒曜石の覇剣の二刀を操り、舞うように戦っている。パレットナイフは剣撃には不向きな短剣だが、敵の攻撃の隙をついてゼロ距離から突き込むには最適の武器だ。
 おっとりとした口調にはかなげな外見、そして将来の夢はパラミタ一の画家になることという、いかにも芸術家タイプのアスカだが、このときばかりは自ら積極的に剣をふるって相手を倒しにいっていた。
 それにはもちろん、まとっている魔鎧が多大な影響を及ぼしているのは間違いない。ホープ・アトマイス(ほーぷ・あとまいす)はただの魔鎧にあらず、紫銀の魔鎧。装着した者の野望や願望を増幅し、それを叶えるべく猛進させる力を持つのだから。
「くらいなさい〜!」
 バリアを張らせる隙も与えない猛攻撃を繰り出したアスカは、体勢を崩したところを見計らってファイナルレジェンドを叩き込む。ドルグワントは声もなくその場に崩れ落ちた。
 ふっとひと息ついたとき。
「アスカ!」
 ホープの喚起の声が耳朶を打つ。
 彼女の死角をついてドルグワントが迫っていた。
 はっとなってそちらを振り返ようとするが、わずかに遅い。背中に突き立てられかけたその刃を防いだのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。
「はあっ!!」
 黄金の闘気を発動させた彼女はサバイバルナイフを蹴り砕く。
「ありがとう〜」
「ううん! それよりさっさとこいつら片付けちゃおう!」
 ぐっとこぶしを固めてドルグワントに挑んでいく美羽を、彼女のパートナーベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が後方から魔法を用いて補助する。
 美羽は激怒していた。
 コハクを操って、あんなことをさせたルドラを許すわけにはいかない。
(待っててコハク! きっと元に戻してあげるからね!)
 その気持ちの表れか、彼女を包む黄金色のオーラはさらに激しく勢いを増し、打撃や蹴撃の威力を増す。
「やあっ!」
 一撃必殺の蹴り技が炸裂した。
 怒りのあまり狭さく的視野になりがちな彼女の背後を護るのも、ベアトリーチェの役目だった。
 彼女にも怒りはある。けれど、同じくらい美羽を護りたい気持ちもある。だからいったん自分の怒りは押し殺して、今はただ、神降ろしによる光の魔法で美羽を狙おうとするドルグワントを攻撃することに集中した。
 そして彼女から少し離れた場所では、信仰を捨てた元神父アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)ティグリスの鱗ユーフラテスの鱗をふるって精力的に戦っている。
 敵の武器はサバイバルナイフ。バスタードソードと違って小回りのきく武器は、さらに彼女たちドルグワントの動きを高速化させているように感じられた。
 打ち合わされ、弾かれる刃は、一撃ごとに速さを増し、巧みにアキュートを追い込んでいく。
 鋼の音は言っていた。もっと速く、もっと鋭く。そして最小限の動きで避けろと。
 それが勝利へつながる。
 ピリピリとした痛みが体のあちこちに起きた。針で突かれるような痛み。皮膚1枚が裂ける痛み。
 同じ傷は相手の少女にもついている。
 だが剣げきはさらにアキュートを駆り立てる。まだ遅い、と。
「……うるせェよ」
 突き上げたユーフラテスの鱗が敵の刃を砕く。そしてほぼ同時に、ティグリスの鱗は敵の首を断ち切っていた。
 1体を屠ってもその動きは止まらず、すぐに近くの次の敵へと移る。
 仲間は続々とこの部屋へ集結していた。
「アアアアアアッ!」
 炎のごとき赤い髪をなびかせ、飛び込んできたのはグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)という名の1匹の野獣――。
 己が牙たる刃で標的を捉え、一瞬でずたずたに引き裂く。敵が地に倒れ、動かなくなれば、金の両眼を爛々と琥珀のように燃え立たせ、飢えた獣のごとくさらなる獲物を求める。
「アアアッ…!」
 空間を振動させる咆哮。
 しかし彼は心までも獣となってはいなかった。
 ドルグワントの高速機動力を奪うため、奈落の鉄鎖を足に向けて放つ。突然重くなった足にバランスを崩した一瞬をついて、イコンの装甲をも切り裂くことができる白刃アクティースと刃に妖気の炎が踊る名も無き妖刀の2刀で斬りかかる。サバイバルナイフでうちの1刀を止められようとも、次の瞬間もう片方の手に握った刀が一刀両断に斬り捨てた。
 たとえ手の内を読まれようともかまわない。痛みを知らぬ我が躯で痛覚が鈍っていることもあったが、魔力解放により抑制を解かれた狂った魔力が、彼を駆り立てるからだ。
 倒せ、倒せ、倒せ。
 ここにいる敵はすべて、滅しなくてはならない。
 彼は、事の真相を知ったときからひそかに苦しんできた。
 狂ったものはどうしたって正せない。正せないものはもはや、破壊するしかない。へたに残せばどうなるか……俺は、分かっている。だから、せめてそれを知っている俺の手で、破壊してやるのだと。
 だがそうして壊したいのは本当にルドラか? それとも己自身か?
 今は心の痛みすら、魔力解放で心身が狂った魔力に浸食されゆくせいなのか、それともルドラに自身を重ねたせいなのかも分からない。
 ただ、焼け付くような焦燥感が彼を駆り立て、ひたすら敵へと向かわせる。
「主…」
 幻槍モノケロスを操る手をしばし止めて、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)はつぶやく。
 騎士たる彼の目から見ても、戦うグラキエスは凄まじかった。その勇猛ぶりはかつて彼が目にしただれよりもすばらしく、そして痛々しい。
 彼の主は心に癒せない傷を負っていた。ほんのわずかな平和のひとときが慰め、傷をふさいでも。こうして戦いとなれば、その下の傷はすぐにまた息を吹き返して主を苦しめる。
 もう戦うことをやめてほしい、とは言えなかった。戦うこともまた、グラキエスの宿命だ。
 だからこそああして傷つき、心身から血を流していても、彼は戦うことをやめない。
 気高く、そして孤高の主。
「……うおおおっ!」
 アウレウスは猛然と槍をふるった。グラキエスとの間をふさぐ敵をなぎ払い、なぎ倒して、彼を背後にかばう。
「わが主には何人たりとも近寄らせはせぬぞ!!」
 とめられないならば、パートナーとして。彼の魔鎧として。
 彼を護る壁となり、彼を傷つけようとする敵との間に立ちはだかるのみ。
「さあこい! 心なき人形どもめ!!」
 発動したディフェンスシフトの輝きがアウレウスを包み込む。肌を龍鱗化させ、敵の攻撃を退けるやカウンターのようにランスバレストや龍飛翔突で連続攻撃を仕掛ける。
 勇壮な彼の上げる龍の咆哮が、グラキエスにさらなる力を与えていた。
 そんな光景を前に。
「ふふ…」
 悪魔エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)はふくみ笑いをもらす。
 ともに口に出せない苦しみを抱えて戦う2人。特にグラキエスの苦悩が、彼には甘美だった。
 グラキエスを思いやる気持ちがないわけではない。アウレウスほどではないにせよ、苦しむグラキエスを見ていると心が痛むし、ここ数日続けざまの魔力解放によって、いつも以上に危うくなっている精神を心配する気持ちもある。
 いよいよ屈服してしまうのではないかと。
 だがそれ以上に、思い悩む心の痛みや狂った魔力による肉体の痛みに負けまいとあがくグラキエスの姿が、エルデネストの目をひきつけてやまない。
 闇の海のなかで出口を探し、解放を願い、光を求めるグラキエスの、なんとすばらしいことか。
 それは極上の美酒に酔いしれるような心地よさをエルデネストに与える。
(まだです、グラキエスさま。もっともっと苦しみ、もがく姿を私に見せてください。
 ……あとできちんと、誠心誠意尽くしてお慰めしてさしあげますから…)
 そのためにも、どうぞ御身を大切に。
 エルデネストは手のなか、グラキエスを回復させることができる薬悪魔の妙薬を揺らした。