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屋台

 
 
「なんだか、疲れてお腹空いた……。お腹が空いて死にそう」
 突然カメコにされて疲れた小鳥遊美羽が、キャンパスのメインストリートにならんでいる屋台をながめて軽くお腹を押さえました。
 あっちこっちから美味しそうな匂いが漂ってきて、きゅうっとお腹が鳴りそうになります。健康優良児です。
「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい。番長皿屋敷、出張出店だよー」
 捻り鉢巻きをしたココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)が、威勢よく呼び込みをしています。お寿司屋さんでしょうか?
「リーダー、元気ありすぎ」
 パタパタと小さな翼で飛び回りながら、リン・ダージ(りん・だーじ)が、ストリート沿いのテーブルに料理を運んでいきます。
「はいよー、次、出来たよー」
 お菊さんが、どんとデザートてんこ盛りを屋台の上におきます。
「はーい、リンちゃーん、運んでくださあい」
 おぼんの上にそれを移しますと、チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)がリン・ダージを手招きしました。
「ちょっと待ってー。まったく、人使いが荒いんだから……」
 ゼイゼイと息を切らしながら、リン・ダージが急いでデザートてんこ盛りセットを注文のテーブルへと運んでいきました。
「へーい、おまちー」
 ズドンと、リン・ダージが、テーブルの上にデザートてんこ盛りセットをおきます。
「わーい、やっときたあー♪」
 ばんざーいをして、待ちくたびれていたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が喜びました。即座にデザートにかぶりつきます。
「あっ、あと、お持ち帰りの烏龍茶Lと、ポップコーンキャラメルソースがけもお願いだよ」
「うっ、追加注文承りました」
 底知れぬノーン・クリスタリアの食欲に恐怖しながら、リン・ダージが屋台へと戻っていきました。
「と言うことなんだけど、出来る?」
「何言ってんだい。あたしに出来ない料理なんてものはないんだよ」
 そう言いますと、お菊さんが蓋をしたフライパンでパラミタトウモロコシを炒め始めました。
「美味しそうですわ。でも……」
 でも、原材料がパラミタトウモロコシでいいのでしょうかと、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が屋台の前で悩んでいます。凄く美味しそうなのですが、どう見てもあのパラミタトウモロコシです。うーん、どうしましょう。
「席は一杯だなあ。がーんだなあ、出鼻をくじかれた感じ。仕方ない、私もお持ち帰りにしよう。あのう、たこ焼きください。持ち帰りで」
 あっこっちを覗いていた小鳥遊美羽が、手頃な屋台の前で食べ物を頼みました。
「へい、たこ焼き一皿、お待ち!」
 喪悲漢に乗った食堂番長が、大胆なイコン捌きでパラミタ大ダコの足をイコン用包丁で微塵切りにしていきます。それを、手下のモヒカンたちがたこ焼きに焼いていきました。豪快なイコン料理のわりには、できあがったたこ焼きは普通です。ちょうど女の子の一口大に合わせてコロコロと丸くなり、焦げ目も美しく、見るからに美味しそうです。
「ソース、かけまっすっかぁ?」
「お願いします」
 トッピング担当のモヒカンに聞かれて、小鳥遊美羽が答えました。どろっとしたソースの、ちょっとツンとした匂いが鼻をくすぐります。
「マヨネーズぅ、かけまっすっかぁ?」
「お願いします」
 ぴゅーっと、細く絞り出されたマヨネーズが、たこ焼きの上に縞模様を描きだしました。香りが、ちょっと酸味のある爽やかなものに変わります。
「紅ショウガ、かけまっすっかぁ?」
「お願いします」
 赤です。彩りです。辛そうです。
「青のり、かけまっすっかぁ?」
「お願いします」
 パラパラパラ……。緑の雪です。香ばしいです。
「花鰹……」
「もう、さっさと全部かけてください!!」
 きりがないので、小鳥遊美羽が叫びました。
 竹皮の容器の上のたこ焼きは、いろいろソースがかけられてどろどろですが、湯気の立つ上では花鰹がゆらゆらと怪しい踊りを踊っていて、一応美味しそうです。
「そうそう、これよこれ、こういうのよ。はふはふはふ……。うん、たこ焼きで正解だったわ」
 ソースまみれにならないようにと、上手に爪楊枝でたこ焼きを突き刺しながら、小鳥遊美羽が食べ歩きで移動していきました。
 お菊さんの屋台の前では、まだユーリカ・アスゲージが悩んでいました。
「あら、ユーリカさん、何をしているのでございますか?」
 美術室から出て来たアルティア・シールアムが、頭をかかえて悩んでいるユーリカ・アスゲージを見つけて、声をかけてきました。
「ああ、アルティアちゃん、ちょうどいいところへ。ポップコーンを奢ってあげましょう」
 何かを思いついたらしいユーリカ・アスゲージが、すかさずアルティア・シールアムに言いました。
「ええっ? いいのでございますか?」
「もちろんですわ」
 とりあえずアルティア・シールアムに食べさせて味を確かめる気満々のユーリカ・アスゲージでした。
「わあ、あれ美味しそう。いやいや、こっちの方が……。あーん、どれも美味しそう。唯斗はどれがいい?」
 その様子を横目で見ながら、警備中のはずのリーズ・クオルヴェルが、紫月唯斗の腕を引っぱりながら訊ねます。
「これこれ、俺たちは食べ歩きに来たんじゃないから……。ああいうのに、注意しないと……」
 そう言って、紫月唯斗が、隅っこの席で人間体のジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)に飲み物を注いでもらっているシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)を指さしました。
「ささ、もう一杯。あれっ、もうなくなってしまったな。もう一本飲むか? そうか、そうか。リーダー、高い酒、もう一本追加!」
 持っていた酒瓶を逆さにして中身がなくなったのを確かめますと、ジャワ・ディンブラが大声でココ・カンパーニュにおかわりを頼みました。
「はい、喜んで!」
 本当に嬉々として、ココ・カンパーニュが年代物のタシガンワイン――らしき物を持ってきます。
 すでに、シーニー・ポータートルはできあがっていて、半分夢の中です。
「そこ、ぼったくりバーを開かない!」
 すかさず、紫月唯斗がココ・カンパーニュたちを注意します。
「いやだなあ。うちは良心的なパラ実式食堂ですよお」
 おほほほほっと、ごまかすようにココ・カンパーニュが答えます。パラ実的という段階で、すでにアレな気もしますが……。
「お兄さんも、一杯、どうですかあ?」
 胸の谷間からお猪口を取り出して、ココ・カンパーニュが紫月唯斗に聞きました。
「えっ、それは……」
 紫月唯斗の鼻の下が数ミリのびます。その瞬間、リーズ・クオルヴェルが、掴んでいた紫月唯斗の腕をぐいと引っぱりました。
「さあ、私たちはパトロールよ!」
 紫月唯斗を引きずるようにして、リーズ・クオルヴェルはその場を離れていきました。
「あらあら、逃げられてしまいましたねえ」
「チッ」
 残念と嘆くチャイ・セイロンに、ココ・カンパーニュが軽く舌打ちしました。
「リーダー、こいつ、もうお金持ってないよ」
 リーズ・クオルヴェルの空っぽの財布を見て、リン・ダージが言いました。
「転がしとけ。さあ、次のカモ探すよー」
「おーっ!」
 容赦ないココ・カンパーニュの言葉に、ゴチメイたちが威勢よく声をあげました。