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第2回魔道書読書会

 
 
「それでは、エントリーされた皆さんを読んでいきたいと思います」
 司会を頼まれたアラザルク・ミトゥナが、空京大学の図書室で言いました。
 図書室の一画には、二冊の本と一つの端末がすでにおかれています。アラザルク・ミトゥナ自身も、今はココ・カンパーニュの持つブレスレットに記憶されたものであって、剣の花嫁から魔道書になったと言える存在です。
「あなたは、読んでもらわないんですか?」
 アラザルク・ミトゥナが、禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)に訊ねました。
「ふっ、私を読みたい者がいるのかな。まあ、読めるほどの博識を備えた者であれば、読ませてやらぬこともないが……」
 ちょっと怪しげに、禁書『ダンタリオンの書』が言いました。
「なんだか怖そうな本だよね」
「うん、うん」
 ちょっと禁書『ダンタリオンの書』を遠巻きにしながら言う秋月 葵(あきづき・あおい)の言葉に、成田 樹彦(なりた・たつひこ)の隣にいる仁科 姫月(にしな・ひめき)がうなずきました。
「私は、いろいろと読んでみたいんですが……」
「ほう、殊勝な」
 ただ一人名乗り出た高峰 結和(たかみね・ゆうわ)に、禁書『ダンタリオンの書』が、面白そうに目を輝かせました。
「いいだろう。ならば、特別に読むことを許してやろう」
 そう言うと、黒い本を封印している鎖についた南京錠を、禁書『ダンタリオンの書』が鍵で開けます。じゃらりという音をたてて鎖を外すと、禁書『ダンタリオンの書』が、自分が携えていた本体を高峰結和に差し出しました。
「ええと……」
 ノート大の本を開いてみた高峰結和でしたが、そこには見たことのない文字がびっしりとならんでいます。
「これは、なんと読むのですか?」
「そこか、そこの記述は……」
 高峰結和に聞かれて、禁書『ダンタリオンの書』が少し自慢そうに、解説を始めました。
 
    ★    ★    ★
 
 図書室の一画では、本来飲食が禁止されている図書室にそぐわない香ばしい香りが立ちこめていました。
『コーヒー占い実演中』
 机の上においてある占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)の本体の横には、そんな立て看板がおいてありました。
「そこのお姉さーんコーヒーはいかが? お隣のお兄さんとの相性とかも占っちゃうよー」
 淹れたてのトルココーヒーを手に、占卜大全風水から珈琲占いまでが、集まった人々に声をかけました。
いいですね、ちょっとコーヒーブレイクしたかったんです」
でも、占いまでは必要ありませんわ」
 コーヒーに手を出すティー・ティーの横で、イコナ・ユア・クックブックがつけ加えました。
「すまないね、彼女たちはシャイなもんで」
 一緒にいた、源鉄心が占卜大全風水から珈琲占いまでに謝りました。なんだか、前髪がちょっと焦げているような気もします。
「構わないよ。コーヒーだけでも楽しんでいってくれ。どのみち、占いの結果というのは、自然と出るものだからな」
 占卜大全風水から珈琲占いまでが言いました。
「占いの実演をしていらっしゃるとのことですが、ぜひとも見てもらいたいと思ったのですがよろしいでしょうか?」
 ティー・ティーたちの代わりに、リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)が進み出ました。
「どうぞ、どうぞ。じゃあ、まず、これを飲んで」
 そう言って、占卜大全風水から珈琲占いまでが、リンゼイ・アリスを始めとする集まった者たちのためにトルココーヒーを淹れ始めました。
 持ち手のついた銅製のジェズベを、用意したアルコールランプの上にかざしてコーヒーを煮出していきます。サイコキネシスでジェズベを宙に浮かべると、用意したデミタスカップに注いでいきました。ふわふわと浮かぶジェズベは、中東風の衣装を着た占卜大全風水から珈琲占いまでと相まって、ちょっと神秘的です。
「はい、どうぞ。占ってもらいたい人は、コーヒーを飲み干したら申し出てくれよ」
 占卜大全風水から珈琲占いまでに言われて、各人がデミタスカップに入ったコーヒーを受け取りました。
「そういえば、イルミンスールで行われた読書会のときは、この本は読まなかったなあ」
 占卜大全風水から珈琲占いまでの本体を手にとって、緋桜ケイが言いました。
「なんだ、読まなかったのか。俺様はちゃんと読んだぜ」
 ちょっと自慢げに、雪国ベアが言いました。
本当か?」
 ちょっと疑わしげに、緋桜ケイが雪国ベアを見ました。なにしろ、今手に取っている本はトルコ語で書かれています。はっきり言って、緋桜ケイには読めません。
「占星術なら、なんとかなるんだけどなあ」
「こっちに、対訳がありますよ」
 秋月葵が、そばにおいてあった小冊子を手に取って緋桜ケイに言いました。誰も読めないことを心配して、高峰結和が用意しておいた物でした。
「うーん、訳を見ても、今ひとつよく分からないよねえ」
 小冊子の方を読み始めた緋桜ケイから本体を受け取って読み始めた仁科姫月が、対訳と見比べつつ言いました。
「まあ、姫月なら、そんなところかな」
「ちゃんと読んでるよ。意訳の部分が、どっちなのかなって……」
 成田樹彦に突っ込まれて、仁科姫月が言い返しました。
むにゃむにゃ……。はっ、いけないいけない。そこはですねえ……。す、す、すみません、アリルディスさん、ここってどういうことでしたっけ?」
 禁書『ダンタリオンの書』の難しさにうとうととし始めていた高峰結和が、仁科姫月の言葉を耳にして、眠りを振り払って駆けつけてきました。さっそく、説明を始めます。けれども、早晩つまづいて、キタプルー・アリルディス・エフェンディと呼んでいる占卜大全風水から珈琲占いまでに助けを求めました。
「むっ、こちらの解説の途中だというのに。仕方ない、今度は私の方の知識欲を満たしてもらうとするか」
 いきなり読者に逃げられてしまった禁書『ダンタリオンの書』が、逆に占卜大全風水から珈琲占いまでの解説を聞き始めました。
「じゃあ、飲み終わったら、カップを逆さにしてしばらく待ってよ」
 コーヒーを飲み終わった者たちに、占卜大全風水から珈琲占いまでが言いました。少し待ってから、順に占いを始めます。
「葦原島の今後を、簡単でいいから占ってもらいたいのですが」
 リンゼイ・アリスが、コーヒーカップを差し出して、言いました。カップの底には、何やら奇妙な模様が残っています。まるで、翼を広げる鳥のようです。
「まだ混乱は続くな。何かの気分転換が必要だろう」
 占卜大全風水から珈琲占いまでが、リンゼイ・アリスに答えました。
「何か、悪いことが起きると言うことでしょうか……」
 ちょっと不安そうに、リンゼイ・アリスが聞き返しました。
「葦原島の今後と言っても、占いの中心はおまえだからなあ。葦原島がというわけではなく、おまえが混乱しないことが大切だろうぜ」
「やはり、気を引き締めていかないといけないようですね」
 占いの結果に、リンゼイ・アリスは何か思うようでした。
「次は、俺だな。俺は、総合運かなあ」
 飲み終わったコーヒーカップを差し出して、緋桜ケイが言いました。
「遠くない未来に、人探しに島を巡りますね」
 カップの底に点々と散らばったコーヒーの粉を見て、占卜大全風水から珈琲占いまでが言いました。
「誰を探すんだ?」
「さあ、そこまで明確なことは分からないね。占いの対象を絞り込んでいないから」
「じゃあ、もう一回……」
「残念。コーヒー占いは、一人一日一回までなんだ」
 やりなおしを要求する緋桜ケイに、占卜大全風水から珈琲占いまでが言いました。
「そうだなあ……。俺様は、この毛並みのもふもふ具合を占ってもらおうか」
 続いて、雪国ベアが、伏せていたコーヒーカップをひっくり返して差し出しました。
 カップの底には、鮭のような模様が踊っていました。
「今日は、超もふもふだろう」
「だよな」
 占卜大全風水から珈琲占いまでの言葉に、雪国ベアは満足気です。
「占いというのは、面白い物なんですね」
「確かに。だが、どこまでが話術で、どこまでが予言なのであろうな……」
 感心するティー・ティーに、禁書『ダンタリオンの書』がつぶやきました。
「結和ちゃんもどう? 久しぶりに占ったげよっか」
 一段落つくと、占卜大全風水から珈琲占いまでが高峰結和に言いました。
「ふふ、そうですね。お願いします」
 高峰結和にコーヒーを入れると、占卜大全風水から珈琲占いまでが占いを始めました。カップの底には、なんとも複雑な模様が浮かびあがっています。
「勉強運はそこそこかな。あまり、物事を甘く見たりしないように。恋愛運は……」
 言いかけてから、占卜大全風水から珈琲占いまでが高峰結和をジーッと見つめます。
「……告白しちゃえばいいのに」
「だっ、だっ、でも、もうずいぶんお会いしてないですし。わ、わ、私のことなんて、忘れてる……かも……」
 しどろもどろになりながら、高峰結和が答えます。いったい、相手は誰なのでしょうか……。