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リアクション
「ん? 席決まってるの?」
「こちらでございます」
ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)の席は、ルリマーレン家の手配により、決まっていた。
パートナーの桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)達と離れて座ることに抵抗を覚えながらも、ミルミは案内係に従い、前の方の席に向かった。
その時。
「……!! ……!!!」
ミルミはとある人物を見つけてしまい、思い切り目を逸らす。
「私のことを、知らないわけではないだろう?」
その人物――ジュリオ・ルリマーレン(じゅりお・るりまーれん)はゆっくりとミルミの前に回り込んできた。
(き、き、聞いてないよ。ご先祖様がいるなんてーっ)
ミルミは青くなりながら、そろーりと顔を上げて。
厳めしい顔つきのジュリオを見るとカチコチに固まった。
(やっぱり、お見合いなんだ。血を濃くするため、ミルミこの人と結婚させられるんだ……)
ミルミは泣き出しそうになる。
「どうした。コンサート、始まるぞ」
言って、ジュリオはミルミの腕を引いて座らせて、隣に自分も座った。
「そういえば、見合いの話がきていたが」
ジュリオの言葉にミルミがびくっと震える。
そんなミルミを見て、ジュリオは心の中で苦笑する。
自分の子孫である、ルリマーレン家の現当主は、夫婦でジュリオの元に挨拶に訪れたことがある。
その際に『有能で不出来な娘』の話も聞いていた。
ミルミ・ルリマーレンは、ルリマーレン家に伝わる光の力を強く受け継いでおり、潜在能力的には、次期当主に相応しい娘なのだという。
だが、その能力を未だに開花できずにいるそうだ。
「私は後添えをもらう気はない」
そうジュリオが言うと、ミルミは緊張で固まった顔を彼に向けてきた。
「今のお前の家に口を出すつもりもない」
「……」
「お前の両親も、私の元に娘を嫁がせたいと本気で考えてはいないだろう」
努めて、柔らかな口調でジュリオがミルミに言うと、ミルミの顔に表情が戻ってくる。
「そ、そう、ですよね。ミ……私、ジュリオ様に、に、似合いませんし」
強張った顔で、ミルミはうふふふふと笑う。
そんな彼女を笑いもせずに見つめて。
「だが、おまえがあまりに不甲斐ないようなら私にも考えがある」
ジュリオがそう言うと、ミルミはまたびくっと震えた。
「心しておくように、婚約者殿」
「……は、はい……」
冷や汗を流しながら、目にも涙を為ながらミルミは返事をした。
そんな彼女の様子に、ジュリオは軽くため息をついた。
ルリマーレン家の将来が少し心配である。
軽く目を閉じると――妻と、幼い娘の姿が思い浮かぶ。
5000年以上前に生きていた自分の家族が、自分がいなくなってから、どんな人生を送ったのかジュリオは知らない。
5000年経った今も、こうして家名が残っていることからも、立派に家を守り、子孫を育てたのだということはわかる。
そういえば、娘に説教をした時。
彼女も、こんな顔をしていたなと、ミルミを見ながら思う。
自分は、厳しく怖い父親だったのだろう、と。
「しかしおまえも、私に説教されるために来たわけではあるまい。折角来たのだ、コンサートを楽しもう」
「は、はい」
微笑みかけてみたが、ミルミはやはり緊張した顔で、ぎぎぎとロボットのように首を動かして、演奏家達の方に顔を向けたのだった。
――演奏家たちが奏でる素晴らしい数々の曲に、少しずつミルミの表情が穏やかに変わっていき。
ダンスパーティが始まる頃には、すっかり普通の彼女に戻っていた。
彼女はルリマーレン家的に、問題児のようだが、良家の娘としての最低限のマナーは出来ているように思えた。
「素敵な音楽だった……あっ、す、素敵な音楽でしたね」
が、隣にジュリオがいることを思い出した途端。彼女はまたカチコチに固まってしまう。
「ダンスパーティが始まるようだが、私でよければ、一曲お相手願えまいか」
ジュリオがそうミルミを誘うと。
「は、はいぃ」
ミルミは、強張った顔で微笑みながら返事をした。
彼女とのダンスは、成長した娘と踊っているような感覚を覚えた。
そしてそのダンスが終わった直後、ミルミはアルコリアに攫われたのだった。
アルコリアが友人であることを、ジュリオは知っていたので、追いはしなかったが。
娘を奪われた父親のような、複雑な感情が押し寄せてきた。
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