校長室
【2022クリスマス】聖なる時に
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「優子さん。そろそろ私は失礼するわ」 神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)を手伝っていた、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、パーティ終了間際に、優子にそう言うと身支度を始めた。 「お疲れ様。……もかして、亜璃珠。今夜、予定あるのか?」 「ええ、刀真やロザリンド達と打ち上げするの。他にも警備を終えた後、何人か一緒に来る人がいるわ」 「そっか……。亜璃珠は幹事をやるんだな。それは大変だ。こっちの仕事、手伝わせて悪かったな」 「別にそれはいいのよ。人脈を作る機会にもなるしね」 実際の主目的は、今日、優子に会う為、でもあったのだけれど。 クリスマスっぽい会話も、何もなく。仕事をする彼女の姿を見ながら、体調や様子を触れて確認する程度だった。それでも、来てよかったとは思う。 コートを羽織って、バッグを手に。 亜璃珠は自分を見送る優子をちらりと見て。 「折角の日に仕事を入れる不心得者はほっといて浮気してきます」 そう言い残すと、宮殿を後にした。 数時間後。 「遅れましたー。皆さん今日もお疲れ様でした」 ロイヤルガードのロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が、スタッフ数人と共に、打ち上げ会場の居酒屋に現れた。 「それじゃ、もう一度乾杯しましょう。ロザリンド・セリナさん、一言お願いしますわ」 亜璃珠はビールをロザリンドに渡して、そう微笑んだ。 「うっ……」 突然のことに言葉を詰まらせながらも。 「お陰さまでコンサートは何事も起きず、無事終了いたしました。楽しい一時を、訪れた方々に過ごして頂けたと思います。皆さん、今日はお疲れ様でした。乾杯!」 そう言って、ロザリンドは皆に微笑みかけ、乾杯をする。 「乾杯」 カツンとグラスを重ねて、亜璃珠はロザリンドの隣に座った。 「静香さんは一緒じゃないの?」 「校長は、他校の方と高級レストランに行きました」 そう答えると、ロザリンドはビールをグイッと飲んだ。 その後は、カクテルを中心に頼み、ごくごく飲みながら料理をちまちま摘まむ。 「そういえば、優子さんはどこですかー?」 「来てないわよ。今頃、その高級レストランで要人護衛コースでも戴いてるんじゃないかしら」 「ホントですか? テーブルの下に隠したりしてませんかー?」 突然、ロザリンドはテーブルの下に入り込んで、がさごそ探し出す。 「ロザリンド……もしかして、もう酔ったの?」 「酔っていませんよー。亜璃珠さん、いいですか。優子さんは放っておくとあれこれ見つけて自分縛っていきかねませんから、亜璃珠さんがばっさり切り落とさないといけませんよー」 言いながら、ロザリンドは這いあがって椅子に座りなおす。 「ばっさり切り落とすって……。それより、ロザリンドこそ静香さんの側にいかなくていいの? あなたも要人護衛コース、いただけたでしょ。その後、ゆっくりイブを過ごしたいんじゃなくて?」 「静香さんのそばでゆっくりしたいと思いますよー、ですけどね、あんまり公私混同とか言われる隙を作らないためには、あまりそばにいすぎてもいけないですし」 カクテルをごくごく飲んで、空いたグラスをテーブルにカツンと置いて。 赤く染まった顔をロザリンドは亜璃珠に向ける。 「それに、あまりお仕事きちんとできているという手応えが薄く感じられて。 もっとキチンとできるようならないと、そばに立つのも難しいとか。 色々が色々でウワーですよー」 「ふむ」 亜璃珠はゆっくりお酒を楽しみながら、ロザリンドの言葉を聞いていく。 「セーター作ってみましたけど、渡していいのかどうかとか。もう、スパッとできる女になりたいです。なりたいですよ、亜璃珠さーん」 突然、ロザリンドは両手で亜璃珠の両肩を掴んで、揺すりだす。 「わかったわかった。セーターはとりあえず、渡しなさい。明日にでも。そして、自分をもっと認めてあげなさい」 亜璃珠はそう言うと、アイスクリームをロザリンドに渡した。 「お酒はもうやめて、デザートを楽しむといいわ」 「はい、このデザート美味しいです」 と、言いながらロザリンドはマティーニをオリーブごとごくんと飲んだ。 ふうと、ため息をついた後。 亜璃珠は携帯電話見る。 「……ぶた」 「! 豚とはなんですか、乙女に向かって」 「いや、あなたのことじゃなくてね」 言って、亜璃珠は携帯電話に届いていたメールを、ロザリンドに見せる。 『イブとクリスマスを空けるために、夜までの仕事を入れたんだけどな(豚絵文字)』 「あ、豚の絵文字ですね。誰からですか?」 「優子さん」 亜璃珠は『可愛いパートナーを待たせてあるんでしょう? 私が気を遣ってやった分くらいは察してね』というメッセージと共に、店のHPのURLを付けて、返信した。 「優子さんが絵文字なんて……ああ、わかりました。ゆーこーさん、雄幸さんですね。亜璃珠さんまたナンパされたんですねー。断らないとめった切りになってしまいますねー。そういえば、ナンパといえば、樹月刀真さんはどこですかー。ここですかー」 再び、ロザリンドは机の下にもぐった。 「彼は、来るとしたら3次会くらいから参加予定。瑠奈を百合園の寮に送っていったから」 「風見団長もお誘いしたんですよね?」 「仕事があるから帰るって」 「ま、まさか刀真さん、送り狼する気ではー。戻ってきたら尋問ですよー! 白百合団式尋問術で行きますよー!」 「白百合団式拷も…いや、尋問術? 刀真……可愛そうに。五体満足で正月を迎えることは出来なそうね」 そんな尋問術なんてないが。わざとらしく亜璃珠がそう言うと、他のメンバーがビクッと震えた。 「あ……」 再び、亜璃珠の携帯電話に優子からのメールが届いた。 『うん、アレナが部屋で待ってるんだ。皆一緒だと喜ぶと思うから、早めに切り上げて来てくれると嬉しいんだけど。泥酔状態じゃ入れられないから、酒はほどほどにな』 そんな優子からのメールに、亜璃珠はどう答えるか迷う。 「皆さんどうしたのですか。さあ、どんどんほどほどに飲んでください。あ、このカクテルもう1杯お願いしますー」 ロザリンドは店員に手をひらひら振りながら注文をする。 「水でいいです水で」 亜璃珠は店員にそう言い、ロザリンドの世話をしながら返信文を考えていると。 亜璃珠がメールを送るより先に優子からもう一度メールが届いた。 『ゼスタが大事な話があるから付き合えって言うんだけど』 亜璃珠はすぐに『行けば?』とメールを返して、優子と数回やり取りをする――。 『やけに真面目な顔なんだ。なんだか嫌な予感がする』 『微妙なプレゼントはいらん! って断るのよ』 『ああ、うん……。ごめん、帰り遅くなるかも』 『可愛い方のパートナーの面倒みておいてくれってこと?』 『多分仕事の話だ。奴とは意見が合わない事が多いからな。夜遅くまでかかる可能性がある。アレナにもメール入れておくよ』 亜璃珠は温泉旅館で盗み聞きした、ゼスタの言葉を思い出す。 『わかったわ。気を付けて』 亜璃珠は複雑な気持ちで、そうメールをした。 打上げはそう遅くない時間に終了して。 それぞれがそれぞれのイブを迎える……。