校長室
【2022クリスマス】聖なる時に
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「緊張した……」 テーブル席で、風見 瑠奈(かざみ るな)は大きく息をついた。 「お疲れ様」 彼女に、樹月 刀真(きづき・とうま)がアイスティーを差し出した。 「ありがとうございます」 瑠奈はアイスティーを1口飲むと、再び大きく息をついた。 「そんなに緊張した?」 「うん、でも来てよかった」 瑠奈は微笑みを見せた。 彼女は刀真に誘われて、コンサートに訪れていた。 ただコンサートとダンスパーティを楽しむためではなくて、ラズィーヤや政府関係者に、百合園女学院の実習についての提案をするためだった。 瑠奈は百合園女学院で行われた合同学園祭の時に、百合園での男性の受け入れを願っていた。 それは女性しかいない、百合園女学院という閉鎖された空間から、出ない学生のために……と思える願いだった。 刀真は、そんな彼女の願い――目標の達成を手伝いたいと思い、今回の提案をした。 このコンサートで、人脈を作ること。 そして、実習として宮殿の行事の手伝いに参加させてもらい、男性とも一緒に働く機会を設けていくことを。 『私自身も、百合園に閉じこもってたら、駄目ってことよね』 瑠奈はそう言って、刀真の提案通り一緒に訪れて、挨拶回りを頑張っていた。 「残りの時間は、俺達も楽しもうか」 瑠奈がアイスティーを飲み終えた頃。 刀真は手を差し出して、瑠奈をダンスに誘う。 「うん」 刀真の手をとって、瑠奈は立ち上がった。 数曲、ダンスを楽しんだ後。 刀真は瑠奈をテラスへと誘った。 既に日は落ちており、暗くなっていたけれど。 庭園には明かりが灯されており、幻想的な夜景を見ることが出来た。 瑠奈は今日、肩の開いた赤色のロングドレスを纏っていた。 ダンスの邪魔になるからと、羽織っていたショールも、コンサート後にクロークに預けてしまっている。 刀真はロイヤルガードの制服を脱ぐと、彼女にそっとかけてあげた。 「だめっ、これは大きくて、重すぎて私は着れない……」 だけれど瑠奈は直ぐに脱いで、刀真に返してきた。 「ぶかぶかだし、私には似合わないから……」 口ではそう言っているが、サイズが大きいからではない。 自分は、ロイヤルガードの制服を着れる人物ではないから。ロイヤルガードの皆のような、立派な意志も覚悟もないから。この制服は、大きすぎて重いのだ。 そんな彼女の気持ちを察して、刀真は制服を受け取った。 「でも、そのままじゃ風邪をひいてしまうよ。コート取りに行ってくる」 そう言うと、瑠奈は首を左右に振った。 「貸してくれるのなら、そのベスト貸して」 「……これ?」 刀真は白いワイシャツに赤いネクタイ、黒いベストにズボンを穿いてる。 ベストは厚手ではないのだが……。 「うん。それで十分。クロークに置いてある冷えたコートより、温かいでしょ?」 そう少し恥ずかしそうに言う瑠奈に、刀真も軽く照れながら。 ベストを脱いで、彼女の肩にかけてあげた。 「ふふ、あったかい」 瑠奈は幸せそうな、微笑を浮かべる。 微笑み返した後。 刀真はロイヤルガードの制服を纏い直して、瑠奈の隣に立ち。 一緒に庭園を眺める。 「今日はありがとうございました」 瑠奈が誘ってくれた刀真に礼を言った。 「君に白百合団の団長として立つべきだ、と背中を押したのは俺で、君の事が好きだから手伝うとも言った。だから君はいつでも俺を頼ってくれていいんだよ」 「うん。嬉しいけれど……」 「俺にも下心があるしね」 遠慮をしているように見える彼女に、刀真はこう言う。 「この話が実現して瑠奈が宮殿に来てくれたら俺は君の傍で手伝えるし、君に俺の傍で手伝いをしてもらえるかもしれない」 「そっか。そうなったら、私もお返しができるのね」 軽く微笑み、刀真は瑠奈を見つめながら言葉を続ける。 「そして、今日君を誘えれば俺が君を独り占めにできる」 「…………」 瑠奈の眉がぴくっと揺れた。 けれど、彼女は何も言わなかった。 「いつも頑張ってる瑠奈にクリスマスプレゼント」 刀真はポケットの中から、包みを取り出して瑠奈に渡した。 「ありが、とう」 包みの中には、レプリカの兎の足の飾りを付けた『虹のアミュレット』が入っている。 刀真は手を伸ばして、瑠奈の頭を優しく撫でた。