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リアクション
第6章
「サルカモさ〜ん、どこですか〜?」
その頃、ルイ・フリード(るい・ふりーど)はきっちりとした正装に身を包み、地下の駐車場で声を上げていた。
「どこであるか〜?」
パートナーのノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)もまた、ルイ同様に駐車場にいる。
ルイとノールは、うっかり目を離したスキに逃げ出してしまったペット、『サルカモ』のうちの一匹を探しているうちに、地下駐車場に迷いこんでしまったのだ。
もちろん、嘘である。
「サルカモさ〜ん!!」
ますます声を張り上げるルイ。
その声は、監視カメラを見ていたハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)の耳にも届いた。
ハイコドは、四葉 幸輝の裏の仕事を引き受けて、駐車場から研究施設へと続く秘密の通路の警護をしていたのだ。
「なんだい、ありゃ」
2mを越す巨漢であるルイがスーツ姿でうろうろしていれば嫌でも目立つ。
ノールはルイと共にペットを探すフリをして、駐車場から研究施設へと通じる入口を探そうとしているのだ。
「……おい、そこで何してる」
ルイに声を掛けるハイコド。
そのハイコドはと言えば、流れてきた『割りのいい仕事』を引き受けてみたのはいいものの、どうも裏世界の匂いのするこの仕事に胡散臭さを感じていたところだった。
しかしながら根が真面目なハイコドも、引き受けた以上仕事はこなさなければならないので、一応の警戒をしていたところだ。
「あ、警備員さん!! 私のペットを見ませんでしたか!?」
「おわっ、近い近い!!」
駐車場にやって来たハイコドに、ルイは勢いよく詰め寄る。
ルイのあまりの接近具合に、ハイコドの視界はルイの分厚い胸板でいっぱいになってしまった。
「……」
その瞬間に、ノールがハイコドのやってきた方向を推測し、駐車場の構造から入口と思しき付近をディメンションサイトで探ろうとする。
ノールは、あたりをつけたその位置を、テレパシーで仲間へと伝えた。
その仲間とは、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)とレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)。そしてそのパートナー、ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)である。
「……ノールさんの見立てだと、あの辺りが怪しいようですね」
物陰から、ルイとハイコドの様子を見守るレイナ。
ルイはもとよりペットを探して騒ぎ立てる迷惑な客を演じ、警備を担当している相手を誘い出すことが目的だったのだ。
ノールが分析した怪しい箇所の方へと、こっそりと移動する一行。
「でも、すみませんお二人とも。僕が恋歌さんの依頼をどうしても受けたいと、危険なことに巻き込んでしまって」
博季は恋歌のメールを受けてすぐ、ルイやレイナたち『雪だるま王国』のメンバーに相談をした。その結果として、どうしても目立つルイが陽動役、博季とレイナとウルフィオナが潜入役に決まったのである。
「いいえ、私も恋歌さんからのメールを見ました。そのうえで王国の仲間である博季さんからも頼まれてしまっては、断るわけにはいきません」
ウルフィオナもまた、レイナに賛同した。
「そうとも、あたしだってあの娘……恋歌とは一応顔見知りだし……ま、あんたとも旧知の仲だし、な」
苦笑いひとつで、博季の言葉を押さえ込むウルフィオナ。
「それより、今は潜入に集中するこった」
「いや知らないから!! そんなペットこの駐車場では見てないし!! はっきり言って仕事の邪魔だから早く出てってくれないかな!!」
と、裏でそのような状態になっていることも知らないハイコドはルイに向かって叫んだ。
「そんなハズはありません!! ついさっきまで一緒にいたんですから!!
ホラ見てください!! こんなに可愛いんですよ、サルカモさんは!! 誰かに誘拐されたらどうするんですか!!」
と、ペットのサルカモを2匹、出してみせるルイ。
「いるじゃないか、2匹も!!」
「3匹いたんです!!」
「そもそもどうしてパーティにペットを連れて来るんだよ、意味がわからないよ!!」
冴え渡るルイ・フリードの迫真の演技『迷惑な客』の迷惑っぷりにハイコドはすっかり混乱してしまった。
だが、そのハイコドの視界の端に、ちらりと映るものがあった。
「あ、おい。そこで何をしてる!!」
メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)である。
「――何って、見てのとおりですが」
パーティの警備としてビルに入り込んだメティスは、地下の研究施設に侵入すべく、警備カメラの角度や死角を考慮して秘密の入口の場所を探していた。
そして、その入口と思しき箇所を発見したメティスが壁に設置しているものは――。
「機晶爆弾を、仕掛けているのです」
「おい、何を!!」
言うが早いか、メティスは背負った荒野の棺桶に内臓された機関銃を壁の機晶爆弾へと発射した。
瞬間、ルイは目の前のハイコドを押さえつけ、博季とレイナ、ウルフィオナはメティスの方へと走り出す。
「どうなってんだよ、秘密裏に潜入するんじゃなかったのか!!」
「――動いているのは私達だけではないのは予想済みでしたが、まさかこうまで派手な手段に出る人がいるとは思いませんでしたね」
突然の出来事に戸惑いながらも、ウルフィオナとレイナはメティスが引き起こした爆煙の中に身を投じた。
「それに……彼女がいるということは……」
同じく壁に空いた大穴に飛び込みつつも、博季は振り返る。
その横をすり抜けるように、ひとつの影が飛び込んできた。
そこにいたのは、ガウル・シアード(がうる・しあーど)の背に乗った、レン・オズワルド(れん・おずわるど)であった。
「レンさん!」
博季やルイが所属する『冒険屋ギルド』、レンはその創設者だ。
また、そこにノールやメティス同様、駐車場をくまなく探していた榊 朝斗が突入を開始した。
もちろん、パートナーのルシェン・グライシスやアイビス・エメラルドも同行している。
朝斗もまた、冒険屋ギルドのメンバーである。走りながら、ルシェンは呟いた。
「ずいぶん強硬な手段に出たものね、朝斗のとこのリーダーさんは」
アイビスも走りながら、しかし周囲への警戒を怠らない。
「らしくない……と言うべきかしら? 珍しく熱くなってるわよね」
併走しながら、ガウルの背に乗るレンを眺めて、朝斗は呟いた。
「いや……確かに熱くなってるのは珍しいけど……らしくない、というワケじゃないと思うよ」
普段はギルドメンバーの面倒を見たり、リーダーとしての立ち位置を重視するレンだが、今回は自ら先陣を切って敵地に乗り込んだのだ。
確かに、日頃は冷静さを旨とするレンらしからぬ行動であった。
「依頼の内容は『恋歌のパートナー、アニーを救い出す』ことだが……。
本来はクライアントとしっかり報酬について決めなければならないんだがな、今回はイレギュラーだ」
レンは、ガウルの背に乗って呟く。
「ふむ、心にもないことを言う。私もここに所属して日は浅いが、今回の件については報酬がどうとか言うような内容ではなかろう」
ガウルの言葉に、レンは頷いた。
「――ああ、そうだな。
彼女のメールには、彼女自身の幸せに対する希望が感じられなかった。彼女の望む未来を、そのまま叶えてしまうわけにはいかない。
俺達が動き、戦う理由としては充分だろう」
ガウルもまた、レンの意志に大きく頷いた。
「少女の涙を止め、その笑顔を取り戻す――良かろう。
私もできる限りのサポートをしよう、目指すゴールは、恋歌が望むシナリオその先だ!!!」
さすがに獣人であるガウルのスピードは速い。
あっと言う間に、レイナや博季たちを置いて走り去って行ってしまった。
「僕達も行きましょう!! こうなった以上、時間がかかれば不利になるだけです!!」
博季の言葉に、レイナとウルフィオナも賛成だ。
「そうですね。いかに彼らが速くとも、この研究施設の構造はまだ分かりません。こちらも彼らとは別のルートで行きましょう」
「おうよ、こっちだってスピードじゃ負けてねぇぜ!!」
その後に朝斗達が続く。
「よし、僕達も行こう。先発のレンさんが目立って動くなら、アニーさんの居場所や重要な情報を押さえられれば、後々有利にできるだろうし」
「そうね、事件の背景が分からなければ動きようがないものね」
「それぞれのグループで探せば、きっとすぐに見つかるわね」
それぞれのグループがそれぞれの思惑で動き出した。
そして、行動を開始していたのは彼らだけではなかった。
☆
「……今の音って、爆発音だよね……」
暗がりの中、秋月 葵(あきづき・あおい)は呟く。
ここはエレベーターの中だ。
正確に言えば、地下駐車場へと繋がるエレベーターが通るシャフトの中、である。
「ずいぶん派手にやってるなぁ……大丈夫なのかな」
恋歌の友達である葵は、メールを受け取った後どのようにして地下施設に潜入すべきかを考えていた。
その結果として、恐らくエレベーター等から地下施設に潜入できるのではないかと思いついたのである。
だが、一般客が迷い込めるような場所に研究施設がある筈もない。
そもそも、仮にエレベーターが通常は行かないような地下に通じていたとしても、それを発動させる仕掛けを葵は知らない。
更に見つけることができたとしても、暗号などでロックされていると考えるのが妥当であろう。
「それならいっその事、エレベーターのシャフトから降りられないかとおもったんだけど……ビンゴだったみたいね♪」
エレベーターの天井の救出口から外に出た葵は、空飛ぶ魔法でシャフトの中を降下して行く。
どうやら、思惑通り地下駐車場から更に地下へと繋がっているようだ。
「まぁいいわ。誰かが注目を集めてくれるなら、あたしは目立たずに潜入できるしね。
待っててね、恋歌ちゃん……愛と正義の魔法少女として、必ずパートナーのアニーさんを助けてみせるから……」
魔法少女は降りていく。
深い、深い、闇の中へ。
☆
「おおっと、あまり大事の原因にならぬようにしておったものを!!」
地下駐車場で起こった爆発音に、シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)は反応した。
パートナーであるラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)を促し、施設へと突入する。
「事が起こってしまったのでしたら仕方ありませんね」
先達の侵入者とは別のルートへと入り込んでいく二人。研究施設の中は複雑で、様々な資料や実験室があるようだ。
「しかしまた……大層な施設ですね。恋歌さんやパートナーには、どのような秘密があるというのでしょうか?」
走りながら、ラムズは疑問を口にした。
だが、『手記』の目的はあくまで恋歌のパートナーであるアニーを助けること。
「ふむ。確かに疑問は尽きぬが、今はまず目的を最優先としようではないか。
恋歌からのメールを見たじゃろう。パートナーを助けるために、あそこまで必死になれるというのは素晴らしいことじゃ。
彼女らには、あのまま擦れずに生きて欲しいものじゃよ」
『手記』にとって、恋歌がアニーを助けようとする態度は、快いものであったらしい。
「……確かに、彼女の精神は素晴らしいものでしょうが……未だに不明な点が多すぎます。
恋歌さんがパートナーを助けようとする理由は……本当にそれだけでしょうか……?」
特に疑うわけではないが、恋歌の言動が常軌を逸しているのも確かだ。ラムズの疑問もあながち間違いではあるまい。
だが、『手記』の出した結論は違った。
「何を言うか。『パートナーだから』で充分じゃろう。
理由なんて、そんなもんじゃ」
やや鼻白んだように、ラムズは切り返す。
「はぁ、そういうものなんですか」
施設内を走りながら、しかしラムズの脳内にはある雑念が湧き上がるのだった。
では果たして、自分と『手記』、その関係はいかなるものであるかと。
「……はは、化け物とパートナーとは、ぞっとしませんね」
「何か言うたか」
「いえ、何も」
ともあれ、こうして事件は起こったのである。
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