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第1章 種もみバレンタインへの誘い


 種もみの塔とは、大荒野にある高さ300メートル60階建の塔である。
「百合園女学院の生徒達は、上階にいますわ。ピザ屋を貸して頂いて、料理を提供しています。是非、屋上でお召し上がりくださいね」
 バレンタイン当日。
 桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)はパートナーのミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)ライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)と共に、主にモヒカンに声をかけて、塔の上層階に誘っていた。
「鈴子さんごきげんよー」
 そこに現れたのは、パラ実生でもモヒカンでもないが。
 ある意味パラ実生よりパラ実生な牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)だった。
「ごきげんよう、アルコリアさん」
「ライナちゃんも相変わらずかわいいねー」
「ありがとぉ。アルコリアおねぇちゃんっ」
 鈴子と挨拶を交わして、ライナと微笑み合った後。
「ということでミルミちゃん、手伝いに来たよー」
 友人のミルミの側に駆け寄って。
「あ、チョコスライム食べる? 新しいものに弱くて買って来っちゃた」
 早速、おやつを広げてミルミに見せた。
「チョコスライム? なにそれ……ん? 動いてるよ、アルちゃーん」
 袋の中のチョコスライムはうねうね動いていた。
「食べても大丈夫なんだよ。全部食べなきゃ再生するの」
「そ、そうなんだ……わっ」
 ミルミはおそるおそるスライムをちょんと触って感触に驚く。
「うんうん、ミルミちゃんミルミちゃん……」
 アルコリアはそんなミルミの反応を楽しみながら彼女の頭を撫でていた。
「……っといけない、普通に手伝いに来たのに、無意識におさわりしちゃった」
 鈴子とライナはきちんと呼び込みをしている。
 今日はちゃんとミルミを手伝って、パラ実生を呼び込むぞーとアルコリアは気合を入れる。
 仕事が終わった後なら、存分におさわりだって、ぺろぺろだって出来るんだから!
「シャッチョサン、シャッチョサン、カワイイコイルヨー」
 まあ、屋上にいるのは女の子より、ヒャッハー人の方が多いんだけど。などと心の中で補足しながら、アルコリアは精力的に呼び込みをしだす。
「イマナラダイサービススルヨー、オトクダヨー、シャッチョサン!」
「アルちゃん? なんか変だよ? 意味わかんないよ?」
 ミルミはアルコリアの勧誘文句にきょとんとしている。
「はァ? さっちょさんが可愛い? 何いってんだ?」
 声をかけられた若者もハテナ顔だ。
「ン? ワタシ地球人ヨー、パラミタ語ヨクワカラナイヨー。カワイイコイルヨー」
 構いなく、アルコリアはこの調子で声をかけて、上階を勧めていく。
 若者達は怪訝そうな顔のまま、塔の中へと入っていった。
 ……多分上層階にはいかないだろう。
「うん、これで問題なしだね! やったねミルミちゃん! お客さんが増えるよっ」
「そ、そうかな?」
 ミルミも怪訝そうな顔をしていたけれど、アルコリアの心の中では解決しているので。
「仕事頑張ったね」
 喜びのあまり、アルコリアはミルミをむぎゅっと抱きしめる。
「ハッ!」
 そしてまた手を出してしまったことに気付く。
(いるとついつい手をだしてしまう、新感覚スナック的ミルミちゃん!)
「もしかして、チョコ味する? バレンタインミルミちゃん」
 何の脈絡もなく、頬をはむはむ。
「くすぐったい〜、アルちゃん。お仕事しなきゃ、お仕事〜」
「そうですね。確かめるのはお仕事終わってからですね」
 アルコリアはミルミから離れると、今度は歌を歌いだす。
「ドはミルミのドー
 レはミルミのレー
 ミはみかんのミー
 ファはミルミのファー
 ソはミル……」
「アルコリアさん」
 にこにこにこにこ鈴子がこちらを見ている。
「え? 何? 音痴だった? 別にそんなに歌は苦手じゃないけど……?」
「下手じゃなかったよ。歌詞がおかしかったんだよ」
 ミルミが真面目な顔でそう言う。
「いえ、それ以前に、呼び込みになんの関係もありませんから」
 鈴子はにこにこ笑顔だった。目はあんまり笑ってなかったけど。
「そ、そうでしたか! でもいつもの事です」
「うん、だよね〜」
 ふふふっと、ミルミが笑うと。
「んもぉ、ミルミちゃんはかわいいな! 一挙一動かわいい!」
 我慢ができなくなって。
「にゃー! うにゃうにゃうにゅうにゅー!」
 とことん、アルコリアはミルミを弄りだす。
「うにゃーん、アルちゃん。あははははっ」
 そしていつも通り、じゃれだす2人を見て、鈴子は苦情気味に微笑んで。
「お互いのお世話、よろしくお願いしますね」
 そんな言葉を残して、ライナと共に別の場所に向かって行った。
「にゃむにゃむにゃぁにゃぁ」
「きゃはははっ、おかえしっ、むにゅーっ!」
 その後もはしゃいでいた2人は……。
「何? こんなことしてOKなの?」
「こ、これが百合園生の日常なのかっ!」
「屋上で百合園生ときゃっきゃっうふふっかぁ〜! 行こうぜ!!」
 しっかり客寄せになっていた。