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リアクション
「模擬結婚式にいこっ!」
そう言い出したのは、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)だった。さゆみは、頭の中で自分と、恋人であるアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の花嫁姿を想像した途端--どうしても、一緒に花嫁衣装を着たくなったのだ。
アデリーヌは、さゆみの持ってきたいくつかパンフレットに載っている模擬結婚式の案内を眺め、すぐに了承した。
式場に着くと、早速二人は模擬結婚式の衣装を選び始めた。
「あれも可愛いし、これも着たい! でも、こっちも捨てがたいし……」
さゆみはレイヤー魂が燃えてしまったらしい、様々な衣装を次々と選んでは試着して行く。
そんな気合いの入ったさゆみを見て苦笑しながら、アデリーヌは早めにドレスを選んだ。大人っぽいデザインの、マーメイドラインドレスだ。
衣装を決めたアデリーヌは、ウェディングドレスと白無垢をはじめとし、地球やパラミタ各地の様々な花嫁衣装を着てみているさゆみをぼんやりと眺めていた。
「うん、これに決めた!」
一通り試着して楽しんださゆみは、最終的にプリンセスラインのドレスを選んだ。全体的に可愛い雰囲気でまとめると、さゆみはアデリーヌと共に式場へと足を運んだ。
模擬結婚式が始まった。入場から本格的に進んで行く模擬結婚式に、気軽な気持ちでいたさゆみは驚きつつ、その雰囲気を楽しんだ。
そして、誓いの言葉を交わすことになった時、ふと、さゆみの胸の中に、普段忘れようとしている現実が浮かび上がってきた。
それは、自分と恋人に残された時間の違い。アデリーヌは千年を超す長命、あと数百年は生きるだろう。けれど、一方さゆみ自身はどんなに長命でも百年にも満たない……。
「私、綾原さゆみはアデリーヌ・シャントルイユに、愛を誓います」
永遠の、とは言えなかった。さゆみは、アデリーヌをいつか一人で残して行かなければならないことを、アデリーヌに残酷なことをしてしまったのかもしれないということを思い……胸が締め付けられるようだった。
そんな、思い詰めたような表情のさゆみを見て、アデリーヌは咄嗟にさゆみの考えていることを理解する。
「何も考えないで……今、こうしていることが幸せなのですから……」
アデリーヌは、さゆみを安心させるように微笑んだ。そして、溢れそうになった涙をそっと拭う。
「わたくし、アデリーヌ・シャントルイユは綾原さゆみに、愛を誓います」
お互いの指に指輪をはめた。一つ一つ、今の幸せを確かめるように、丁寧に--。
そして、二人は誓いの口づけを交わした。
永遠を誓えるわけではない。それでも、確かな今の幸せを噛みしめるように。