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【4周年SP】初夏の一日

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【4周年SP】初夏の一日

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6.合宿の夜

 ヒラニプラの東、ヴァイシャリーの南の岬に合宿所として使われていた建物と温泉がある。
 そこに1人で訪れている者がいた。
 早朝に到着を果たすと、取り出した1枚の『1泊2日ダイエット合宿メニュー』と書かれた紙を壁に貼り付けて。
 ストレッチを済ませると、彼女は出発した。
 早朝メニューのランニングに筋力トレーニングを終えて、朝食、休憩。
 掃除がてら、温泉に入って散歩。
 そして昼食。
 その後に、建物の中の今夜使用する部屋を片付け始める。
 数か月間、誰も利用していなかったその場所には虫が入り込み、蜘蛛の巣が張っていた。
「……掃除もいい運動になるわよね」
 そう割り切って、1人で掃除をしていく。
 掃除に必要な分と、今晩と明日の分の水を汲むのは結構大変だった。でも、乗り物を使わず、何往復もして川から建物まで運んできた。
 そうしているうちに、日は落ちていき、辺りが茜色に染まっていく……。

「遅い」
 汗をぬぐいながら、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)を迎えた。
 一人、運動をする亜璃珠のところに、優子が到着をしたのは日が落ちてからだった。
「悪い。仕事が長引いて」
「バカ正直ね……こういうときは、キミの為にお洒落をしていたからとか、料理に時間がかかったとか言い訳するものよ」
 ちょっと膨れて言う亜璃珠に、優子は笑いながらバスケットを差し出す。
「夕食、持ってきたよ。これ用意してて、遅くなったんだ」
「あ、ありがとう。……って、カットした野菜だけじゃない、これ」
 中に入っていたのは、カットした生野菜と、カットもしていないトマトやキュウリだけだった」
「ははは、途中の直売店で分けてもらったんだ。新鮮で美味しいよ」
「まあ、そうでしょうけれど」
 亜璃珠も軽く笑みを浮かべる。
「残りのメニューこなしておいで。簡単な夕食作っておくから」
「うん、行ってきます」
 優子にその場を任せて、亜璃珠は夕食前のランニングに戻っていく。

 野菜ばかりの簡単な夕食をとってから、川の近くにある温泉へと下りていった。
 トワイライトベルト上の、薄闇の中にある温泉だ。
 亜璃珠はその温泉にぐったりと浸かる。
 甘いことなんて何も考えられないほどに、疲れていた。
「見てないところでも、ちゃんと頑張っていたようだね」
 優子が亜璃珠の隣に入ってくる。
「あたりまえよ。夏までに減量するんだから……。目指せマイナス5kg!」
「5kg減らせば、昔の水着が入るんだ?」
「そ、そういう意味じゃないわよ。5kg減らしたって、昔の水着は入りません。女性らしい体つきになったから」
 言って、亜璃珠は優子に寄りかかった。
「ついでだからマッサージもお願いしていいかしら、コーチぃ」
「OK。泣くなよ」
 ふふふふと不敵な微笑みを浮かべる優子に、亜璃珠はぴちゃっとお湯をかける。
「痛くしないで。気持ちいいマッサージをお願い」
「キミが暴れずにいい子にしてたらね」
 優子は悪戯っ子のような笑みを見えた。
「大丈夫、暴れる体力ないもの……」
 ゆっくりそう言って、亜璃珠は息をつく。
 今日一日のことを優子に報告しながら、朝からの自分の姿や、最近の自分の姿を思い浮かべて苦笑する。
「……しかし最高に格好悪いわね、今の私」
 優子にもたれて、目を閉じて亜璃珠は語る。
「遊ぶとき遊んで、締めるとき締める、って言うのが心情だったのに。
 いつの間にかこう……歳とって、良くも悪くも余裕ができたのかしらね。昔はもっとがむしゃらだった気がするけど……何か、早く老けすぎだわ」
「まあ、確かに亜璃珠は落ち着いてきたな」
「お互いどうなのかしら、まだかっこいいままでいられてる?」
 目を開いて、亜璃珠は優子を見る。
「昔のままじゃないけれど、昔よりキミはいい女になったと、私は思うけどね。少なくてもパラ実送り候補になった頃よりずっと」
「そうかしら? ……でも、優子さんの目には、昔よりいい女に映っているのね」
 くすっと軽く笑った後、亜璃珠は言葉を続ける。
「私の中でのあなたは……そうね、いつまでもよ。いつまでも堅物で分からず屋のまんま」
「随分な言い方だな」
「誠実で芯が通っているとも言うわね」
「ずっと、そうありたいものだ」
「……やっぱり、変わるつもりないのね」
 苦笑する亜璃珠の肩に手をついて、優子は立ちあがって。
「さて、そろそろあがろうか。続きは部屋で話そう。いつ眠ってもいいように」
 そして、優子は亜璃珠に手を差し出した。
 女性にしては逞しいその手を掴んで、立ち上がり、亜璃珠は湯からあがった。

 優子にちょっと痛いマッサージをしてもらい、そのまま眠りについて。
 翌日は彼女の指導のもと、きついダイエットメニューを完璧にこなして。
 十分な成果を収めて、優子と共に亜璃珠はヴァイシャリーに帰還した。