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第16章 シリウスの決意

 用事を終えて、ヴァイシャリーの街中を歩いていたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、ふと空を見上げる。
 雲は無く、月と星が静かに美しく輝いている。
「少し付き合って欲しいんだ、相棒」
 彼女の隣には、パートナーのリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が在った。
 リーブラは、空に輝く月のように静かに彼女の隣にいた。
「別にノンアルコールでいいんだ……オレも、明日に残る飲み方はしないし」
 視線を下ろして、シリウスは立ち並ぶ居酒屋を見てから、リーブラを見る。
 彼女の思い詰めたような表情に、リーブラはくすりと笑みを浮かべ、冗談めかす。
「どうぞ、相棒。でも、御代は持ってくださいな?」
「……ありがとう」
 シリウスの顔に、弱い笑みが浮かんだ。

 飲み歩くことが多い為、この辺りの居酒屋のことは良く知っている。
 今晩は少し高級な、落ち着いた雰囲気の店を選んだ。
 シリウスはスピリタスをトワイス・アップで。
 リーブラはミュート(蜂蜜酒)を注文して、カウンター席で並んでゆっくり飲み始める。
 普段なら、豪快に飲むシリウスも、今日はゆっくりちびちびと飲んでいた。
「白百合団の方……だいぶデカいヤマになりそうだ」
 自分の方を見ずに、呟きの様に語られる言葉を、リーブラは黙って聞いていた。
 リーブラも白百合団に籍を置いているため、事件の事は知ってはいた。
「……オレは足場固めの方で手伝おうと思ってる」
「……」
「みんな、それぞれに頑張ってて……オレもそろそろ腰据える頃かなってな」
 ちらりとリーブラを見て、僅かに自嘲気味な笑みを見せる。
「今のオレってお前以上に根無し草だしさ……そりゃ、音楽とか、ミルザムと組んでやってみたいとか夢はあるけど、それも平和になったらって話だし。
 まず現状をどうにかするのにさ」
 グラスに口を付けて、また少し酒を飲み、大きく息をついて続ける。
「いつまでも『なんでも一流半』でフラフラしてるってのも、一生懸命な皆に悪いかなって思うようになってきた」
 リーブラはシリウスの話を、ゆっくり酒を楽しみながら聞いていた。
 彼女はただ聞いて欲しいだけなのだろう。
 だけれど、わざわざこうして自分を誘い、口に出しているのは……迷いがあるからだろうと、リーブラは気付いていた。
「一流半なりに、本気で打ち込んでみようか、ってな……」
 そんなシリウスの言葉に、どう答えるべきか、リーブラも迷ってしまう。
「……わたくしはティセラお姉さまに尽くすと決めて、シリウスもそれを認めてくれました」
「ん? ……ああ」
「わたくしも、あなたの決意は尊重したいですわ……ですけれど……」
 親しい自分だけではなく、客観的な意見も聞いてみたいと、リーブラはふと周囲を見回した。
「マスター、ジントニックをお願いします」
「あの方は……」
 そして、少し離れたカウンター席に座ろうとしている見たことのある女性に気付く。
 リーブラはすぐに立ち上がって。
「百合園女学院の方ですよね。よろしければ一緒に飲みませんか?」
 その女性――ラナ・リゼット(らな・りぜっと)を誘ったのだった。
「あ、白百合団の方ですね。団長とコーチの件、心配ですね」
「ああ、その件は、知れ渡ってるよな。どうにかしねーとな……」
 ラナが近づいてくる。シリウスは自分の隣の席を指差して彼女を招く。
「悪い、今日は楽しい飲みじゃないかも」
 そしてラナが頼んだジントニックが届いてから、先ほどリーブラに話した自分の思いについて――迷いの含む思いを語ったのだった。
「やりたいこと、成したいことがあっても、種族や性別、立場で、出来ることって限られてしまいますよね。そして年齢でも。
 若いころは、目指せば何でも叶えられる気がして、やりたいことに思うが儘夢中になっていたかもしれません。
 大人になって、自分に出来ること、この世界で自分が成せることが見えてきてから。
 それから、本気で打ち込めるものを、自分の道を決めることが出来るのかもしれないです」
 3人の酒を飲むてはほとんど止まっていた。
「本気で打ち込んでみてはいかがでしょう? 今があなたの人生のターニングポイントかもしれません」
 ラナはかつてシャンバラ人だった。
 その頃は、自由騎士として騎士道を貫いて生きていた。
 しかし魔鎧となった今、同じ生き方はかなわない。
 現在は吟遊詩人として、新たな道を歩んでいた。
「大丈夫です。失敗しても、挫折しても、命ある限り、道はまた開けます」
 そんなラナの言葉に、シリウスは強く頷き。
「サンキュー、なんか力が湧いてきた」
 先ほどより強い笑みを浮かべた。
 出来ることも、すべきことも沢山ある。
 何から始めればいいか、何をすればいいのか、迷うこともあるだろうけれど……。
 全力で立ち向かう決意を、シリウスはしていく。
 それは、玉砕覚悟でぶち当たることではないと、もう知っている。
「そしてまた、美味しいお酒を飲みましょう」
 彼女の隣で、リーブラは優しい微笑みを浮かべて、見守っていた。