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第13章 ゴンドラに乗って

 任務の帰りにヴァイシャリーに寄ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)とパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、今晩はこの街で一泊しようと話し合い、ホテルを決めてから夕食を食べに外に出た。
 食事を終えてから――。
 月がとっても綺麗だったので、月見団子を街角で買い、月を見ながら遠回りして帰ろうとしていた。
「……っと」
 団子屋から出ようとしたルカルカは、勢いよく入ってこようとした女性とぶつかりそうになってしまう。
 しかし俊敏な動きで女性を避ける。同時に女性も華麗なステップでルカルカを避けていた。
「おばちゃん、みたらし団子ちょうだい!」
 明るくカウンターの老婆に言ったその人物は高根沢 理子(たかねざわ・りこ)、だった。
 変装していたが、ルカルカにはバレバレだった。
「今日はヴァイシャリーにいらしてたのですね」
 そっと声をかけると。
「あ、バレちゃった」
 えへっとばつが悪そうに、理子は笑った。
「SPもつけずに、外出ですか?」
「う、うん。ここのみたらし団子がどうしても食べたくなって。それに……」
「月がとても綺麗だったから、でしょうか?」
 ダリルがそう言うと、理子はうんと首を大きく縦に振った。

 少しだけ、一緒に月を観ようという話になって。
 買ったばかりの団子を持って、ゴンドラに乗って湖に出た。
 ルカルカと理子が団子と月見に夢中になる中、ダリルは月光のルクスや、見える星の等級について解説していた。
「ふふ、外付け音声ガイドみたいね」
 空に向けていた視線を、ルカルカはダリルへと戻した。
「迷惑だったか?」
「ううん、いつも助かってるよ」
「パートナー兼解説者っていいよね。気を遣わなくていいし」
 みたらし団子を食べながら理子が言い、ルカルカは笑顔で頷く。
「一家に一台欲しい存在だわ」
 そう理子が笑うと、ダリルは少し複雑な気持ちになる。
 褒められているのだろうかと。
「一応、礼を言わせていただこう」
 言って、照れ隠しの様に茶を口に運んだ。
「それにしても……護衛を付けずに出歩いたら、危険ですよ。襲われてもさくっと撃退してしまうとは思っていますけれど」
 それでも油断はしないでくださいねとルカルカは理子に言う。
「神を凌ぐ勇者ですら、葉っぱ一枚張付いてたせいで命を落すのですもの……」
「はーい。そちらもね! あたしと違って、変装してないけど大丈夫なの?」
「ルカ達は……顔は知られてるかもしれないけれど、危害を加えても、得する相手はいないですから」
 本当は、代王の理子にも、軍人にも、良くない感情を抱いている国民が存在することは、哀しいけれど、知ってはいる。
「でもま、今は一緒にいるから平気だね、互いに」
「え、勿論です!」
 ぐぐっとルカルカは拳を握りしめてみせる。
「私がお傍にいる時は、お守りしますから」
「……お前は普段は何所か抜けてるからな。足を引っ張らないか心配でならなんよ」
「わあん、酷ぉい」
 うううっと、ルカルカは顔を手で覆い「信頼されてない……」と、悲しげに泣き出した。
「まて……泣くほどのことを言ったつもりは……」
 ダリルは困惑しながら、ルカルカを慰める。途端。
「バアっ!」
 と、ルカルカが輝く笑顔を見せた。
「ルカ……ッ」
「あははははっ」 
 そんなルカルカとダリルのやり取りを、理子は笑いながら見ていた。
「うーん、美味しかった!」
 みたらし団子を食べ終えて、お茶をごくごくと飲むと。
 理子は再び、空を見上げる。
 今日は、満月だった。
 街の明かりの届かない場所に出ており、夜空の自然の明かりだけが、ゴンドラに降り注いでいた。
 そして湖にも。
 湖の中にも、月が浮いているかのように幻想的に映っていた。
「パラミタの月の模様は何に見えますか?」
 同じように空を見上げながら、ルカルカが理子に尋ねる。
「そうねぇ……勝利のVサインかな!」
「ふふ、そう思うと元気が出てきますね。ダリルは?」
「何と言われてもなあ」
 そういう目で見たこともなかったしと、考えながらダリルも月を見上げて。湖面の月をも見て。
「うーん、ゾディアック……かな」
「えっ!」
 ルカルカが月を凝視する。
「中央から腕を伸ばして、こう……」
「おー、なるほどー」
「はははは、面白い発想」
 ルカルカと理子の反応に、ダリルはちょっと赤くなった。

 30分ほど、ゴンドラで月見を楽しんだ後。
 ルカルカとダリルは理子をホテルまで送り届けた。
 それから、自分達の宿泊するホテルへと歩く。
「街中からもはっきり見えて、ホント綺麗……」
 ルカルカは月を見ながら。
 ダリルは、月と、ルカルカが転ばないよう、彼女の進む道を見ながら。