First Previous |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
Next Last
リアクション
【17】
「……ま、そのうち誰かが助けてくれるのネ〜」
キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)はお気楽なものだった。
と言うか、どうして自分が呼びよせられたのか、なんとなくわかるのである。
それは自分が人気者だからだ。
その輝かしい経歴を見てみよう。
『2022年 蒼フロ総選挙!』でPC部門4位。『蒼フロ総選挙2023 + 蒼フロ大辞典第二版!』PC部門6位。
これだけたくさんの人に指示されている自分を、ぽっと出のゲームメーカーが客寄せに欲しがるのはわかる話だ。
「でもこういうのはちゃんと契約書を交わしてからにして欲しいのヨネ〜」
ま、招待してもらったのだから、自由に見て回らせてもらお、と。キャンディスは変態に溢れ返る町を散歩して回った。
こんだけおかしな連中がいるのだから、異変に気付いても良さそうなものだが、彼女は「可愛くないキャラネ〜」と微塵も気付く気配がなかった。
そのうちにお腹が空いてきた。
どこかランチを食べれるとこはないかと探し回るが、残念ながら、そういう機能は実装されていないのでお店がない。
困り果てたその時、ふと鼻をくすぐる良い匂いが。
通りの外れに、一軒の屋台がある。
佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の屋台だ。
料理自慢の弥十郎は、近頃は普通の料理を作るのにも飽きて、モンスター用の料理の可能性を模索している。
対ゴブリン用ほっぺたが落ちるコーンスープ。
対オーク用ダイエットこんがり肉。
万能用体からキノコが生えるパンなどなど。
なんでそんなものを? と言う人もいるけれど、人間だってモンスターだって美味しいものを腹いっぱい食べたいと思う気持ちは同じ。
美味しいものを食べれば、皆笑顔がこぼれる、そこに種族の違いはないのだ。
だったら自分がモンスターに笑顔を与えることをしよう。
弥十郎と兄の佐々木 八雲(ささき・やくも)が変コレ世界に放り込まれたのはそんな矢先。
ヴァーチャル空間で粛々と新たなレシピを考案していたところ、AIに捕まってしまったのだ。
しかし、この世界は世界で面白い。モンスターとは違った変ムスという新しいお客さんがいるからだ。
お腹を空かせた人がいるならば、その人のために腕を振るう。
「いらっしゃいませ」
お客を迎えるのは八雲の仕事。
訪ねてくるお客は一筋縄ではいかない変態ばかりだが、弥十郎は一人一人、何を求めているのか観察して料理を振る舞う。
殺人狂の客には『対殺人狂用ローストビーフ』。
肉にナイフを刺した時に滴る肉汁で大量出血を再現。しかも低温調理法を用いて、見た目も好みな状態に。
ミリタリーオタクには『対ミリタリーオタク用ミリ飯』。
世界の軍隊も絶賛する日本仕様のレーションを再現。牛肉の時雨煮、たくあん付き。何故か、ロシア仕様の粉末ミルクとミートパテもあるこだわりだ。わざわざ缶切りを使用しないと開けられないようにし、相手の心をわくわくさせる遊び心も。
ガンマニアには『対ガンマニア用チョコレート』。
ガンマニアの心をくすぐる銃を細部までチョコレートで再現。コルトガバメントM1911は、グリップを握った時のフィット感にまでこだわる徹底振り。しかも、構えた時に人差し指と親指の間にくる安全装置をしっかりつかまないと食べられない仕様だ。
キャンディスも何か頼んでみることにした。
「お客さんには……」
弥十郎はしばしキャンディスを見つめ……閃いた。
冷蔵庫から食材を出し、コンロに火を付け、手際良く何かを作り始めた。
わくわくして待っていると、完成したのは肉料理だった。
薄切りにした肉に、デミグラスソース。付け合わせの野菜は彩りも豊かにクレソン、ミニトマト、ラディッシュ。
しかし食べてみるとちょっと違う。肉と思ったものは肉じゃない。
「美味しいけど……これなんなのヨ?」
「豆腐を原料に肉に見立てたものです」
「へぇ豆腐? 色とか食感とか本物そっくりなのネ。手が込んでるのヨ」
「その名も『対ぱちもん用子羊のコンフィ』です」
「ぱ、ぱちもんってどういうことヨ!」
ろくりんくんのぱちもんである彼女にはピッタリの料理だ。
美味しい料理の力もあって、キャンディスのレアリティが【コモン→パチモン】に。
「なんなのヨ、そのレアリティ!」
続いて、店に来たのはレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)とミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)。
席に座った2人はおしぼりで手を拭きながら、こう言った。
「それにしてもなんなんでしょうねぇ、変態って……」
「レティはさておき、私には縁のない言葉ですね」
「私にも縁のない言葉ですよぅ、純情可憐な乙女ですからねぇ。もしかしたら何かが好きな人って意味なのかもですよぉ……そうなると、私はピヨ好き変態、かわいいもの好き変態ってことになるかもしれませんねぇ」
「そんな生易しいものならいいのですけど……」
そうこうしていると料理が到着。出された料理はなんとも庶民的なフルコースだった。
焼きそばにラーメン、カレー、フルンクフルトに唐揚げ、フライドポテト……と主食が何故か三つも。
「美味しいですけどぉ高カロリーなものばっかりですねぇ。なんだか海の家のメニューみたいですぅ」
「流石、お客さん。よくわかりましたね。『対夏になるたびに変態水着イラスト頼んでる変態用海の家スペシャル』なんです」
ぶほっ! とレティは喉を詰まらせた。
「げほっ! げほっ! な、なんですかぁそれ! 知らないですぅ!」
しかし証拠の品は上がっている。
これとかこれこれとか、あ、これなんて大分変態っぽい……。
レティのレアリティが【コモン→アンコモン】になった。
「ひええ! ミスティもなんとか言ってくださいよぅ!」
「あ、美味し……」
ミスティは知らん顔でラーメンをすする。
とその時、外に変ムスが集まってきた、美味しい料理の噂を聞きつけて……ということなら歓迎するところだが、残念ながら客ではないようだ。
難癖をつけて挑発してくる彼らに、八雲は臆することなく応対する。
「お客さん困りますよ。ここは食事をする場所なんですから」
「なんだてめぇは……!」
「なんだはこっちの台詞だ!」
「!?」
胸ぐらを掴まんばかりに迫ってくる変ムスを止めたのは、店の客の変ムスたちだ。
人間とモンスターの垣根を美味しい料理が取り去ってくれたように、弥十郎の料理の虜となった変ムスたちが味方してくれるようになった。
しばしの乱闘の末、後から絡んできた連中がボッコボコにされた。
八雲は彼らは椅子に縛り付けていく。
「……な、なんの真似だ?」
「それより口直しはどんな料理がお好みです?」
「は?」
「どんなオーダーもできますよ」
八雲はニッコリと微笑んだ。
First Previous |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
Next Last