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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
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【理由も思いもそれぞれに】


「パラミタに来てから『くりすます』について沢山学んだつもりでしたが……、様々なお祝いの仕方があるのですね。
 私、この度は子供達に喜んで頂く為に少しでも皆様方のお役に立てるよう、不肖ながら誠心誠意ぬいぐるみ作りに勤しみたく。
 お裁縫でしたらお任せ下さいまし」
 拳を握ってそう言うフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の意気込みは良かったのだと思う。
 実際ニンジャとして武器扱いや技術にも長ける彼女は手先が器用でもあったし、料理だって和食は作れる。勿論裁縫の類も和裁だけなら出来るのだ。和裁だけなら。
「これは……なんでしょうか?」
「……なんでしょう」
 作品が完成した興奮に頬を紅潮させフレンディスを前に、豊美ちゃんは「あはは」と笑う事でお茶を濁す事しか出来ない。
 元々自主性の欠ける性格のフレンディスが、縫い目こそ綺麗なものの乏しい発想力で作り上げたぬいぐるみは『なんだかよく解らないけど、フレンディス的に可愛いと思っているのかもしれない謎の怪生物』としてこの世に生を受けたようだ。
「えっと、個性的な作品で私はいいと思いますよ」
 フレンディスの作品をそのように評する豊美ちゃん。取り敢えずこれを子供達にそのままプレゼントするかどうかはキリハに判断を委ねるしかないだろう。
(なんとなく、ジゼルさんの作られているものと雰囲気が似ている気がしますねー)
 そう思いながら豊美ちゃんの視線が、ジゼルの作っているぬいぐるみへと移る。やはりこういうとこで馬が合うのかフレンディスの親友の彼女もまた、ややグロテスクな深海の生物を量産しているところだ。
 あれもまた子供にプレゼントするには不安だったが、監修役のキリハ先程例のパラミタダイオウグソクムシを見つめながらこう言っていた。
 「えと、これは虫、でしょうか? それとも魚でしょうか?
 私は初めて見るので、よくわからないので詳しく教えてください。子供達に説明できないことはできるだけ避けたいので。
 あと、荒野では見ない形なのでとても珍しがると思います」
 そうして最終的にキリハは「えと、あれですよね。きもかわ系ですよね?」と遠慮がちに評していたのだ。それにナオ達の反応を見ているに、少年達にはウケがよさそうだ。取り敢えずはフレンディスの作品作りだけでも手助け出来れば、と、豊美ちゃんはフレンディスに向き直る。
「フレンディスさん、よければ私たちと一緒に作りませんか?」
「はいっ」
 別にそこまでしなくてもいいのだが、片手を高くあげて豊美ちゃんについていくフレンディスに、忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は一匹「ふむ」と唸っていた。
 ポチの助にとっての二大ご主人様フレンディスとアレクが揃うとあらば特に用事が無くとも、忠義の心だけでついてきたのだが、あんな風に真面目に仕事をしている皆を見ていると、ただベルクに毒づきながら座っているのも手持ち無沙汰な気がした。
(僕も何か作ったほうがいいのでしょうか)
 フレンディスが残した材料の布を広げて、これで何か作れないものかと思案した。
(これなら色もサイズも豆芝にぴったりですね……)
 作るものは決まったとして、あげる相手は誰が良いだろう。
 否、思い当たるのはたった一人、最近気になる『あの子』の姿だけだ。
 それからは時が忘れる程集中して作品作りに没頭していた。ポチの助を現実に戻したのは、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の呟きだ。 
「フレイは当然ジゼルが参加する以上来たがるとして……、まさかポチまで率先して縫い包み作成するとはな」
「む? そこのエロ吸血鬼は勘違いするなです!
 僕はこの獣人化しても変わらない犬の優秀な手先の器用さを駆使してご主人様達のお手伝いをしているだけなのですよ。
 この縫い包みは……せっかくだから練習ついでに作っただけなのです。
 というより僕に構う暇があるのなら奴隷の如く働いておいて下さい」
 ぷいっと横を向いてしまうポチの助にハイハイとばかりに立ち上がって、目的無く歩き始めたベルクは、背後の気配と頭の上に乗った温度にピタリと足を止めた。
「ぶっかけるのと飲むのとどっちがいい?」
「飲むよ」
 頭の上から慎重にカップを受け取って、部屋の隅の椅子に腰を下ろすと、次いで肘掛けに体重を預けながらアレクはベルクのカップにキャンディケインを入れてきた。
「マドラーだよ、使うだろ」
「使わねぇよ!」
「折角ポチの助にやろうと思ったんだけどなぁ……」
「お前これっ犬のお菓子か! キャンディじゃなくて!?」
「うん、クリスマス限定ほねっぽん。あの姿だと投げるのに気が引けて」
「そんなところに気を遣えるんなら人様のコーヒーに突っ込むなよ!」
 心底楽しそうに肩を震わせ始めたアレクの子供染みた悪戯に諦める事で目を瞑って、ベルクはコーヒーをひと啜りしながら呟いた。
「しかしクリスマスか……」
 渋くて、苦い顔だ。ミルクは入れてやったのに。
「Should I...?」
 〜したほうがいいかの頭だけで聞いてきたアレクに、ベルクはボソボソと、蘇るクリスマスの苦い思い出たちを口から吐き出してゆく。
「一昨年は……フレイがクリスマスを学習中。
 某悪の秘密結社幹部を理不尽に虐め倒してた」
 向こうで何かを作っている某悪の秘密結社幹部の妹の後ろ姿に向かっていたアレクの視線が戻ってくるのに、ベルクは続ける。
「昨年は24日にフレイが学んだ内容が、
 某戦乙女による『武闘派サンタと従者トナカイ伝説』という頭の悪い嘘知識というのを知って、知識修正している間にムード壊滅」
「当日はどうした」
「『お泊り』で――」
 感嘆の声を上げたアレクだったが、ベルクのボソボソはここからいよいよ重く低くなっていく。
「手を出す合意を得てる筈なのに涙目で小動物化されて「いやこれ手を出すの無理すぎる」っつー……」
 どよーんと肩を落としたベルクを見て、アレクは思った。
 クリスマスは救い主の降誕した日で有るのに、こいつには救いようが無い日なのだろうと。危なっかしい面子を支えてきたただ一人の突っ込み役の事情を知れば、流石に同情したくなってくる。
「ベルク、あのな」
 遠い目をしていたベルクがのっそり顔を上げるのに、アレクは言う。
「パラミタではクリスマスって言うと日本のそれの印象が強いから、24とか25って言うみたいだけど、合衆国ではクリスマスってどっちかって言うと、始まる迄が大事で、アドベントって期間な。子供はカレンダーに入ったお菓子食ったり、ハインツのところ行くとシュトレンとか食うし、つまりその辺りからクリスマスに入ってるんだよ。
 それから俺の国では、クリスマスは25日よりももっと後だ。二週間も。7日な。1月7日が祭日。だから別にいいんだぞ、クリスマス当日が悲しい思い出になったとか気にしなくても。この辺の期間は大体クリスマスだと思っとけば、――少なくとも今日は平和だろ?」
 アレクの言葉はやや的外れな感じもするが、これ以上に掛ける言葉が無いというのもあるのだろう。ベルクは再び遠くを見て、「なんつーか……」と口を開く。
「…………ありがとう」
「うん、元気出せ、大丈夫だから。な?」
 珍しく同情される事で余計に傷を深くしているような気もするが、そんな事を考えれば余計に虚しい。
 ベルクはカップの中のキャンディケイン(の形をしたほねっぽん)を回しながら、微妙な笑顔で溜め息を吐き出すのだった。