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パラ実分校種もみ&若葉合同クリスマスパーティ!

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パラ実分校種もみ&若葉合同クリスマスパーティ!

リアクション

 ごめん、と目の前ですまなそうに手を合わせる高根沢 理子(たかねざわ・りこ)に、
「気にしないで」
 と、酒杜 陽一(さかもり・よういち)は苦笑した。
「何とかならないかなって、あたしもねばったんだけどやっぱり抜けるのは難しいみたいで。でも、誘ってくれたことは嬉しかったって言ってたわ。今日はあたしで勘弁してね」
「そんなこと言わないでください。かえって申し訳ない。こちらこそ今日はよろしく」
「ありがとう。ところでジークリンデは? 来るのよね?」
 待ち合わせの時間は過ぎているのに姿を見せないジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)を探し、理子はきょろきょろする。
「ジークリンデ様はさんに雇われて厨房でバイトしてます。そろそろ来ると思うけど……」
 陽一が答えた時、ジークリンデがミニスカサンタと天使を二人伴なってやって来た。
 二人の天使──歌菜羽純が二台のワゴンで料理を運んできた。
「待たせてごめんなさい」
「ジークリンデ、がんばってるのね」
「菊さんに休憩をもらったの。あの人、持ち帰り用のお弁当まで作ってるのよ。すごく手際が良いの」
「さ、校長先生も座って。ケーティ、ワインをよろしくね」
 歌菜に促されてジークリンデも席に着き、ケーティこと武尊がワインをグラスに注いでいった。
 歌菜と羽純が並べていく料理に、理子は歓声をあげた。
「何かすごい豪華ね! シチューに唐揚げにステーキに、骨付き肉まであるわ。これはかぶりつけってことよね?」
「かぶりつくの? ガブッと?」
 目を丸くする酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)に、理子ははっきり頷く。
「これはそうやって食べたほうがおいしいと思うわ。陽一もそう思うわよね?」
 突然同意を求められ、陽一は返事に困った。
 ここにいる二人は、仮にも西シャンバラ代王と元女王だ。
 手や口周りを汚して食べるのはどうだろうかと思わなくもない。
 しかし、理子の目が「同意しろ。頷け」と強く訴えている。
 ここで否定すると後で何をされるかわからない。
「たまにはいいんじゃないかな。ここはほら、格式ある場でもないし」
 陽一は折れておくことにした。
 理子は満足そうにしている。
「お食事の後にはケーキをお持ちしますね。ごゆっくりどうぞ」
 歌菜の言葉で、ミニスカサンタと二人の天使は静かに下がっていった。
 陽一がワイングラスを軽くあげると、四つのグラスが響き合う。
 最初に唐揚げに手をつけた理子が、ふと首を傾げた。
「これ、何のお肉? あんまり鶏っぽくないわね」
「瑛菜が持ってきたお肉よ。貴重なものなんですって。食べると勇気がわいてくるとか」
「勇気か〜。戦いの前に食べると良さそうね。それにしてもおいしいわ」
 ジークリンデの説明に頷き、理子はパクパクと食べていく。
「ジークリンデ様は料理も得意なのですか?」
 陽一が聞くと、
「得意と言うか、飲食店でバイトしたことあるのよ。飲食店では簡単な調理と店内の掃除が基本だったわね」
「店はどこも綺麗でないとお客が入りませんからね。特に飲食店は」
 掃除、と聞いた理子の顔が歪む。彼女は掃除が苦手だった。
 ジトッとした目が陽一に向けられる。
「それはあたしに何か思うところがあっての発言……?」
「そんなわけないじゃないですか。ほ、ほら理子さん、シチューがおいしいですよ。冷めないうちにどうぞ」
「あたしだって、散らかすだけじゃないのよ。片づけてるんだけど、その端から物が落ちて壊れたりで……」
「ちょっと運が悪かっただけですよ」
「落ちても割れない壺とかないかしらねー」
「プラスチックにしたらどう?」
 ジークリンデの提案に思わず笑った。
 理子は掃除へのコンプレックスがけっこうあったのか、一通り吐き出していた。
 これが勇者の肉の効果かどうかはわからない。
 けれど、理子とジークリンデの会話がだいぶ気安くなっているように陽一には感じられた。
 この後のケーキによって、脱ぐの脱がないのという騒ぎになることを、彼らはまだ知らない。


 パーティの運営に精を出す人達のように影で働いている人は他にもいた。
「老いも若きも男も女も、宴の参加者が楽しむ様をこぼさず残すのだ。だが、こちらから顔を作らせてはならぬぞ」
 深紅のビロードマントを羽織り撮影隊を指揮する織田 信長(おだ・のぶなが)
 又吉とは別の方向からドキュメンタリー映画として作成を試みていた。
 撮影スタッフもふだんのような適当な服装ではなく、パーティの場に浮かないようなものを選んでいる。選んだのは信長だ。やや派手だが悪くはない選択だった。
 信長の頭の中に、すでに映画のオープニングは決まっている。
 若葉分校に増設した金鯱の輝く城郭を出す。
 一階部分のみの建築だが、撮る角度しだいでいくらでも見栄え良く見せられるはずだ。
 ふと、信長はレーザーを発する派手なツリーのてっぺんに誰かが立っていることに気がついた。
「む。そこのお前、あの人物を撮るのだ」
 近くにいた撮影スタッフに指示をだす。
 カメラはツリーを下から上へとゆっくり角度を上げていった。
 てっぺんにいたのはジーザス・クライスト(じーざす・くらいすと)だった。
 彼は今、とても不思議な気持ちでそこに立っていた。
 今日が自分の生誕日であることは、種もみ学院側にも若葉分校側にも言った覚えはない。
 それなのに、彼らは合同で生誕祭を企画し、多くの人々を集めた。
「本当にどこで知られてしまったのか……。だが、嬉しいものだな」
 ツリーのてっぺんに立ってみろと言ったのは南 鮪(みなみ・まぐろ)だった。
 意味もわからず上がってみたが、こうして人々が無邪気に楽しんでいる様子を見ていると心が晴れやかになっていく。
「なかなか良い見晴らしだねぇ。人の子らに祝福を。今後の道程に祝福を」
 この愛しい人の子達のことをブログに書こうか。
 ジーザスは慈愛に満ちた眼差しで地上の人々を見渡した。
 撮影していたスタッフは、ジーザスに後光が差していく様子に息を飲んだ。
 思わずカメラから目を離し、眩しそうにジーザスを見上げて胸元で十字を切る。
「神よ……」
 彼はアメリカ出身のクリスチャンだった。
 やがて、讃美歌が会場に流れ出した。
 ジーザスの歌声だ。
 ギターと歌声がまるでマイクを通しているように響き渡る。
 神々しさに目が眩んでいる彼にはわからなかったが、信長にはジーザスがマイクを持っている姿がはっきりと見えていた。
「あの伴天連も良い演出をするではないか。──おい、おぬしはどこへ行くつもりだ」
 別のスタッフがコソコソとひと気のないほうへ行こうとするのを、信長は目ざとく見つけた。
 彼はヘヘッと笑う。
「向こうにカップルがしけこんだんでさァ。おもしろいモンが撮れますぜ」
「野暮なことをするでない。それよりも、ほれ、向こうでサンタから贈り物をもらって喜んでいる童(わっぱ)の姿でも撮らんか」
 信長が指すほうには、サンタクロースに扮したカンゾーが、武尊から預かったプレゼント袋から出したクリスマスプレゼントを子供達に手渡ししている姿があった。
「俺はあっちのほうがいいなぁ」
 と、スタッフが指すほうには、竜司に一日奴隷に指名されたチョウコが超ミニスカサンタ服の裾を悪戯っ子達にめくられそうになっている姿が。
 このきわどい服は竜司の指示によるものだ。
「……ま、ちょっとしたお色気シーンだな」
 信長のこの言葉により、スタッフはチョウコの撮影を始めたのだった。
 その頃鮪は瑛菜を捕まえていた。
 またぱんつを狙ってきたのかと警戒する瑛菜に、
「今日は違うぜェ〜。もっとまともな話だァ〜。ま、狙ってるのはお前そのものだがなァ〜!」
 と、ニヤリとする。
 鞭に手をのばそうとする瑛菜をなだめ、鮪は話を切り出した。
「お前、映画の女優と映画に使う音楽の作曲演奏しねぇか?」
「それ……本気?」
 まさかの勧誘に、瑛菜は目を丸くする。
「俺はこれでも真面目に映画製作に取り組んでるんだぜェ。だいたいお前も、このまま地味なことしてても陽子さん達P−KOの御方々の足元に到達することもできないぜ。向こうも映画とか撮ったりしてただろうが」
「そういえばそうだったね。映画の音楽か……それ、どんな映画?」
 興味を示した瑛菜に、鮪は頷いて答えた。
「今んところ、練習用に短い映画撮ってるぐらいだな。ほら、今も信長が指揮して撮ってるだろ。これは後で編集してネットに公開する予定だ」
「ネット公開すれば、たくさんの人の目に触れるよね」
「当然だ。これからもこんな具合に短編を撮ってくぜ。しばらくはな。そいつの音楽をお前が作る。いい勉強になると思うぜェ。──ま、女優の時はちょっとしたお色気は頼むかもしれないがなァ〜。ヒャッハァ〜!」
「お、お色気は他の人に頼んで! そういうのはパス!」
 盛り上がる鮪の勢いに流されまいと、声を張り上げる瑛菜。
 鮪はそんな瑛菜の周りをニヤニヤしながらゆっくりと歩く。
「いい線行くと思うがなァ〜。ダメなのはアレか? たとえば、この目出度い日に色気のねぇパンツはいてきたからかァ〜? ……ああ、これじゃダメだなァ〜」
 ふと見ると、鮪の手には瑛菜のパンツが!
「せめて、今はいてるくらいのにしとけよォ。ヒャッハァ〜!」
 思わずスカートの中を確認した瑛菜が見たのは、新品の高級パンツだった。
「あんた……それ返せーッ!」
 怒り狂った瑛菜が鞭を飛ばすが、鮪は笑いながらヒョイとかわし、パーティの人ごみの中へ逃げていってしまった。
「あいつ、次に見かけた時は種もみの塔のてっぺんから吊るしてやる! ……でも、映画音楽の件はオッケーしとこ。女優はやんないけど」
 瑛菜は、新しい世界に期待をふくらませた。
 いつの間にか歌は終わっていた。
 ジーザスの姿を探すと、彼はパーティのテーブルを訪ねてはワインやパンや魚を振舞っていた。
 その対象は人間に留まらず、美由子が連れてきた動物たちにも及び横柄な態度のアルミラージにさえ寛容だった。
 そんなジーザスはたちまち人気者になり、彼の手もプレゼントでいっぱいになったのだった。